戦闘は突然に
「夕焼けですね」
赤い空、赤い海、紫外線が優しく目に当たる。
そら高く昇るのは、煙か湯気か。魂にも似ている小さいそれは、クスノキの目の前で儚く消える。
「じゃあ自由行動で」
アクセサ曰く、自分の目の届く場所であればどこでも言っていいとの事。今いるのはビーチ。
俺とユーロは、項垂れながらビーチの砂浜で体育座りをしていた。
((ナイトプール。閉まってた…))
俺達はこの世の終わりのような表情で、夕焼けを真っ直ぐに見つめている。他のやつの視線なんか気にすんな。ナイトプールじゃ日常茶飯事だし。
「…てかさ、クスっち」
落ち着いたのか、ユーロは話しかけてきた。
「なんですか?」
「今更だけど、固有魔法使えるようになったんだね」
「……あぁ、そうですね。私の旅も無駄じゃなかったのでしょう」
「無駄とか、そういう事考えたことは無いけどさ、クスっちは良かったの? 固有魔法を覚えるってことは、その人生をそれに捧げると同義だよ?」
……みんなそれ言ってくんなー。そんなにダメか? 守り抜きゃいいんだろ?
それに、
「あなたも持っているじゃないですか、固有魔法なら。ギャラクシーワンでしたっけ?」
「あはは、それを言われると耳が痛いね。でもさ――へ?」
その時、ユーロの目が点になる。前を向き、何かありえないものを見たかのように。
並んで俺も前を見ると、息を飲む。有り得ない事が起きていた。…何が起きた?
「みんなは?」
「…5秒前まで、たくさん人がここに居たのに」
気づけば、ビーチにいるのは俺とユーロのみ。ハクアやアクセサ、ほかの旅行者も現地民も、動物すら居なくなっている。
その時、不安がよぎる。ハクアが初めてバグに遭遇した時も、いつの間にか人が消えていた。
あれが意図的だとしたら?
アルミシアは言っていた。この世界はデータの塊。そしてそれに干渉することは、電王でも難しいと。
だが、それはアルミシアから見た話。それを今の電王が出来ないとは――
「どう? 3人だけのビーチさ。勘違いしているかもしれないから、言っておくけどさ。周りにいた人が消えたんじゃないよ? 君たち二人が、誰もいない空間に、テレポートしたんだ」
ヘラヘラとした男の声がした。軽薄で、ちゃらんぽらんでありながら、存在感がある声が。
「あんた、誰? 味方?」
振り向き、先にユーロが問う。
軽薄な男は、笑いながらこちらを挑発してきた。
「うわすご! ここまでやって、まだ味方? なんて聞けるんだ。危険信号が脳に届いてないんじゃない? 神経詰まってるかもね! ギャハハ!!」
「はっきり言えよ。味方? 敵?」
「…あぁそう言えば、そんな問いだったね。答えるとしようか、そんなもん――」
男は、一瞬でユーロの目の前まで近づき、
「――敵に決まってんだろ?」
拳で、ユーロの顔面を殴る。
だが、それを見てからユーロは手で簡単に受け止める。勿論俺も動いていない。あの程度でユーロが負ける訳もない。だって、
「お前さ、敵はちゃんと選べよ? こんな軽いパンチで誰が負けるんだよ」
「…へぇ」
簡単に拳を受け止めたユーロを見て、男は動揺する事もなく、ただ一言。
「流石は、サタンのチカラを受け継いだ王女様だ。だが、俺の拳を受け止めたのは…ルール違反だ」
「何を――」
その瞬間、男の拳は動いていない。誰も攻撃していない。ユーロも油断していないはずなのに、顔面を殴られた様子と、ともに奥の海に吹き飛んだ。
「ユーロ!?」
ありえない。ユーロがあの程度に吹き飛ばされただと? いや、そもそも【ルール違反】とは何だ? 何故あいつは、それを口にした?
だがとにかく、
「私の友達に何をしているんですか!」
攻撃しかない!
俺の攻撃挙動で、男は反応して体制を整えるが遅い。その前に俺の拳が、あいつの顔面を吹き飛ばす! …はずだった。
「は?」と言う声が出た。俺の拳は確かに、男に当たっている。感触もある。手応えもある。なのに、男には一切ダメージが入ってない様に見えた。
男は、俺に呆れた目をしながら話す。
「お前さ、友達が得体の知れない力で吹き飛ばされたのに、普通突進するかね? 猪じゃないんだから学べよ。ルール違反だ。それも」
「何を」
「そら、帰ってくるぞ」
刹那、俺の顔面を激痛が襲う。何かに殴られたような衝撃と共に、俺も同じように海に吹き飛ぶ。
だが、そのスレスレにユーロが俺を受け止めて、回避した。
「大丈夫? クスっち」
「えぇ、ですが。あれは一体なんの力ですかね」
俺の攻撃も、ユーロの防御も通じない。そんな事があるのか?
いや、そもそもあいつは何者だ? 何の目的で――
「はぁ…」
その時、男は深い深い深海のようなため息をついた後、欠陥品を見るような目でこちらを見てから、落胆の声を出す。
「こんなもんか。ディスガイア様が、用心しろといった存在は。…まぁ、電王に敵う訳も無いとは思っていたが、こんな雑魚かよ」
ディスガイア? 電王? 嘘だろ? まさかこいつ!
と、俺が確信を得ようとするのを見て、男は叫ぶ。
「遅い、遅い、やっと気づいたかマヌケめ!
そうさ、俺がそうだよ!
俺こそが【電王】【パイソン・バルンカズ】だ! かかってこい、邪王に歯向かうハエ共が!
王直々に、成敗してくれる!!」
という訳で、いきなりラスボス戦という事だ。
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