虹色の光
国にゾンビが侵入してきているとの通報が入り、その場所に行った俺たち。
そこには──────
「なん、ですか?、これ」
─────久しぶりに俺は絶句した。目の向こう側にある景色には地獄が写っている。
悲鳴をあげながら逃げていく人々……なんかいなかったわ。
「ころせぇ!ゾンビを八つ裂きにしろ!!」
───逃げているのはゾンビでした。悲鳴をあげているのもゾンビでした。殺されているのもゾンビでした。
……どういうこと?一応、ゾンビ達はこの国の人間なんだよね?良くもまぁ何も思わず剣を振れるよ。
我慢している顔じゃないね。愉悦の顔してるよ。
「────待たせたな!民達よ!」
遅れてきたアズマが銃火器のようなものを持って反抗の最前線に現れる。
―――やはり出たのは火だった。その火でゾンビ達が焼かれていく。悶え苦しんでゾンビ達は灰になる。
……何でだろうか?普通喜ぶべきだ。ゾンビは消えて住民は喜んでいる。アズマもガッツポーズをしている。
────なぜ俺はこんなにもこの状況を嫌悪しているのだろうか?別にゾンビが大切とか思ってるわけじゃない。
彼らもここの住人に手を出そうとした。ならころされても文句が言えないだろう。
……それに、嫌悪しているのもあるが何かが胸を攻撃している。病気や傷じゃない。
なんだろうか?言葉にするのならば【このままだとなにか大事なものを失う】と胸ぐらを掴まれているような─────
「なぁ、こいつらってまた国から出てきたのか?裁判ってのがあった時も一人出たらしいし」
────住民たちが話している。呑気なもんだ、さっきまで殺し合いをしていたくせに。
「いやそれが違うんだ。今回ゾンビは国の外から出てきたらしい。
門の外からいきなり出てきた時はびっくりしたよ!国から出なければ安全だよ」
……国の外から?……出なければ安全?何だこの違和感、何を見落としている?
『私は普段国の外で野菜を作っているんだ』
『お父さんもお母さんもゾンビに食べられちゃった』
『あそこから出てきた人初めて見たべ!』
────あっ、、あっ!!!!!!!あぁぁぁ!!
~国の外、農場~
「お前ら来るなべ!こっちに寄るな!」
そこでは桑を持ったカウノとゾンビ達がジリジリとにらめっこしている。
『大丈夫さ!お嬢さん。少し噛むだけだから、死んだらこっちの仲間入りさ!』
───油断していた。それに尽きる状況だ。国の外にゾンビが出るのはほとんどない。発生場所は国の中で大体国の住民が殺してしまうからだ。
だから今日も大丈夫と思ってしまった。
牛や馬をもう寝かしてしまった。暫くは起きない。起きている動物も自分を守ろうと檻を攻撃しているが、あいにく鍵はゾンビの向こう側。手の届く場所じゃない。
それに時間が無い。少しづつ後ろに後退しているがそれにも時間がある。この先はもうすぐ行き止まり。
ゾンビ達が来ないのはまだこの道に先があると思っているから、行き止まりと知られれば確実に殺される。
『お嬢さん、随分とゆっくり後ろに下がるね?もしかしてこの先は行き止まりかい?』
カウノは目を見開いた。その行動は握手だった。その反応でゾンビの予想は確証に成ってしまった。
『────そうかい、この先は無いんだね。じゃあいただきまーす!!』
カウノが顔を上げるとゾンビがジャンプしてこちらに乗っかってくる。カエルのように俊敏に桑を避けて。
カウノは転んでしまい、しめしめとゾンビが群がってきた。
口は抑えられスボンが破られる。生足が出て死を確信した。もう自分を助けられる人は居ないと心の底から絶望した。
(あーあ、やっぱ国王様の言う通りにすればよかった。”農場を捨てて国に住め”と、国の中に農場なら作れるからと。
でもごめんね。断っちゃった。私ね捨てたくなかったの。お父さんとお母さんが必死に守ったこの農場を)
────あの日もこんな感じだった。
「カウノ、ここで待てるかい?この牛舎から出ちゃいけないよ?外にはゾンビが沢山いるからね。お父さんは助けを呼んでくる。良いかい、絶対に出ては行けないからね?」
カウノは昔から物分りが良かった。1を聞けば10を知る。
本当はわかっていた。だがそれでも、それでも少しだけ希望を持ちたかった。
「お父さん、お母さんは?」
カウノの問いに父は顔をあげない。
「……先に助けを呼びに行ってもらった。…大丈夫、すぐに帰ってくるさ」
カウノは「そうなんだ」としか言いようが無かった。本当はわかっている。母はもう食べられていると。この農場には父と自分しか残っていないと。
そして”父が助けを呼べるほど体が正常では無いことを”
「───カウノ、その目。気づいてしまったか、そうだね。僕もゾンビに噛まれてしまった。いつゾンビになってもおかしくない。
人は死んだ後にゾンビになる。だから最後に君に言葉を託しに来た」
カウノと父が話している時にも牛舎の扉はドンドン!と叩かれている。扉は牛が逃げないように頑丈にできているが、それでもいつまで持つか分からない。破られる前に父は外に出なければならなかった。
「カウノ、私が牛舎を飛び出してゾンビを誘導する。その間に裏口の小さい窓から出て、エレシュキガルを目指しなさい。
そして、この農場には二度と近づかないこと。いいね?」
────いいね?じゃない。良いわけない。子供でも分かる父が死ぬ気だと。自分を置いてどこかに行く気だと。
カウノは必死に抵抗する。首を横に振り父を抱きしめる。
「……暖かいな、カウノは。思い返せば君を抱きしめたこと無かったかもな。……本当にごめんね、僕たちがこんな所に住んだから、国の外に住んだから君を最後まで見守れない。
君を1人にしてしまう。君だけをここに残してしまう。
だけど、これだけは言える─────」
父はその瞬間カウノを抱きしめる。体が圧迫されるほどの強い力を持ってカウノを抱きしめた。
カウノも苦しいはずだったが、溢れる涙と悲しみで何も伝わらなかった。
カウノも抱きしめる。爪を立てて、父の肩に傷が出来る。それでも父も涙を流して、子供のように泣いていた。
「────カウノ!生まれてきてくれてありがとう!私達の子供になってくれてありがとう!
こんな残酷な世界だ。いつか君の目が曇るかもしれない。だけどいつか必ず君の目を光で満たしてくれる人が必ず現れる!
一人でいることなんて無い。友達を作って、恋人を作って幸せになりなさい。……僕とお母さんは見る事が出来ないけど、最後まで祈っている。……そうだ忘れていた。これを君に」
カウノの手に渡されたのは小さなネックレス。母が毎日つけていたものだ。
”いつかこれをあなたに渡す時が来る”と笑いながら言っていた。それがこんな時なんて思いもしなかったけど。
それでもネックレスは小さい筈なのにとても重かった。
─────牛舎の扉に本格的にヒビが入る。もうあと1分もすれば侵入されるだろう。もう時間がなかった。
父の涙は止まり、赤く晴れた目に闘志がやどる。
自分がここから生きるためじゃない。
最愛であり、希望でもある、娘を守る為に。
父は最後にカウノの額にキスをする。それが愛だった。不器用で臆病な父から娘に送った最初で最後の伝わった愛だった。
父は笑って横の銃を取り外に出る。窓を蹴り破って思いっきり外に出た。
カウノも言われた通りにする。草をかき分け見つけた小さい穴にスルスルと潜り込み、牛舎から出た。
目の前にゾンビはいない。なら走るしかなかった。
途中で足が止まる。振り返れば地獄が見えるのに振り返ってしまった──────────
「うめ!うめ!うめぇ!肉うめぇ!」
─────少しのゾンビの声と、燃えている家、カウノの目に自然と涙が出る。だがそれでも走るしか無かった。
また前を見て走る。
最善とは言えないが声を上げながら。
「お父さん!お母さん!うわぁぁぁ!!!」
カウノの記憶はそこで止まる。走馬灯のようだった。体を見ると今にもゾンビに体を食われそうになっている。
ゾンビが大きく口を開けて今にもかぶりつこうとしている。
大丈夫、痛いのを我慢すればあちらと同じになってまた生きれる。
そう思っても体が震える。涙が出る。まだ生きたいと心が叫ぶ。未練がある訳じゃない。後悔がある訳じゃない。
ただまだ生きたいと思ってしまう。助けを求めてしまう。
ゾンビを消した、私の絶望を消してくれたあの人を―――
「助けて、助けて!!!クスノキさん!!」
ゾンビの口が足に当たる瞬間。
「一閃!!!!」
─────大きな光が見えた。目を閉じてでもわかる明るい光。自分の涙を消し飛ばず、虹色の光だった。
目を開けると、体に乗っていたゾンビは一人もいない。
前にいたのはたった1人の少女だった。
……バランスが悪い。そう言わざるを得ないほどの大きい剣を持った少女。
カウノは夢かと思った。だが、それでも夢じゃないと確信しできる。
その髪は、その体は、その鎧は、その姿は、カウノが抱いていた希望と同じだったのだから。
「─────来てくれたんですね。クスノキさん」
「当たり前ですよ。貴方はこんなことろで死んじゃいけない。少し待っていてください。
直ぐに、すぐに終わらせますから───────」
クスノキが剣を構える。そこから溢れる虹色の光。全てを写す鏡のように、それはあらゆるものに反射して空に夢のような光を映す。
地上ではまるで空が落ちたかように地上に青い光が満ちる
──────故に名を【フォールアウト】その聖剣の名前である。クスノキは初めて封印を解く。カウノを守るため、邪を絶つ為に、ついに剣を振るうのだ。
「フォールアウト 起動」
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