ダストボックス第2層攻略作戦(1)~封印していた過去の記憶~
人間には、耐えられ無いものが3つある。
1つ目は睡眠
2つ目は食欲
そして3つ目は性欲と言われているが、今、俺達の3つ目の欲は変わっている。それは、
「「「上着をください!」」」
……暖房欲である。
【ダストボックス第2層 絶対零度】
吐いた息が凍結する。銀色に染った世界に、白い雪が降り積もる。棘のような冬の風は、今も俺の肌を攻撃をしており、地震のように体の震えが止まらない。
それでも俺達は進んでいく。何故なら、多分動いてないと眠くなって死ぬからだ。少しでも肌面積を抑える為に、くるまって動いていた。
その時、少し大きい山が横に見える。そして、そこからビル風のように吹雪が俺の元に吹き、ついに俺の堪忍袋の緒が切れる。
「だー、寒い!! マーキュリー! まだつかないんですか!?」
「…あれー? おかしいですねー。たしかこっちの道であっていたはずなんですが…ハヤカサ?」
「俺に聞くな! 第1層から降りた事ねぇって言ったろ! それに…あぁだめだ、口を開けると唾液が凍る。喋れねぇ」
三人とも満身創痍だ。マーキュリーは魔法を使ってまだマシらしいが、それでも時間経過でアイスクリームだ。当然魔法を使ってない俺たちは、その前に凍ってしまう。
ただムーンの話によれは、上着を貰える言わばお助けシステム的なものがあるらしいので、そこを目指している。だが、ここで俺はある普通の疑問が湧く――
「あの、ムーン。ブレインで死んだらどうなるんですか?」
「それは――至極真っ当消滅ですよ。あなたが想像している通り、ここで死んだら現実世界にリスポーンなんて、そんな甘い話はありません。ここの死は現実世界の死と同義です」
ですよね。
少しは期待していたが、まぁそんなわけが無いと…であれば、尚更もう上着が欲しくなる。流石に寒すぎて体が震えて…無い。
あれ? 俺たちっていつから歩いていた? もしかして俺ってもう限界を超えていたとか?
(あれ? 体が…)
その瞬間俺は倒れ、マーキュリー達の声を微かに聞きながら、目を閉じ意識が消えていく。
夢の中のような浮遊感とは真逆に、意識はどんどん覚醒していく。絶え間ない激流を感覚で感じた後、もう一度目を開けると、そこは見覚えしかない【一室】だった。
昔から変わらない畳の匂い、好きだったカレーが煮込まれる音。そして【泣きじゃくる母】のいつもの日常。
「亜蓮…お父さんが死んじゃったよぉぉ」
「お父…さん」
これは小学校の頃の記憶。
俺の親父は、少し闇金で生計を立てていた。金を借りて、バイトしてその金を闇金に返す悪循環。終わりのないマラソンをしていた。
ただ、明るい人だった。言うなれば太陽のような人。どれだけやつれても、笑顔を絶やさず俺の話をずっと聞いてくれていた。
俺は親父が好きだった。背中は痩せていても大きく、いつかはこうなりたいと憧れていた。
その結果がこれだ。
【過労死】だった。当たり前だ、闇金に金を返す為に、何個もバイトを掛け持ちしていて寝る時間でさえ惜しかった生活を何年も続けていた。生きろという方が難しい。そこまで生きれたのだから、褒めるべきなのだろう…。
もう一度言うが、俺は親父が好きだった。
そう…【親父だけ】が好きだった。俺にとって1番の不幸は大嫌いな人間と、同じ家にすまなくちゃいけない不快感だった。
「亜蓮…お父さんが死んじゃったよ」
黙れ。お前の話を聞きたくない。
古くなったアルバムのはずなのに、今でもその声を聞くだけで、虫が体に昇ってくるような不快感を覚える。これが俺の母親だ。
何がお父さんは死んじゃった、だ。
…お前のせいだろ? お前が、親父が闇金に返すはずの金をネコババして、浮気相手に貢いで、高いバックを買って…そのせいで親父は更にバイトを増やしていった。
お前は親父が死んだことを悲しんでいるんじゃない。もうお金を浮気相手に貢げない事に悲しんでいるだけだ。そんなどうしようもないクズが、俺の母親だったんだ。
その時の俺は子供で、まだ母親の事を知らなかった。知ったのは高校生の時。
まぁそれは過去の話。今は語らなくていい。記憶の場面も変わりそうだ。
場所は赤い絵の具を、空に混ぜたような夕暮れに変わる。そこに笑う二人がいた。
さらに子供の俺…幼稚園ぐらいかな? そしてまだ痩せていない頃の親父。俺が滑り台で遊んでいる時に、ずっと笑って見守ってくれてた気がする。そんな少し笑ってしまう和やかな記憶。
この時は数年後に親父が居なくなるなんて、知る由も無かったんだよな。夢であれば良かったのに。
すると親父は――
「ごめんな。父さん少し予定ができてしまった。1人で遊べるか?」
「うん! 滑り台楽しいし!」
優しい声で俺に声をかけた親父は、そのまま道を歩いていく。そして優しい目をしながら、顔を上げた。そこに居たのは――
「久しぶりだな。亜蓮」
「……え?」
何故か俺の姿が見えている、親父であった。
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