0-1.残された遺跡
遙かな昔、もはや人も通わなくなって久しいスケリアの島に、私が流れついた時のことである。嵐に遭って航路を外れ、ともかく船を風雨からしのがせる場所でもないものかと思案していた折、私はスケリアの島影を見つけたのだった。これ幸いと船を寄せると、ちょうど船を留めておくのに適した入り江が見える。我々はそこに船を置き、近くの洞窟で一晩を過ごした。その夜とともに雨風は去ったものの、嵐の間に失った物も多く、出発に備え、何か役立つものでも手に入ろうかと、私は他の者に船の番をさせておき、島の奥に入っていった。
入り江に注ぐ河口から川の流れを辿ってゆくと、上は鬱蒼とした森が陽光を遮り、下は一面柔らかに苔むしている。歩くうちに目に入る木々は次々に移り変わり、大樹の一面にまとわりつき、小さな葡萄のような果実の房をなす木蔦もあれば、手に取ってくれと言わんばかりに低くまで垂れ下がる林檎の枝が目の前にまで伸びている。かと思えば、いくらか開けたところに出ると、そこはどうやらすっかり朽ちてしまっているものの古い道らしく、両脇にはたくさんの花をつけた紫陽花の低木が並び、私の目を楽しませた。そして同時に、この島が花を心の楽しみとする人々の土地であったことが分かって――この島こそがかのスケリアだとは、まだ知らなかったである――、この島から船出するにあたって、何かしらの助けを得られるかもしれないと思った。
古い道を進んでいくと、草木に埋もれかけたような街にたどり着いた。縦横に大きな通りが走り、石造りの建物がそこに沿って立ち並んでいる。色濃く残る繁栄の面影は、かえってそれが失われたことによる寂寥感を強めていた。
とはいえ今でも住んでいる人もいるかもしれないとわずかばかりの期待を胸に進んで行くと、石畳が敷き詰められ、柱廊に囲まれた広場であったらしいところに、台座に乗った石像が建っていた。他にもいくつか、同じように像を頂いていたらしい台座があったものの、その一つを除いて、かろうじて台座の原型を想像できるのみというほどにまで崩れ去っていた。
それは海から手を差し出す女と、陸からその女の元に向かおうとしているように見える少年を描いたものだった。女の髪は海に落ちて半ば海面と一体になり、顔には悲痛な表情が浮かび、一刻も早く少年を迎えようとしているらしい。一方少年も、暗い顔つきには悲しみか憂鬱が漂っているように見えた。