魔王再誕
夜の国 アフトラザニア
ここは、道楽に溺れた金持ち共が自身の欲求を満たすために、作った大人の国。
奴隷が監禁され、次々に生み出される。それはまさに地獄絵図。
権力を持つものだけが幸せになる、この世の縮図と言ってもいい、国だ。
だが――この国は今日消える。だから覚えなくていい。
そんな国は、初めからなかったのだから。
そこに、一つの閃光が落ちる。質量を持った何か、急スピードで飛んできたそれは、王宮に衝突し建物を破壊する。
来たのは魔王。生首だけのクローンを持ち、王の死体を踏み潰す。
ようやく、ようやく魔王の称号が取り戻される。なのに彼の心は、喜びとは反対の感情が溢れ出していた。
近くにいた奴隷にすら気づかず、そこから見える少し綺麗な夜景を見ていた。
何も感じない。世間では、人生で一度は見た方がいい夜景と言われようと、彼の心は石像のように動かなかった。
「聖王…つまらん死に方をしやがって」
「…ひっ!」
その声に、魔王は目をずらしやっと奴隷を認識する。
だが、興味は無く冷たい雨のような視線で奴隷を見る。
「悪いな。興味が無い」
血飛沫が舞う。誰のか等、問う必要すら無い。
魔王の視線は、最初から空を見ていた。やっとだ。ついに念願が叶う。
これは天啓である。天の意思である。魔王の願いである。序幕の始まりである。
生まれたのか、蘇ったのか、それは分からない。ただ、称号が蘇る。
人々の意識に、魔王が入り込む。それは概念的に感染を始め、遂には――
「魔王ってまだ生きているの?」
「魔王が帰ってきた」
「勇者はいないのに」
「だれか助けてくれ…」
――魔王の枷が外れていく。重かった手は軽くなり、動かなかった足は徐々に自由が効き始める。
錆び付いた全身は、新品に変わっていく。心音が鳴り響く、絶望が這い上がってくる。
「俺か思うに魔王とは、人間が受けるべき傷である。滅ぼす悪でも無く、滅ぼされる悪でも無い、純粋な力の証明で無ければならない」
魔王は、自らの信念を呟きながら、進化の快楽に酔う。
覚えがあるはずだ。新しいおもちゃを買った時、その剣で敵を殺そうとした時が、頭の中の敵を皆殺しにした事が。
「あ? 退治?」
「えぇ、そうです。貴方には、もうひとつ世界を救って欲しいんですよ。1個できたのなら、もうひとつなんて楽勝でしょ?」
「何を根拠に――」
「出来ないのなら、今あなたをここで殺します。月王の名にかけて、めんどいのは嫌いなのですよ」
「……イカれてるよ。お前」
懐かしい記憶を噛み砕いて、今を見る。あの時、どの選択が正解だったかは、結局分からないまま。
それでも魔王は、前に進む。例えそれが、世界中の人間の非難の的であったとしても、彼の目を見て止めるヤツがいなければ、空気も同然なのだ。
進化が終わる。目を開ければ、いつもと変わらない景色。
当然だ。別に背丈や身体が変わったわけじゃ無い。寧ろ元に戻っただけ。
今より、アリスは【魔王アリス】として、本当に再誕した。生き動く地獄の兵器が動き出したのだ。
「さてと、あそこに行く前に、肩慣らしといくか」
王宮にSPが、入ってくる。多種多様な武器を持って、魔王を殺しにくる。
最初こそ、魔王の視線だけで震え上がったSPだが、臆病な自分を騙し攻撃に転ずる。
「死ね、魔――あぎゃ!」
最初に、ピストルを持っていた男の頭が弾ける。赤い花火は、周囲の服や顔に壁を汚して、悲鳴を連鎖させる。
魔王から見れば、生命の終わる時などいくらでも見てきた。今日も同じ。
世界は電力と同じ。回れば必ず抵抗が生まれる。だが、この世界にはそれが無い。ならば――
「来い、人間。俺の名は魔王アリス。お前達が世界を愛すのならば、おれが壊そう。世界終了の鐘を鳴らせ!」
魔王の魔力により、王宮の壁にヒビが入る。ヒビが入ったのは、SPの心にも。
逃げ出そうとする者がいる――
「逃げるな」
発したのは魔王。SPの動きが止まる。
「逃げたら殺す。そいつから殺す。立ち向かえ、これはお前たち人間が、殺すべき災厄だ。殺せ、やってみろ。お前の全身で俺を殺してみろ」
無理難題だ。これは蟻にICBMを止めろと言っている様なもの。
SPの表情は曇っていく。血流が上がり、アドレナリンの高揚効果も、最大まで登ろうと、恐怖と強圧が、全てをかき消していく。
痺れを切らしたSPが逃げ、殺される。
「――まぁ、そうだよな。人間は俺が思っている以上に強くない。勇者や、バカじゃない限り、俺を殺そうなんて発想は浮かばない。
だが、それはもうひとつの答えを生む。滅亡していいって事だろ?」
魔王は足を上げる。大きな足音を鳴らすと、地面に魔法陣が形成される。
これは、魔王の意思では無い。彼が動作を行えば勝手に魔法が発動するのだ。
魔王とは反対の純白の光。それが夜の国を包み込む。言い方さえ綺麗だが、この光は全てを滅ぼす醜悪の光である。
夜の国は今日終わる。眠る人、叫ぶ人、逃げ惑うやつ全てに平等な死を与える。
◇◇◇◇◇◇◇
塵となった国で、1人佇む魔王。
星が見える。その星は遠すぎるため届かない。それだけなのだ。それだけで、人は星を掴む魅力を忘れてしまう。
ただ、一言いえる。それは魔王にとって些細であると。
確実に魔王は見えている。目指すべき場所を。
「終わったか?」
「あぁ…」
追いついた怒王は、魔王と合流する。
先程まで自分が見ていた理想郷が、今では荒廃と化している。それを見ても、少ししか心は動かない。
「ここの料理好きだったんだけどなー」
「仕方ないだろう。これがここの運命だ」
「お前が、降りたんだろ!?」
魔王は、少し笑って怒王の横を通る。そして次なる目的地を告げるのだ。
「行くぞ」
「行くって、どこにだ?」
「魔王の称号を取り戻し、やっとやつの居場所がわかった。天空【パラダイス・ロスト】か。そりゃあ見つからんよ」
「何の話――」
「原王に会いにいくぞ」
その言葉に、怒王は目を見開く。
称号を持つものなら誰でも知っている。それは――
「生きていたのか!? あれが」
「あぁ。俺と同じ始まりの100年の生き残り。そして、この世界に称号というシステムを生み出した全ての元凶だ。原初の王。名を――」
〃原王 ワールド・プリテンダー〃
◇◇◇◇
「そういえば死王はどうなったんだ?」
「死んだぞ」
「殺したのは、お前か? それともムーンか?」
「どちらもハズレだ。あの勇者の卵だよ。殺したのは」
「…マジか。ここまで来ると会ってみたくあるな」
「いずれ会えるさ。まだあいつには利用価値があるからな」
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