清算の果て
特にありません。彼女の選択を見守ってあげてください。
時間というものは曖昧だ。一日は約8万秒、それを持って24時間が経過する。
だが人々は1度は思ったことがあるはずだ。
【一日が25時間だったら?】
【一日が10時間だったら?】
ありもしない希望を黙想して青空を見て今日を生きた気になる。
そうやって一日が終わるのだ。
アリスの空間は全ての時間がある。君の見たくもない黒歴史も華々しい思い出も全て同じデータとして存在する。
ユーロもここを泳いでいる。
彼女への最後の試練だ。今までの全ての恨みと感謝の清算。答えに辿り着く終着の黙示録だ。
「ここは?クスッチの所に早く行かなくちゃ」
ユーロは海を泳ぐように時間の隙間を渡っていく。どこを見ても青い何も無い空間で、上か下かも分からなくなっていく。
それでもユーロは泳ぐ。必死に戦っている仲間の為に。
だが運命がそれを許すわけが無い。ユーロにはクスノキの場所に辿りつく”資格”が無い。
ユーロの前にひとつの水玉が現れる。ポコっと目の前に一つだけ。
「何これ?」
ユーロが触る。当たり前のように水玉は弾け中の景色が見えてくる。
ここは全ての時間が集まる場所。今からこの空間は見たくも無い景色を強制的に見せる。
ユーロはここから知るのだ。自分の過去にケリをつける為に。
「マクリールよ。ここに来てくれ」
次目覚めた時ユーロが見たのはこの景色。まだ父が存命の時。まだ国が平和だった時の話だ。
ユーロは見ていて嫌だった。この頃から父はマクリールのみに愛情を注いでいたのだ。
その証拠に自分がいない。信じたくもなかった話に確証が付いただけ、ユーロがそこから出ようとすると─────
「ユーロをこの国から追放する。この国から逃がしてやりたいのだ」
は?と思った。いい加減にしろ。そんな詭弁なんていらない。父は自分をただ捨てた畜生だ。そう思わせてくれ。じゃないと。
「父上、どうしで姉様を逃がすの?」
「ここから先魔王が目覚める兆候がある。ユーロは私達の家系で1番才能を持っている。だからこそ、この国を救って欲しいのだ。
ウウッ!ユーロよ!済まない……」
今自分が見ているのは本当なのだろうか?と目を疑う。あれほど追放する時に冷たい目をしていた父がいま顔をクシャクシャにして泣いているのだ。
父は魔王が復活することを知っていた?父はそれを黙認したと?この事実に頭が回らない。何故それをマクリールに言う?
「父上、魔王が復活するのですか?」
「あぁ、そうだともマクリールよ。そのためにユーロにサタン様を呼ぶ死霊魔術をかける。あやつならサタン様の魔力にも耐えられるであろう。
私はもう寿命が近い、、、このふざけた宿命をお前達、愛しい子に残す自分を心より恥じる。
許してくれとは言わん。一生恨め。だがこれだけは神に誓って言える。それはな────────」
────ユーロ、マクリール、お前達ふたりを私は心の底から愛している。どれだけ間違った道を行こうとも私の子供だ。
「……ふざけんな、ふざけんな!!ふざけんなぁぁ!!!」
ユーロは頭を抱える。愛されていた?愛していた?捨てられたと思っていたのは全部自分の勘違い?
そうしていると景色がまた揺らぐ、今度は自分もそこにいた。捨てられて罪過が決定した後だったが。
「これによりユーロは我が国の王族では無い!即刻この国から追放する!出ていけぇ!!!王族を語る偽物め!」
「い!嫌ァ!父上!私は!ユーロはあなたの子です!母上!貴方もなんですか!!どうしてですか!何故こんなことをするのですかァ!!嫌だ!やめてぇ!!!」
私はそう叫んで部屋から連れ出された。後に残っていたのは静寂と、、静かに泣く涙の音だった。
「ユーロ、、ごめんなさい。私は貴方をあんな顔にさせるために産んだわけじゃないのに……」
母親が泣いている。さっきまでのゴミを見るような目が嘘のように暖かい目をしていた。
父親がそれを抱きしめる。ゆっくりと泣いていいと胸を貸した。
「あなた……」
「泣くな。ユーロはこれから地獄のような日々を送るだろう。私たちが泣いてどうする?泣いていいのはあの子だけだ」
……この感情をどうすればいいのだろうか?とっくに心の底に置いてきたはずの感情。
現実は残酷だとよく言うが、こういう事なのか?私はずっと勘違いをしていた。あの時は前から見ていたから分からなかったが今はわかる。
母親が私がいる時泣くのを我慢して手から血が出るほど握り続けていたことを。
後ろにいた私を世話してくれていた爺やも年に似合わず大泣きしていた事を。
可笑しいよね。今になって気づく、もう誰もこの世に居ないのに。失って始めて愛されていたなんてさ。
「貴方…黄泉の国で私はユーロに会えるでしょうか?」
「無理だろうな。あの子にこんな事をしたんだ。私達は地獄行きだろう。せめてユーロはいい所に言って欲しいものだ。それぐらいは望んでも良いだろうか?」
────また景色が揺らぐ。
ここは少し経ったあとだろうか?父や母ももう居ない。
「マクリール様!お待ちください!その判断は流石にお止め致します!」
マクリールとアイリーンが喧嘩をしている。実力主義のアイリーンと結果主義のマクリール。私が居た時から仲が悪かったっけ?
「アイリーン。何がいけないの?私は私の道を行く。それだけよ」
「ですが!魔王アリスと手を組むなど!夢の中であったかどうかは知りませんが!あれは世界を壊す厄災です!信じるなんて次元ではありません。どうかしてます!」
マクリールが魔王アリスと手を組んだ?何で?ダメだよそんなことしちゃ。父上はそのために私を追放したのに。
そんなにこの国が嫌いだったの?
「……アイリーン、貴方も見たでしょう?姉を、いえユーロを救うにはこれしか無いの!あの人が戦う必要なんてない!私がひとりで全部のケリをつける!!」
────え?
「クッ!えぇ見ましたよ!このアイリーンしかとこの目で!
魔王アリスに対抗できるのは勇者サタンだけ!だが、滅ぼす一撃を与えればその依代になっている者は必ず死を遂げると!私もユーロ様が犠牲になるのは反対です!」
「そうでしょ!だったらなんで止めるの!!」
「貴方が!代わりに犠牲になってどうするんですか!!」
ははは、マジかー。こうなっているのか。何で?と思ったら全部私の為ですか。マクリールは国を救うつもりなんて無かった。全ては私を救う為に。
「じゃあアイリーン!貴方が変わりに案を出しなさいよ!そうやって人の案ばかり蹴って!どうすればいいのよ!誰かが犠牲になるしか無いの!!お姉ちゃんがそれをする必要なんてない!もう十分苦しんだじゃない!」
胸が痛くなる。何も気づいてなかった自分に。こんなにも妹が苦しんでいるのに私は呑気に旅を。
「マクリール様は今でもユーロ様を愛しているのですか?」
マクリールがそれを聞く。やめてくれ。もう答えはわかっている。もう、分かっているんだ。
「────!!!当たり前じゃない!私がお姉ちゃんを嫌いになったことなんてない!嫌いなのはこの国!全部お姉ちゃんに背負わせて!自分達は何も考えずただ生活しているだけ!
代わりがいるのなら直ぐにそいつにやらせるわよ!それがいないから!私しかいないからそうするって言ってるの!」
その気迫にたまらずアイリーンは同意をしてしまった。なんでこんなにも上手くいないのだろう?2人とも正解だ。正しい正義の押し付け合い。
犠牲にならなきゃ国は救えないと、それは違う、どちらも正しくどちらも悲しい。
だけどもそれをするしかないほどマクリールは追い詰められていた。私がそこに居たら変えられたのかな?
────また景色が揺らぐ。
今度はアイリーンの執務室。いるのはアイリーンのみ。
日記を書いているのかな?
「マクリール様が魔王アリスと手を組んでから早1ヶ月。
もう限界が近いです。寝る時はいつもうなされ、毎朝死んだような顔をして起きています。
日に日におかしくなっています。あんなにも人を殺す事を嫌がっていた人が、今や雑草を採るように人を殺しています。
ユーロ様───」
ボソッと自分の名前を呼んだ。
「────どこかにいらっしゃるのですか?ご存命なのですか?ならお早く来てください。もう貴方様の妹は限界です。私は何も出来ませんでした。救えるのは貴方様だけです」
アイリーンが日記を書きながらポロポロと泣いている。書いては涙が落ちてインクが滲む。いつしか紙は黒一色になってしまっていた。
それでもアイリーンは日記を書く。誰も読まないのに。誰も来ないのに。
────また景色が揺らぐ。
今度は私が屋敷を壊滅させた後かな?その資料が寝室の机に雑に置いてあった。
「お姉ちゃん─────」
寝言だろうか?そうであって欲しい。だが現実はそうではない。マクリールは誰にも聞こえることがないように、布団を頭までかぶり一人で泣いていた。
「────もう嫌だ。あと何人殺せばいいの?あと何日過ごせばいいの?もうそんなに自我も残っていない。たまに自分を忘れちゃう。
アリスが言っていた。クスノキを部下にしたいって。知らないよ。誰だよそいつ。勝手にしてよ。
なんで私を巻き込むの?なんでそんなにみんなを不幸にしたいの?
……お姉ちゃん達、屋敷に行ったんだよね。私がステーキを殺したんだもん。そして匿名で依頼を出した。
私からのプレゼント、受け取ってくれたかな?ストロベリーに拾わせたあの日記。
その結果みんな死んじゃったな。ステーキもステーキだよ。
【あなたのことを信じています】だってさ。そう言って首を切ったよ。また呪われた。また託された。持ちたくもない荷物を。背負いたくもない重荷を勝手に背負わされた」
私はただ見ていることしか出来なかった。それは触れなかったからじゃない。例え触れたとしても私は何もしなかったと思う。なんて声をかければいいのか分からないんだもん。
ツーと私の目から一筋の涙が溢れる。雨が降らない街に雨が降るように、たった1粒で私の頬を水で満たす。
「誰かいるの?─────」
マクリールが起き上がる。当たりをキョロキョロしている。見えてないんだよね?
「────さっき生意気なやつをアリスに処理してもらったけどその時も視線を感じたな。まぁ気の所為なんだろう。
ゲボっ!ゲボっ!」
マクリールが咳をしている。苦しそうだ。当たりをキョロキョロしているってことは見えていないんだよね?
だったら触れなくても背中をさすってあげることぐらいは─────
「ゲボっ!!!!」
──────え?
「私も、もう限界が近いね。こんな量の血を吐くなんてさ」
嘘でしょ?何で?どうして?あの子がこんな目に合わなきゃいけないの?私が悪いの?私が早く来なかったから。
「ユーロお姉ちゃん。会いたいよ。最後に1度だけでいいから、じゃないと私独りじゃ死ねないよ」
流石の私も我慢の限界だった。私はマクリールに向かって走る。そして抱きしめようとした時その夢が終わった。
残っていたのは何も無い空間と──────
「よぉ、答えは得たか?」
─────少し悲しい顔をしているサタンだった。
読んでいただき本当にありがとうございます!
彼女は本当に何も出来なかったのでしょうか?何も見えてなかったのでしょうか?目を閉じようと何も変わらないはずなのに。
出来ればこのまま清算の果て終も同時にお読みください。そのふたつを持って1話と考えてくれると。
星を増やしてくれるとありがたいです。
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そうするとロリのやる気が上がります。