人間と書いてガラス細工と読む
あらすじ 特になし
ある女性が西の地区に向けて走る。
息を荒らげて脇腹を押えながら目はまっすぐ前を向いて走る。
賛同は得れなかった、だが彼女の胸には絶え間ない不安が立ち込める。
信じる事と信じ切る事は違う。疑う事こそ真に信用に至るための道と言える。
疑うのが嫌だから信じると言うのはただの盲信なのだ。
「お願い!間に合って!!」
彼女────カオリはクスノキを疑っている。
別に敵だとかは疑っていない。
強さも疑っていない。
ただ、何も無く疑っていた。
理由なんてない、動機なんてない、根拠なんて無い、そんな薄氷のような青白い疑いでクスノキを見る。
力も知っている。強さも知っている。
ただカオリはひとつ、一つだけ絶対に許せない事がある。
例え、強かろうと
例え、ヒーローだろうと
────あんなに小さい子が戦場で戦うなんてあってはならない。
自分がクスノキ位の時、何をしていただろうか?
ただ学校に行き、ただ眠り、ただ起きる。
そんな2次元のような目には見えない、怠惰に襲われて毎日を生きていた。
あの時の小さな自分にゾンビと戦えと言ったら?
国の為に命を捨てろと言ったら戦うだろうか?
答えは明白。
なぜならそこから大きくなり、大人という成長段階になった自分でさえ手が震えているのだから。
──────────
辿り着いた。辿り着いてしまった。
「───────」
声が出ない。目の前の光景を理解しているのに、疑ってしまう。
「クスノキさん!クスノキさん!」
泣いているのは1人。クスノキと一緒に行動していたカウノだけ。
許せなかった。ふざけてる。
この国の人間は何もしていないのに、救おうとした少女が目の前で死んでいる事に。
この怒りは”クスノキが死んだ”からでもなく”ゾンビに対抗できる希望を失ったから”でもなく。
ただ”本来戦う必要などない少女が死に、戦うはずの大人が今も笑いあっている”事だ。
「ふざけてる─────変えなくては」
カオリは嫌悪する。全ての希望を小さい少女の背中に任せる国に。
信じてると詭弁を吐いて見て見ぬふりする王を。
この全ての元凶であり、不幸の爆心地でもある腐王を。
「許せない、よくも先のある命を……お前のような!死人が殺したな!!!!!」
カオリは剣をだす。実力差は明白、それでも戦うしか無かった。
それしか無いのだ。日本人の彼女には。
──────本名朝凪香織
──────────
【うーん、彼女であれば少しは善戦出来ますかね?】
場所は変わり、クスノキが修行している場所に移る。
ムーンは特にこの戦闘に興味が無い。誰が来ようと上位種に勝てる人間はいない。
それがブロットだ
もう運命は決まっている。
だからこそヒーローが必要なのだ。
【あのー、そんなに悠長にしてていいんですか?早くしないとあなたの大事な人全員死にますよ?】
───ボロボロ。今、クスノキの状況はその一言に尽きる。
一瞬で傷は治るが、それでもずっとボコされればその状況になってもおかしくない。
それでも──────
「はぁ、はぁ、まだもう1回!」
【……闘志は消えてないようで何よりですね。それにしても使えるのなら使うでしょうし、本当に固有魔法が使えないんですね。日本人だからという訳では無いでしょうし……やはり面白いですね、貴方は】
だが、クスノキの状況は何も変わっていない。このまま行けばクスノキが倒す頃には全てが終わっている。
それもまた運命なのだが、ムーンはあらゆる万物の中でも
”バットエンド”が1番嫌いなのだ。
なので、きっかけを与えることに─────────
【クスノキさんちょっといいですか?気が変わりました、貴方に少し褒美を上げましょう】
「いきなり藪から棒になんだよ。寿命とかあげねぇぞ?」
【……貴方は私をなんだと?まぁいいです。貴方の元相棒、確かにシロさんでしたか?復活させてあげましょうか?まぁそれには代価が必要ですが、それはそれとして2人なら上位種にも簡単に──────】
「あぁ、特に必要ない」
【──────?】
一瞬ムーンの思考がフリーズする。予想外の中でも1番ありえない選択肢をノータイムで跳ね返してきたからだ。
少し焦りながらもムーンは言葉を紡いでいくしかない。
【あ、あの!代価といっても少し時間が掛かる程度でして、デメリットなどないんですよ?それならいいでしょう?】
「……そういうの関係無い。しなくていいって言ったらしなくていいんだ。死んだ人間は戻らない。だからこそ今が輝くんだ。もういいだろ?戦いに戻る」
クスノキが戦いに戻ろうと振り返り、影に向かって歩く時。
【クスノキさん、貴方は一体どんな過去を?】
クスノキは転生者。死んだことは確実だ。だがムーンにはそれしか分からない。世界が違うとかそういう事じゃない。
クスノキの過去はムーンが手を尽くしても分からなかった。
「なぁムーン。お前は死体を持った事はあるか?血が滴り、まだ生きているかのような飴細工。死体ってな────意外と暖かいんだぜ?」
その言葉と共に、ムーンの背中に悪寒が走る。神になり、久しく味わっていない「恐怖」。味わうことのない神を殺すロンギヌスの槍だった。
【貴方は、日本人です……よね?】
「どうだろうな。ただ覚えとけ、アリはアリでも羽が生えるやつもいるんだ」
そう言ってクスノキは戦いを再開する。
少しづつ慣れ始めたのだろう。先程よりも反撃が早くなっている。予備動作が少なくなっている。
強くなることは良い事だ。それに善も悪もない。要は使い用だ。
だからこそムーンは思ってしまう─────
【……本当に私は】
────このガラス細工に力を与えていいのだろうか?と
読んでいただき本当にありがとうございます!
星を増やしてくれるとありがたいです。
面白かったと思ったらブックマーク!
感想やレビューもお待ちしております!
星ももちろん大歓迎!
具体的には☆☆☆☆☆を★★★★★にね。
そうするとロリのやる気が上がります。