過去に割ったガラス
世話になり、憧れだった人との感動の再会は、夕暮れのなんとも言えないふざけた時間の頃だった。
「とりあえず立ち話もなんだ。そこのベンチに座ろうか」
「…おう」
そして俺達ふたりは、近くにあったベンチに腰をかけ沈黙が続く。前を見ると無邪気に滑り台ではしゃぐ俺の昔の姿があり、何故か恥ずかしくなるのであった。卒アル読んでる気分だ。
「それで? 親父はなんで俺が見えたんだ?」
「知らん。ふとこっちを見たらお前が見えただけだ。そこまで気にすることじゃない」
そうか? そうなのか? 気にするべきじゃないのか?
ただ、親父の顔を見るともう、何も話さないという顔をしていた。この状態になると、もうこの話は通じない。結構頑固な所もあるんだよなぁ。
そんな目で親父を見ると、しかたねぇな…みたいな顔して、いきなり地雷を踏んでくる。
「なぁ亜蓮。俺死んだんだろ?」
「…なんて言おうか悩んでたのに、そっちから来ますかね普通」
気まずい雰囲気だった。息を飲むのすら躊躇うほど重い空気。質量を持ったと勘違いする程、言葉に重みを感じてしまう。
ただ、俺は答えなくちゃいけない。
「…うん。死んだよ。親父は」
「だろうなw そんな気はしてたんだよ。生きてる訳ねぇわな」
なんでそんなに笑えるんだ? 事の顛末を知らないとか? それとも本当は死んだと言うのを嘘だと思っているとかか? どういう――
「因みにお前が考えていることは、表情を見れば分かる。俺は事の顛末を知っているし、死んだというのも自覚している。ただ俺は――お前の口から死んだと聞きたかっただけだ。
あの妻の事だ。誤魔化してる可能性もあったしな」
それは否定しない。ただ、意外だった。親父が母親を貶している所を見るのは。生きている時は、一度も母さんの悪口を言わなかったし、ご飯を食べいる時も、楽しく会話をしていた記憶はあったのだが。
「知ってたのか? 母さんがクズだってことを」
「お? お前もズケズケ言うようになったなぁ。答えを言うと知っていたさ。俺の闇金へ返す金をネコババしていた事だって」
「…… はぁ!? 知ってたのか? あの金も! じゃあなんで、あんたは止めなかったんだよ!」
俺の激高に親父は少し目を開いてから、仏のような優しい顔をしながら話す。
「意外だ。お前はもうちょいクールに成長していたと思っていたが、怒ってくれるんだな。妻の事も」
「…怒るって…そりゃあ。てか怒るべきは親父だろ! あんたには怒る権利がある!あんたは母さんに殺されたも同然なんだぞ!」
「違うさ。俺を殺したのは過労だ。母さんじゃない――」
「その元凶が母さんだったろ!」
親父は、その声にひとつ深呼吸をして、夕焼けを見る。親父の瞳孔は夕日で赤く染まり、暫くして目を閉じた。
「どこまで知っていたんだ? 母さんの事」
「……全部だな。ネコババした金を浮気相手に貢いでいたのも、何もかもだ」
その言葉に俺は絶句する。つまりそれは親父は全てを知った上で、自ら死を選んだも同義。意味が分からない。デメリットしかない運命だ。
なぜ親父は、それを知りながらバイトを…。
「あのくそばばあはどうしようもなかったが、唯一感謝している事もある。それは【お前を産んでくれた事】だ」
「…俺を?」
そして親父は指を指す。そこには夕日に照らされながら、滑り台で遊ぶ俺の姿があった。いつまでも天真爛漫。その先の運命など、知らないバカの姿だ。
「お前の笑顔は太陽だった。ずっと苦しかった俺の心を、お前だけは綺麗に洗い流してくれた。あの笑顔がどれだけ俺を癒してくれたか」
「親父…」
「玄関から帰って、お前が走って出迎えてくれる。それで疲れは殆ど感じ無くなるんだ。そしてその後くそばばあを見て、疲れが50倍ぐらいに膨れ上がるんだが」
マイナスじゃねぇか。と思いながら、乾いた笑いをした俺を見ながら、親父は更に話を続ける。
「それにしても、大きくなったなぁ。俺が最後に見たのはまだお前が小学生にだった筈だ。ソレからこんなに大きくなったんだなぁ。母さんも、少しはマシになったか?」
…なんだろうか、下水が汚水になったぐらいは、マシになったレベルの話だ。それを親父に話す気は無いが、要は変わってねぇって事だ。
「…その顔を見る限り…変わってねぇんだな。大変だったな」
空気が重くなる。(親父のせいで)
閉鎖感すら感じる重い雰囲気を、どうやって乗り切ろうかと悩んでいると、いきなり親父は脳筋になりテンションに身を任せていた。
「さて、話を変えようか。今度はお前の話だ。今は高校生は卒業したか? 何をしている?」
「…世界を救ってます」
「へぇー、世界を救って…ねぇ――はい?」
うん。そうなりますよね。俺だってそのリアクションだもんな。
そして俺はかくかくしかじかに、今の現状を親父に伝えた。
すると――
「ワハハハハ!」
「笑い事じゃねぇんだけど?」
「いや悪いってw だってそりゃあ死んだ息子と再会したら、今の就職先が勇者なんて、誰でも笑うだろ!」
そして親父は、一人で一通り笑った後、性格が変わったように真面目な顔になって、優しい目で俺見る。
「立派になったじゃねぇか。誇らしいぞ。俺とくそばばあの息子から英雄が生まれるなんて、世の中どうなるか分からねぇもんだな」
「…本当にな。おかげで毎日死にかけてるよ。人も殺したし」
「そうか。まぁ好きにやれよ。お前がどれだけ鬼になろうが悪魔になろうが、俺は応援するよ。俺の息子なら世界も救えるさ」
そして親父はベンチから立ち、俺を見ずに夕日を眺めながら、告げた。
「よしそろそろ行け。お前は未だ救うべき事があるはずだ。ここで周りに迷惑をかけるなよ?」
「…わかったよ。俺も話しすぎた」
そして俺の体が軽くなっていく。ついに目を覚ますのだろう。この夢ももう終わりだ。親父に会えて少しは嬉しかったよ。
「亜蓮」
後ろから呼び止められた。変わらず親父だったが、その声は真面目に少しトーンが下がった、いわゆる真剣な姿というものだ。
「――お前とはもう一度会うだろう。その時全てを教える。だから、その日まで頑張って生きろ。な?」
◆◆◆◆
目を開けると極寒だった。先程まで感じていた冷たい空気が背中を襲う。
だが、それは内側には無く誰かに背負われる感覚があった。上を見ると。
「なんだハヤサカが背負ってたんですか」
「起きたんなら降りろチビ――それに着いたぞ」
ハヤサカの背中から見えたのは、大きな鉄の建物。俺達はやっと目的地に着いたのであった。
【ダストボックス 第二階層 絶対零度 独房「大紅蓮」到着】
読んでいただき本当にありがとうございます!
親父には秘密がありそうですねぇ
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