0-2.残された言葉
それはなにがしか石から彫り出されたとは、まして型に鋳込んで作られたなどとも到底思えぬほど、表面は滑らかで、少年が脱ぎ捨てようとしている衣服の襞や、海の女の長い髪、海面の起伏、差し出した手がまとい、そしてしたたり落ちるあるいは海から舞い上がる水、それらの一つ一つがまるで実際に起きたその場所から切り取ってきたかのように、真に迫っていた。道具の痕跡の一つも見つけられず、まるで最初からそこにそんな形であったとすら信じてしまいそうで、飾るための台座は、まるでそんな認識をたしなめるために置かれているようだった。
「此の地より海の加護は去りぬ、神ならぬ定命の身に生まれたる者とともに。
彼の者スケリアびとに示せるは、我らを留める宿命の恩顧。
其の鎖の故に、我ら悪徳に触れざりき。
何処にか有らん過ぎたる望みを、ゆめ求めること無からしむ」
台座にはこう碑銘が彫られ、台座そのものや彫像と同じく、作られたままの姿を留めているとしか思えぬほど明瞭であった。もはや何を読み取ることもできないような形となっている周囲の有様とは、あまりにも対照的だった。
やがて私は、今なおこの島に住む老人に出会い、私が話に聞いていたのみのスケリアに流れ着いたこと、もはや昔日の隆運は尽きて久しいこと、そのきっかけとなった出来事があの彫像に記念されていること、己の運命を自覚していたかのようなスケリアの人々がそれを作ったこと、などを知った。私たちはその老人や他の幾人かに助けを受け、返礼として多少の酒や宝飾品を贈り、ささやかな宴が催された翌朝、スケリアの島を離れた。
さて、私はその老人の語ったことをこれからここにできるだけ正確を期して書き記すのであるが、それが真実の出来事であったかどうかは、そのように信じられる人のみがそう信じればよいと思う。私がこのような気を起こしたのは、それが興味深く、また、何か我々に示唆するところがあるように感じられたからである。スケリアの被った運命がどこにも起こり得ることは、誰もが知っているであろう。