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4-4.海へ去る

 しかしやがて、ナウシスは自分がもはや引き返せない川を渡り、しかもそれは自分自身が制止も顧みず選び取ったことを受け入れ、ウリシアとの生活に幸福を求めるようになった。とはいえもはや、私にも語り得ることは多くない。すでにナウシスは、我々の言葉も目も耳も、何も届かぬところに達したのだから。

 私の知り得たのはこうである。ナウシスは遠からぬうちに、ウリシアの、そしてもはやナウシスにとってもそう呼んで差し支えない父アンティクレスから王位を譲られた。それほどナウシスは、特別な存在と見なされたのである。そしてナウシスは王として、海の住民たちをスケリアからも、どのような人間の土地からも遠く離れたところに移るように命じた。自分の身に起きたことが知れれば、驕慢が人の心にもたげるであろうというのがその理由であった。

 こうしてナウシスはウリシアらとともに、そのときから変わらぬ姿のままとなって海の彼方へと去り、下された託宣は果たされたのだった――アレテスやアルシノエが思ったような形ではなかったが。そして海神の加護もまたウリシアたちと共にあったが為に、以来スケリアは荒廃し始めたのだという。アルシノエは嘆き悲しんだとはいえ、アレテス王は子の運命のうち定命の軛から逃れたというところに執着したというのだから、ナウシスの考えは正しかったと言えよう。ナウシスの部屋に残された真珠や指輪、布地についてあれこれと想像を巡らせたところで、その背後で揺れ動いたナウシスの心を知る者はいなかったのである。

 老人は、この話は元々、気まぐれに浜辺に現れた海神の一族の者が語ったのだという。私の目にした彫像もそれとほとんど時を同じくして作られ、以来語り伝えられてきたそうである。だとすれば、あれほど見事なものを作り上げる力を持っていた頃に、スケリアの人々は自分たちの陥ることになるかもしれない境遇について戒めていたということであろうが、結局はそれを逃れ得なかったようである。先を見通そうとしてもそうであったのだから、予兆なく近づく運命を感じ取るなど、無理なことであるかもしれない。


<完>

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