ダストボックス第2層攻略作戦(終2)希望の声
【ハヤサカ 脱落】
この文が伝えるのは、つまりハヤサカは負けたということ。
だがおかしい。今魚はぶった切り、その時までハヤサカは生きていた。どうやって死んだ? いやそもそも――
「稚魚のはずでしたけどねー?」
その時、俺の脳裏にあの言葉がよぎる。マーキュリーがずっと抱いていた違和感。
俺たちが捨てても良いと、四捨五入したあの言葉。もしあれが、切り札だとしたら…
「クスノキ! 下!!!」
マーキュリーの声がした。
下の感触は特に無い。水が足に絡みついている感覚――絡みついてる?
下を見ると、小さい水で出来た稚魚の群体が、まるでドクターフィッシュのように俺の足に絡みついている。
敵の思考が分かる。こいつはここから――
「爆発――」
大きな水しぶきが出現する。それは熱と衝撃によって現れた大きな噴水。
「…やってくれました…ね!」
何とか足に斬撃をぶつけて、致命傷は避けれた。
だが、
(そりゃあそうですよ! 足に斬撃なんてぶつければ、血まみれになりますよね!)
あのまま爆発に飲み込まれれば、確実に俺の足は今頃粉々になっていただろう。それに比べれば、この程度の痛みは許容範囲ではあるのだが、それでも痛い!
マーキュリーは何とか、魔法で稚魚から脱出していたらしい。
問題はそこじゃない。あのマーキュリーが、焦っている。
先程まで戦っていた魚。そして今の稚魚、あれらが【同一の個体】であると仮定した場合、導き出させる結論はひとつしかない。確かめないと!
「マーキュリー! 飛んでください!!」
俺の叫びに、マーキュリーは何も言わずにただ宙を飛ぶ。便利なもんだ。
俺の予想が正しければ、敵は必ず【下】から現れる!
――ッ! 足の痛みが激しくなってきた。アドレナリンが切れたな。さっさと勝負をつけねぇと!
「アシュトニング!」
俺は【下】を攻撃する。何かが見えた訳じゃない。実際、俺が攻撃しても下の水は、飛沫と波紋を立てて荒ぶるだけ。俺の予想なら、敵は――
「クスノキ…これは」
「見ての通りですよ。マーキュリーさん。敵はあの魚でも稚魚でも無い。このフィールドの水、全てが敵なんです!」
【新エリアボス 未曾有の終わり ワールドマリン】
「マーキュリーさん! ハヤサカのペナルティは死んだ時点で執行されますか!? 」
「いいえ! 私たちの誰か1人でもクリアすれば、ペナルティは無しで、第3層に行けます!」
なる程。であれば倒すしか無いな。…倒せればの話だがね!
マーキュリーも臨戦態勢に入る。
「稚魚のはずでしたけどねー?」
…ひとつ疑問なのだが、マーキュリーは戦わなかったのか? このボスと。
そんな考えも束の間、ついに敵が本性を表す。
今まで水だと思っていた下のフィールドは、ただの敵の外郭であり、中央にコアが出現し、巨大なスライムのような輪郭を描いて出現する。
それは巨大な山と見間違える程の巨体。そして、純粋という言葉が似合う程、透き通った身体に場違いな程、赤く光るコア。猿でもわかる、こいつが本体だ!
【聞こ――ま――か?】
何かが一瞬聞こえた気がした。
マーキュリーじゃ無い、もうこちらに何かを言う余裕など無いはずだ。
では誰が? いや、考えてる暇なんかない! 来るか!
ブォォォ!!!
本体は大きな咆哮を上げる。
それと同時に、身体から雨のように無数の水滴が四方八方に飛んでいく。
だが、それは遠くから見ると水滴に見えるだけ。その実態は先程爆発した稚魚である。あの時、俺の足に絡みついていた稚魚は約5匹。それよりもサイズは小さいが、それでも当たればタダでは済まないだろう。
じゃあどうする? 避けるしかない? 否、あんなの現実の雨を、全てよけろと言っている様なもの。であれば、撃ち落とすしかない!
「アシュトニング!」
まるでガトリングのような、稚魚の突撃を斬撃で打ち落とす。幸い小さいので、斬撃に当たった稚魚だけでなく、その付近にいた稚魚も蒸発していく。
だが――
(まぁ、これで撃ち落とせるのには限りがありますよね!)
斬撃の熱により、下の水が蒸発し水蒸気によって、前が塞がれる。
そしてそこから、無数の稚魚がこちら側に突撃をして来た。
数はだいたい40くらい。この程度なら、なんとか避けられるだろう。当たれば死ぬだけだからな。
あれ? 足が――
(!? また稚魚が足に絡みついて! しまった、目の前の稚魚に集中しすぎたのと、傷のせいで感覚が麻痺して気づかなかった!
当たる! アシュトニン――いや、間に合わない! これは死ぬ!!)
「うわぁぁ!!」
結局俺は、足に絡みついた稚魚を取る事も出来ず、爆発に巻き込まれた。
文字通りのゲームオーバー。
だが、この結末は覆える。最悪の結末によって。
(あれ? 生きている?)
稚魚が当たったはずだった。
だが、下の稚魚も爆発したはずなのに、何故か俺にはダメージがひとつも無い。これは一体。
目の前には1枚の壁があった。
アクリル板のような透明で、少し緑のバリアの役割りを果たしてくれたのだろう。
こんな事をしてくれる人等、1人しか居ない。マーキュリーだ。
【トス】
その時、俺の横に何かが刺さった。
ふと目をやる。目を見開いた。それは【マーキュリーの杖であり、その奥で彼女が徐々に消滅をしているのだ】
マーキュリーは、自分では無く俺だけにバリアを貼ったのだ。二人分出せば、その分耐久が薄くなり、破壊される恐れがあるからだろう。
だからといって、それを即座に行動に移せる奴など、どれだけいるだろうか?
ちゃんと痛みはある。それでも、自分より誰かを優先できる善人など。
「マーキュリー!!!」
手を伸ばす。間に合うわけが無い。間に合ったとしても、消滅をしている人間を助ける術など俺は持っていない。
完全に無駄な行為。それでも、俺の足は、心は、記憶が、足を止めることを許さなかった。
「クスノキ!」
だが、その足はマーキュリーの力強い声に止められる。そして、彼女は消滅するにも関わらず、無邪気な笑顔でこちらに激励をかけた。
「ファイト!!」
そしてマーキュリーは消滅した。
【マーキュリー脱落。残りは1人です。頑張って下さい】
俺のミスだ。気にかけるべきだったのだ。確かに、余裕は無かったかもしれない。だが――いや反省は後だ。
今は――こいつを倒さなければ、アイツら2人に顔向けできないということだ!
【クス――キ!】
だが、どうやって倒す? あの稚魚をかいくぐってコアを攻撃? バカか俺は! もうバリアは無い。俺が死んだら、終わりなんだぞ!
【ク――ノキ!】
じゃあどうすれば?
ええぃ、考えろ! どうすれば、ここから逆転できる! 第3層にも囚人はいる。つまり、こいつの攻略法は確かにあるということだ! だが、そんなの――
【クスノキ!!】
その時、耳に響く声が聞こえた。この甲高く、人か考えているにも関わらず、バカでかく大声で呼びかけるKY等、あいつしか居ない。
「アルミシア?」
【やっと聞こえましたか!? もう、苦労したのですよ? 通信を繋げるのだって、楽じゃないのです!
マーキュリーは、やられてしまったようですね。まぁ、倒せば復活するでしょう!】
倒す?
目の前の本体を見る。今も稚魚を生み出し、こちらに対して一切油断をしていない、化け物を相手に?
【…なぜ黙っているのです? まさか、諦めたとでも? ユーロは『クスッチは負けねぇ』って、通信を聞きもせず、作業をしているのに?
それにあなたの倒した死王は、これより弱かったのですか?】
違う。
死王は強かった。だが、それよりも更に、思いの強さがあった。
だが、こいつはどうだ? 何も思わず、ただこちらを攻撃するだけ。
[救えよ――世界]
えぇ、分かってるよ死王。
そうだ、約束したじゃねぇか! だったら、こんな所で止まってる暇なんかねぇだろ!
「…なにか作戦があるんですよね?」
【あるから、通信をしたのです! 黙って言うことを聞くのですよ! さぁ、始めますよ! 解体の始まりなのです!!】
「はいはい。働きますよ!!」
エリアボスとの、最終ラウンドが始まった。
読んでいただき本当にありがとうございます!
因みに、ダストボックスの中とは、基本的に通信が出来ません。彼女だけができているのは、ただ単に、皇帝特権というだけです。便利ですね。
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