なんか嫌だよね
雨が降っている。この国では雨は珍しくない。むしろ雨が降っていることを誇っているのだ。
それは無論、死の森でも変わらず雨は降っている。
クスノキは少し歩きナイフの元に訪れた。ナイフの前には十字に木を貼り付けた簡素な物があった。
「頭。すんません、話す元気は無いですよ?」
「そうでしょうね。ですので私がひとりで話します。彼女の墓ですか?あなたの右腕のクレープさんの」
「やっぱり知っていたんですね。そこまで知っているのなら覚えておいてください。こいつの本当の名はフォークです。まぁ、その本当の名というのも、俺が決めたんですがね」
雨が降っている。2人の顔を濡らし顔を見えなくさせる。だがそれでも見えるのだ。
ナイフの目から涙が溢れているのが。
クスノキは少し聞いてみる。
「変な思いをさせたらごめんなさい。盗賊は仲間の死をそこまで重要視しないと思っていました」
「他の盗賊ならそうでしょう。ですが俺達は、、、いや、なんでもありません。結局は同じ穴の狢です。少し涙脆いだけの普通の盗賊ですよ。俺達も」
「そうですか。それにしては随分と優しいのですね。私ももっと彼女と話してみたかったです」
ナイフはそれを想像してフッと笑う。想像つかなかったのだ。2人の相性はきっと悪いだろうと笑ってしまった。
ナイフは横にあった酒を墓にかける。これは、労いではなく、覚悟の為。彼女の一番好きな酒をかけて決別の覚悟を決めた。
死んだ人間は戻ってこない。たとえ、死者蘇生で生き返ったとしてもそれは元の人間ではなく、別と言えるだろう。
だからナイフは覚悟を決めた。たとえ、彼女が生き返るとしても、その選択を選ばない為に。もう彼女を楽にしてあげようと、涙と一緒に洗い流した。
(あばよ。フォーク お前といた時間は悪くなかった。生まれ変わったらもっとマシな家に産まれろよ)
それがナイフのたった一つの幻想であり、純白の願いだった。それを、願うには彼の手は汚れすぎているが。それでも願う事は意味がある。彼女の死には意味があると、これから証明しなければいけない。それが生き残ったものの責務だ。
「頭。ユーロは?」
「今は少し、シロと話しています」
「そうですか、、、、ん?大丈夫なんですかそれ?」
「・・・・・・まぁなんとかなるんじゃないですかね?」
盗賊のアジトにて、2人。正確に言えば1人と1匹が睨み合っている。お互いに、不満はあるだろうが今回は違う。2人とも正論なのだから。
「なにか申し開きはあるか?ユーロ。ご主人様に危害を加えたこと、謝罪の言葉とかないのか?」
「無いね!!それに君が私を責める理由は無い。何もせずここでグータラしてた君に何が言える?あの件で私を責める権利を持つのはクスッチとナイフだけ。そのふたりが私の罪を不問にした。それが全てだよ」
シロはグルルルルと唸り、ユーロはクスクスと笑っている。お互いともに正論だ。2人とも相手を責める権利はない。2人とも負けず嫌いなのだ。随分と話がヒートアップしてきたようだ。
「ユーロ。なぜご主人が貴様を許したのか聞きたいぐらいだ。本来であれば死を持って償うべきであろう!」
「あー、そういう古い風習は、私嫌いなんだよね。そうやって死ね死ね言って、君は何もしないんだろう?死が償いだと思っているのなら、今すぐにでも私の首を噛み砕けばいいのに。優しいんだね?」
「死ね」
シロがユーロの顔を食べようとした瞬間だった。
「やめなさい!シロ!」
シロに向かって、とてつもない殺気が襲う。クスノキからは黒いオーラが出ている。つまりご立腹だ。
「何故ユーロを食おうとしていたんですか?シロ」
「で、ですがご主人様!この者は主に危害を!」
「人の話聞いてました?理由なんかいりません。食うなと言っておいたはずですよね?」
も!申し訳ありません!とシロは項垂れている。少しユーロもにやけズラになっている。
「ユーロ、貴方もです。あんまりシロを挑発しないように。これはお仕置です」
ほんの軽くクスノキはユーロの額にデコピンをした。だがその軽くはクスノキの加減であり、当たったユーロからしてみれば、おでこに弾丸が当たったような痛みだった。
「いったぁぁぁぁ!!!!」
ユーロは座ってた椅子から転がり落ちて、地面で頭を押えながら悶えている。
クスノキはため息をつく。最初に会った時は有能だと思った仲間が、くせが強すぎて使えないのだから。
「もういいです。それよりもこれからの予定を決めます。良いですね?こちらに集合してください」
そしてその一言と共に、アジトの人間はクスノキに向かって歩いていく。
ユーロも歩いていこうとした時──────
「ズイブンオコラレタナ」
ユーロの心の中でサタンが話しかける。ユーロはまだサタンのことを話していない。特にクスノキには。
(うぉ!?いきなり喋りかけないでよ!)
「ズイブントコッケイダッタモノデナw」
(うるさいな!君が元々私の中にいなかったから私は操られたんだよ!!てか何してたのその時?)
「チジンニアッテイタ」
(知人ってだれ?)
「サァナ」
時は少し戻り、ユーロがまだ操られていた時。クスノキがまだ、戦う前。
クスノキと話す自称神は少し戸惑っていた。
【あれ?どうしたんでしょうか?いきなりチャンネルが。古いんですかね?見えないとつまらない】
「────ツギノオモチャハソレカ」
「ん?おやおや、サタンじゃないですか!久しぶりですね!!」
「アア、ヒサシブリダナ────」
──────全能神 ムーン