3-2.一時の別離
母アルシノエは他の誰もと同じくナウシスの振る舞いの理由を知らなかったが、ともかく我が子が己の運命について神々が告げられたことを知って尚気丈に日々を送っている様を見て嬉しく思った。アレテスは無論のこと、そんなアルシノエにも、子を失う未来が近づいていると気がつけなかったとて、無理からぬことであろう。
さてナウシスはこのように日々を過ごし、楽しみを覚えながらも、ウリシアと会うたびに、そして別れるたびに、胸の苦しさが強まっていくのをはっきりと感じていた。ナウシスにはその正体が分からず、もしや死が近づいていることを示しているのではないかと考えた。そしてウリシアに会い、それまでと同じように楽しく過ごしたが、別れ際、胸の痛みがさらに増していくことがありありと感じられて怖くなり、思い切って打ち明けて言うには、
「どうすればよいのでしょう、あなたとお話をしている間は水の上に浮かんでいるように楽しく穏やかな気持ちでいられるのに、お別れしてしまうと、水の中に沈んだかのように苦しいのです。それがあまりにもひどく、とうとう今では、一時のお別れをするのも怖くなってしまいました。もうお目にかかれる時間は残り少ないと、神霊が僕に示されているのでしょうか」
これを聞いたウリシアはその言わんとすることをはっきりと悟り、またナウシスの今にも泣き崩れんばかりの不安げな表情を見て哀れで、また愛しくてならず、思案した末、このように答えた。
「王子様、あなたが心から決意されれば、私と永遠に一緒にいることはできます。それは私も強く望むことでした。しかしそのためには、一年ほどお別れしなければなりませんし、その先には私たちの住むところにおいでいただかなければなりません。一年経って尚、そうして私と時間を過ごすことを望まれるならば、またここで、私をお呼びください」
ナウシスは驚いたが、努めて心を静めようとして言うには、
「時間を隔てようと決してあなたのことは忘れませんし、私の気持ちは変わりません。定命の身にある私ですが、今の想いは身が絶えようとも変わらないと、神々にかけて誓言いたします」
これを聞いてウリシアは微笑み、それでは一時のお別れの前に成さなければならないことがございますと言って、ナウシスに己の身を寄せていった。何も知らぬナウシスは身を任せたまま、そこで行われたことの意味も分からず、ウリシアは無論のこと自分自身もこれによって何をどう感じているのか、どう感じるべきことなのかも把握できなかった。無我夢中のうちにそれを果たし、このような方法で感情を吐き出す方法があるのを知ったものの、その意味を知ってはいなかったのである。
ひとしきり果たし終えて半ば惚けたままだったナウシスも、ウリシアとの別れの時には、寂しさや不安といったものを強く感じたが、最後に交わした口づけの感触とともに、彼女の告げた言葉を噛みしめ、それを受け入れたのだった。