清算の果て 終
2話同日公開です。この話は1度に見てほしいので
ユーロはその場に座る。サタンも歩き何も言わずに横に座った。
「サタン。来れないんじゃなかったの?」
「まぁな、だが無理をする必要があったんだ。お前のその死んだような顔を見て見ぬふりはできんよ」
ユーロは鏡がなく自分の顔を見れなかったが、きっと酷い顔をしているのだろうと自覚する。
足を曲げて顔を疼くめる。顔をあげられなかった。どういう顔をすればいいのか分からなかったから。
「ねぇ、サタンさっきの”答えは得たか?”って?」
「ん?言葉通りの意味だ。今のお前じゃクスノキの所には行けない。俺も予想外だったがね。お前はここで答えを出さなくちゃいかん」
「答え?答えって何?」
「それは俺からは何も言えないな。これはお前が導き出さなくちゃいけないものだ」
分からない。何を答えればいいのかすらも分からない。そんな気持ちがユーロを取り込む。もう何もしないでここに入ればいいと囁いている。
ユーロもそれでいいのかもと思う。きっとクスノキは大丈夫だ。自分が居なくても何とかなる。自分の何倍も優秀なんだから。
「過去を見てどう思った?」
サタンから問いが来る。どう思った?って
「みんな意外と考えているんだなって思った」
「ははは!!そりゃそうだ。みんな誰しも言えないことがある。俺もお前も全てをさらけだした訳ではあるまい?
それとも何だ?今更自分が愛されていたって信じられないか?」
サタンからのフランクな問いにもユーロは笑顔で返せる気力がない。
「そりゃそうだよ。今まで勝手に捨てられて、勝手に恨まれていると思ってた。なのに今更”愛されていました”なんて信じられるわけないじゃん」
「なんでた?」
その問いにユーロはムキになる。怒りのあまりその場から立ちサタンを見下ろす。
「なんでって!元はと言えば全部君のせいなんだよ!昔!貴方がアリスを封印したから私達の家族はおかしくなってしまった!君にだけはなんでだって言われたくない!」
「・・・そっか、ごめんな。お前の言う通りだよ。全部俺が悪い、あの時俺はアリスを殺せなかった。慈悲とかがあった訳じゃない。殺せなかった訳でもない─────」
「じゃあなんで?」
「────俺にはそうするしかなかったんだ。そうでしかあの世界を維持できなかったんだ。辛いものだよ全てを知っているということは」
言っている意味がユーロには分からなかった。 それは外からの話だから。だがそれを知る必要は彼女には無い。
そしてそれを理由にする気もサタンには無かった。
「まぁでもさ、それって結局は自己中なんだよな。たとえそうする必要があったとしてもそれをお前達に背負わす権利なんて俺には無い。それを背負う宿命もお前達には無かったんだ─────」
サタンはずっとどこかを見ていた。場所も分からない何処か。自分には見えないような深淵を見ているかのような。
「────ごめんな。お前達にそれを背負わせて」
ユーロ自身もわかっている。謝らなければいけないのはこっちの方だ。昔話によればサタンも転生者だったらしい。
つまり何処からか理由も聞かずにこの世界のために戦えと、頷けと言われているのだ。
怒る権利があるのはあっちの方だ。だって本来ならサタンはこの戦いにいる必要がなかったんだから
それでも─────
「私はサタン、あなたが憎い。どうあれ私の大切な人を不幸にしたのなら償って欲しい。でもそれをする必要なんて貴方には無い。
ねぇ、教えてよ、どうすればいいの?私はこの怒りをどこに向ければいいの?
愛されていた、愛してくれた証拠を持ってどこに行けばいいの?」
ユーロに答えは出ない。ただずっと暗闇に落ちるだけ、落ちて落ちて床に落ちても沈んでいく。何も言えなかった。
「────少し昔の話をしようか」
サタンがいきなり言葉を言う。サタンの昔なんて聞いた事がない。聞く必要が無いと思っていたから。
だがそれでもユーロは聞きたかった。
「昔の話?それってあなたが転生者になる前のこと?」
「ん?そっか俺が転生者っていうのはもう知っているんだったな。なら話は早い。俺は日本という場所にいたんだ。
俺の村は貧しくてさ明日生きれるか分からなかったんだぜ?」
ユーロには信じられなかった。彼の肉体は腹筋がある理想的な肉体をしていた。
サタンは続ける
「うちの父は厳しくてさ、野菜を作っているんだがそれを俺に売らせて売れなかったら飯抜きだった。
父は袋に入った野菜をもりもり食べてたよ」
酷い父親だ。とユーロは思う。自分も少し前までは自分の父にそう思っていたんだが。
「酷いと思うだろ?だがそれは勘違いだった」
「え?」
「ある日さ、空腹に耐えかねて父親が眠っている間に袋を盗もうとしたんだ。ナイフで袋をビリっと破って中を見たんだ。中には─────」
「中には?」
「────何も入ってなかった。俺にあげていた食料が全部だったんだよ」
ユーロは絶句した。その話にでは無い。サタンと今の自分は全く同じ─────
「父親に虐められていると思ったらいじめていたのは俺だった。元々父親の分しか食料はなかったのさ。
笑えるよな、息子には野菜を食わせて自分は目の前のコップ一杯の水と麦だけで生活していたんだからさ」
胸が痛い。自分と同じだ。サタンも愛情を失ってから気づいた。ただ”愛している”それだけを言えば伝わるのに、なんでみんな言えないんだろう。なんで私たちは分からなかったんだろう?
「その後は父親は直ぐに死んじゃってさ、墓をほったら俺も力尽きて今ここにいるって感じかな」
「何でその話を私に言ったの?」
サタンはただ一言、分からないか?と言って黙る。
ユーロは少し考えた。あの時自分がその愛に分かっていたら今頃幸せに生きていたのかな?と
過去に戻るすべはない。あったとしてもそれは別の世界の過去だろう。だからこそ人間は今を必死に生きるのだ。
愛されていた?
────愛されていたよ
愛されたかった?
─────たかった?それは勿論。ちゃんと目の前で愛してるって言って欲しかった。1度でいいから抱きしめて欲しかった。一緒に笑って欲しかった。
「────ユーロ、もう一度お前に聞く。お前はどうしたい?」
「どうしたい?ってそれは────」
ユーロが少し顔を動かすと首に架かっていたペンダントがチリンと音を立ててぶら下がる。
そのペンダントを、ユーロは見ていることしか出来なかった。
「それは?」
サタンの問い
「これはクスッチから貰った物、”君はどこで何をしていても危ないから、せめて安全祈願のものです”って」
「なんだよ、歩く理由があるじゃねぇか」
ユーロは振り向く。サタンの目は優しい目をして1回頷いた。
……いいのだろうか?
「これを理由にしてもいいのかな?」
「はは!理由なんて物事を行う薪に過ぎない、とにかく燃えりゃいいんだよ。そんでもってそれで大きく燃やした方がそれを実現できる。ユーロ、お前の家族はもう戻ってこない。だが、それでもまだ伝えられる相手がいるだろ?」
ユーロはペンダントを握りしめる。目を閉じて顔を思い出す。これをくれた人物を、まだ生きているあの人を。
それでもまだ足りない。ユーロが立ち上がるにはあと1ピース。中にある怒りをどうすればいいのか分からなかった。
それをサタンに言うと。
「んな事で悩んでたのか?」
「んな事って、私は真剣に─────」
「アリスにぶつけちまえ!八つ当たりなんて知るかって!確かにアリスが悪い。だからこの怒りも全てお前のせいだって!ぶん殴っちまえ!」
サタンが笑う。ユーロもそれに続いて笑う。初めてユーロに笑顔が戻る。
「ユーロ─────」
サタンが真っ直ぐにユーロの方を見る。
「何?」
「これだけは覚えておけ。不幸でいるな。人間生きているのならハッピーエンドを目指すべきだ。俺にはそれが出来なかった。だが、お前なら出来る。今を生きているお前ならな。
さぁ行った!もう立てるだろ?」
その時にはユーロはたっていた。先程の絶望的な顔ではなく、明るい未来を目指す為に真っ直ぐ前を向いて。
「いい顔になったな」
サタンが少し笑う。笑い慣れていないのだろう。少し口がヒクヒクしている。
それも今のユーロからすれば笑えるものだった。
「なんで俺の笑顔を見て笑うんだ?まぁそりゃそうか。笑顔は誰かを笑わせるためにあるもんだ。お前が笑ったのならそれでいい。
……クスノキを救いたいんだろ?」
ユーロは大きく頷く。
「そっか。ひとつだけ策がある。アリスは倒すのはまだ無理だろう。だがクスノキを助けるのであれば希望はある」
「希望って?」
───その瞬間、サタンの体に亀裂が入る。体の端から塵になっていく。
「サタン!体が!!」
「ん?そっか時間か。言ったろ?ここに来るまでに無理をしたってさ。その代償だ。俺は消える。すまなかったな最後までお前を支えられなくて。
だが、これでいいんだよ。死人はいるべき場所に居るべきだ。いつまでも今日に居るべきじゃない」
「でも!それでも!私は貴方に救われた!まだお礼も何もしてない!!」
ユーロから涙が溢れてくる。友人が引っ越すように、もう二度と会えないように、ゆっくりとサタンに手を伸ばす。サタンも手を掴む。サタンの手は死人のように冷たかった。
でもそれでも──────
「暖かいね。サタンの手」
────サタンが目を見開く。そっかと涙を流す。
「俺を愛してくれた人がまだ居たか」
「ありがとうサタン。私を支えてくれて。私の名前を呼んでくれて、私と一緒に笑ってくれてありがとう」
ユーロはサタンから手を離す。サタンの体はどんどん塵になっている。それでもサタンの顔は笑っていた。
「こっちこそありがとう、俺を友人みたいに接してくれて、俺の召喚者がお前でよかったよ。楽しかった。死んだらまた会おう。なるべくゆっくり来いよ?」
ユーロは涙を流しながらこくん、こくんと頷く。頭を振る度に涙が下に落ちていく。それでも別れる時は笑顔になった。
「バイバイ、サタン」
「あばよ、ユーロ」
サタンの体は完全に消えた。残ったのはサタンの魔力のみ。残してくれたのだ。
サタンの力は光の力。つまり聖なる力だ。
ユーロはその力を貰う。本来であればサタンの多すぎる聖なる力に魔力がパンクしてしまうがユーロは別だ。
彼女は邪なる力の持ち主なのだから。
ここに今勇者が生まれる。生まれつきの邪なる力と受け取った聖なる力を持つ、小さい少女が。
「行ってくる。待っててクスッチ!」
ユーロはその場から走る。彼女にもう迷いは無い。答えは得た。
愛情はクスノキに、今を生きているものに。
怒りはアリスに、八つ当たりでもなんでもぶつけてしまえばいい。
────これからどうしたい?
「そんなもの決まってるじゃん!ハッピーエンドを目指す!!そのために生きるんだ!!」
今、扉が開かれる。そこから先は一直線だ。走れ!クスノキの元に!!
読んでいただき本当にありがとうございます!
勇者が最後に託したのは希望の力。最後まで何も言えなかった彼ですが、不器用でも来世で幸せになって欲しいです。
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