1-1.定められた運命
スケリアの王アレテスと妃アルシノエの間に、男子が生まれた。アルシノエは産褥のために彼岸に渡りかけたものの、死神はそれを追い返した。母子が健康を得た頃、夫妻は海神の神殿に詣で、子を授かり母も長らえたことを感謝して供物を捧げた。そしてその名前をナウシスと付けたことを言上し、どのような運命にあるかお聞かせ頂きたいと続けた。スケリアの王族たちは、願わくば海神の加護を得んものと、子が誕生するたびにこのようにするのが習いだったからである。
このとき、夫妻の言葉に応えて――と老人は語ったのであるが――神殿の奥、特別な神官以外には王も入れぬこととなっている神域より、託宣が聞こえたという。それはこのようなものであった。
「哀れなり、汝ら得たるは、定命を果たさぬ子の故に。
身の盛れる齢にも、決して達さぬべし。
その子王たる位を手にせば、暗き海へと持ち去らん。
人倫から離れて尚、理に至ることなき高貴なる心と共に」
夫妻はこれに恐れをなし、王宮に帰ってからも打ち沈んでいた。だが、その悲哀は、アレテスにとっては、実のところそれほど深刻なものでもなかった。神託によって告げられた以上どうにも出来ぬと考えたからでもあり、またすでに、年長で器量も申し分のない、もう一人の息子がいたからでもある。
王宮で夫妻は話し合い、長く生きられぬというのは実に哀れであるから、できる限り手を尽くして、生きている間は心配事もなく楽しませようと決めた。一方で、王位を得れば海に持ち去るというのは、長子を差し置いて王位に就かせてはならぬ、そうなればその命を縮めて海に落とすという警告であろうと考え、これまでと変わらず、長子を跡継ぎとして確かめた。こうして、ナウシスは愛情を注がれるとともに、王位の継承者たる兄とは明確に区別して扱われた。とはいえ実のところ、あの託宣がなかったとしても、夫妻はこのように生まれた我が子を育てていたことであろう。
やがてナウシスは成長し、その公平で慈悲深い見識は子供ながら一目置かれ、野山を駆け巡り海川を泳ぎ回ることは衆に抜きん出、眉目秀麗な様は、幼さ故の愛らしさを多分に持ち合わせながら、将来の精悍たる容色を強く予感させるものであった。生まれてから十一年が経ち、そうした特質が明らかになってくるにつれて、母のアルシノエの情愛は深くなると共に、神託の告げた我が子の運命が、ますます哀れに思われるのだった。