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4-3.超えた境界

 さてナウシスが海の中でどのような光景を見たのか、私には想像もつかないが、何もかもが地上とは違っていたのだろう。海面の輝きからも遠く離れ、満ちる光は淡く、きっと青白い炎のように揺らめいていた。

 ナウシスはそんな光景に感嘆しながら、饗宴に招かれた。主賓たる真ん中の席に着いたが、ウリシアがその隣で、さらにその隣には、彼女の父アンティクレスと母ラエルテアが続き、さらに彼女の住む世界の重立った人々――そう言ってよいかは疑問ではある――が、他の席を満たしていた。

 その歓待ぶりはナウシスを驚かせ、また戸惑せたものの、ナウシスは自分のために特別に出された料理を口にし、また、ウリシアたちと同じものも食べ、その美味を堪能した。地上に生まれ、そのような、アンブロシアとかネクタルとか呼ばれるようなものを口にした者は、きっとナウシスただ一人であったろう。

 ナウシスの胸中からはすっかり心配だとか不安は消え去り、初めて目にする、ウリシアと同じような姿をした海の中の世界に住む存在と親しく言葉を交わし、その歓迎の温かさを感じた。やがて宴席が引けると、ナウシスはウリシアに二人きりの閨へと導かれた。そして寝台に二人ながら身を置いてむつみ合ったが、ナウシスは未だ、そのような行為の意味を知らず、戸惑いを残していた。そしてウリシアが言うには、


「さあ、もう何のご心配もありません。あなたはすっかり私たちの一員になりました。そのお姿は変わりませんが、その身はもう私たちの同じく、定命の域から離れたのです」


「そのように言われても、僕にはまだ分かりません。自分がどこか変わったようには感じられませんし、それに、あなたは一年前に僕たちが別れたときに行ったことをさせようとしているようですが、僕はそれがどういうものなのかも知らないのです」


 こう答えたナウシスに対して、ウリシアは微笑みながら言うには、


「今こうしてこの場、この水の中に、苦もなく無事でおられることが何よりの証拠です。自分自身が何か変わったことを感じ取るのは難しいものですから。かつて私と交わり、そして今日また、私たちと同じ存在をその身の中に容れられたことで、あなたはそのようになったのです」


 これを聞いて、ナウシスは自分がついさっき口にしたものと、かつて行い、そして今またウリシアと行おうとしていることの意味、そしてその間にあった一年という時間の意味を悟り、もはや自分がいくつもの道で、いくつもの意味で定命の身という運命や人倫、そして生まれた陸の地から永久に離れたのだと、はっきりと分かった。それは痛みとも呼べるほどの衝撃をナウシスに与え、ウリシアの存在も、彼女と交わす行為も、癒やすのに十分ではなかった。

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