VS楽王
分かっているとは思いますが、マーキュリーはこの作品でも三本指に入るポンコツキャラです。
「さて、そろそろ私達も動くのです」
クスノキ達がダストボックスに収監されてから、約2日。アルミシア達もついに動き出す。
メンバーとしては、アルミシアとユーロそしてアクセサの3人。アロンは拠点で待機しており、緊急時に動く事となっている。
そしてそんな3人が訪れた場所こそ――
「本当にここはいつも雨が降っていますね。流石【雨ゾーン】と言った所でしょうか」
快晴ゾーンという場所がある。晴れがあれば雨もある。ここは土砂降りの雨が降り続ける特殊なゾーン。
ここには何も無い。ただ雨と下には大きな水溜まりだけがある。故にここは、人気が少なく実際にアルミシアが周りを見ても誰もいない。
アルミシアは上を見る。空にある鉛のような曇天の雲は、彼女の心を表しているように重く、そして大きな轟音を立てている。
そして、彼女達は足を進め中央付近まで歩く事にした。
チャプチャプと水を歩く音と、雨の音が鳴り響く中、彼女達は傘もささずに歩くのだ。もちろんデータの世界なので風邪をひく事も、服を乾かす事もすぐに出来る。だがそれでも彼女達は雨に打たれていた。
髪が濡れ先端からの雨水が口に入る頃、アルミシアの足が止まる。合わせてユーロとアクセサも足が止まった。そして目の前には――
「ありえない…なぜ、今日に限って…ここにいる…【楽王】が」
アルミシアの目線の先。同じく雨に打たれる一人の青年。髪は黒く、体格は中肉中背。これといって特徴は無いが、細い目と腕には龍のタトゥーが目立つ青年。
計画は完璧だった。クスノキ達も順調に第2層に降りている。アルミシアはよく考えた。それ故、今現在も電王に悟られないように動けている。
だが、それでもイレギュラーが存在した。どれだけ運転に気をつけたドライバーでも、ふとした瞬間に事故ってしまう。それと同じ、これは避けようがない災害だ。何故なら相手は――ただの気まぐれでここにいるんだから。
「ありゃ…これはアルミシアさんじゃないでーすか。お久しぶりですねー。お元気ですかー?」
「…最悪の気分なのです。何故ここにいる」
雨に打たれながら、二人は対面する。大粒の雨が二人の前に落ちる時――
ギィン!
――二人の剣が交差した。
バシャバシャと、二人の雨音が大きくなり、楽王は小型ナイフ。アルミシアは太刀で交戦を始めた。
「ちょちょっと! アルミシアさん、落ち着いて! 楽王は、争いたくて話しかけた訳ではありません! お話をしましょう!」
「お話? 何をするのですか――」
剣が交わる。力が増えていく。アルミシアの過去が彼女の剣に力を与える。目は細く血管は浮かび上がり、怒号が鳴り響く。
「――お父様を売ったお前と! 何を話しをすると言うんだ!!」
「いや、ちょっ、まっ。落ち着い――」
水しぶきが大きく上がる。それを見ていたユーロとアクセサ。
それを察してか、アクセサは口を開いた。
「あれは楽王。ブレインに数少ない王の一人だ。別名嫌われのピエロと言われるほどの悪人だ」
「嫌われの? まぁ、いい印象は持ってないけどさ、相当恨みを買われてそうだね」
「そうだね。特にアルミシアは恨みが大きいんじゃないかな。実際楽王は、気まぐれに悪さをして多くの人間を不幸に落とした快楽殺人者だ」
場所は二人に戻る。
胸を切られ血を流す楽王と、鋭い目で睨むアルミシア。そして、二人は硬直して動かない。アルミシアの手に力が入る。息は切れているが、目に入る雨水ですら彼女は瞬きをせず、今も楽王の隙を探している。
それを見てか…楽王は1つ大きなため息をした。
「はぁ…全く。少しは成長したかと期待しましたが、結局周りが何も見えていない。ガッカリですよアルミシア様。それで国を背負えるとでも?」
「…ギリっ! どの口が!」
「この口ですよ。…だから貴方は主人公になれない。どこまでいっても、主役の足を引っ張る脇役なんですよ」
「…どういう意味なのですか!」
「ブレインを救う。お父様の無念を晴らす。お兄様を救う。えぇ、立派な理想ですね。それを、自分の願いと勘違いしている点以外は」
その時、アルミシアの心が揺らぐ。まるで自分の足元の薄氷が、徐々にひび割れていくように、楽王の言葉は確信を述べる物であった。
だが――その後アルミシアの頭に浮かんだのは――
「お転婆姫ですねぇ」
――知り合って数ヶ月のクスノキの顔だった。
その顔を見て笑う。そして、次の瞬間彼女の太刀は、大きく楽王の胸を切り裂く。
それ見た楽王は、少し後退りをしてアルミシアを見た。
「おや、少しは揺さぶられると思いましたが、まさかの悩む事すらないとは…誰かに心の訓練でもさせられましたか?」
「さぁ? お前が知ることは無いのです。ただ、私は…もう迷うことは無い。楽王…お前は敵なのです」
その声は、雨の音で掻き消える程小さく儚い覚悟だが、それでも楽王には簡単に溶かせない大きな氷の覚悟だった。
それを見て楽王はまたひとつ大きなため息をした。
「…はぁ。厄介な味方がつきましたねー。成程、ここで貴女を殺すのは無理な様だ。前言を撤回します。ほんの少しは…周りが見えているようで。
ではさようなら。次の雨が貴方の喉を切り裂くナイフにならないことを、祈っております」
そして、楽王は消えた。
アルミシアの心に迷いは無い。よって彼女の行動は、ここよりさらに加速する。
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