少し朧気な白い記憶
ホワイトハウス
揺れる景色、暗い海を人口灯の明るい船が進む。
風はなく、星すら照らさない新月。
白髪が揺れる。船の上の風でなびく。だが、船の先端に座る彼は、強風でも揺れることは無い。
「……死王」
彼の顔は見えない。だが、背中からは少しの哀愁が見える。誰もいない場所だからこそ、出せる感情もあるのだ。
「お隣よろしいですか?」
「…お嬢様」
白王は、振り返り自身の主を見る。
思えば不思議だ。あの時、何もすることがなかった自分に、手を差し伸べたのは、同じく自分と同じタイプだったと言うことを。
「終わりましたわ。アルピスで、死王は消滅した」
「そうですか。彼も、やっと死ねたのでしょう」
「…思いに老けて?」
「いえ、私にはそのような資格はありません」
「いつも思いますが、本当に不器用ですわね。白王…いえ――」
これから出る言葉を白王は止めない。止めたところで言うのが主であり、それを受け止めるのもまた彼なのだから。
「――元、生王様?」
「…お嬢様にはかなわないですな。…焦燥に浸る等、私にはその権利がない。本来であれば、私が彼を冥土に向かわせなければいけなかったのです」
「…本当に、不器用ですわね」
アルギュワが、髪を触る。そこから香る柑橘の匂いに、少し笑う白王。
彼女が「?」 という顔をすると、「いえ…」と少し誤魔化す彼。その笑顔は優しかった。
因みに、
「死王とは、親しかったのです?」
「…どうでしょうね。お互い生きているのは知っていましたが、それぐらいの関係です。昔の彼は、優しかったんですよ。死は死でも、慈しむ死だった。
だが、あの日、狂王に唆されて変わってしまった。今でも、夢にみます」
「そして、それすら操ったディスガイアという男。いえ、邪王…」
そう、全ては邪王に行き着く。彼らは知っている。全ての黒幕を――この先に起こる全ての舞台、それを見せずカーテンコールを下ろそうとしている者を。
新月すら明るく見えるほど、彼らの未来は暗い。このまま行けば必ず邪王の勝ち。
クスノキ達に勝ち目など無い。魔王や月王がいても、五分あるかどうか。
だからこそ――
「お嬢様。この船は」
「えぇ、予定通りテイキョクに向かっています。香織の命令もありますが、あの件も気になりますので。
ですが、戦力に不安がありますね。モルトなども居ますが、クスノキがいれば…」
「――来ますよ」
「え?」
アルギュワは、白王を見る。彼の顔はこちらを向いて、確信に至る表情でこちらを見ている。
「来ますよ、彼女はテイキョクに」
「根拠は?」
「…似ているのですよ。すごく」
「似ている? 誰に?」
「もちろん、勇者サタンにです。彼と旅をした時は、それはもう波乱の旅でした。彼が行くところ全てに問題が起き、もはやあれが問題を起こしているのでは…と思っていました」
アルギュワから見た白王の目は、凄く悲しそうだった。
揺れる髪も、髭も、服すらも軽やかに動くのに、その表情だけは決して動かない。慈愛が届く表情だった。
「楽しい旅でしたよ…」
「そして、死王を討伐したのですね」
「えぇ。仲間でしたから」
「仲間?」
「言っておりませんでしたか? 魔王アリスを封印した時の勇者サタンの仲間は、私と死王でした」
「え…ええぇ!!!???」
開いた口が塞がらないアルギュワを見て、白王は高らかに笑う。久しぶりに、少し面白いものを見れたようだ。
船は動く。彼らの戦いの地へ、クスノキ達と更に後の話に明かりをつけるために。
「…因みに本当ですの?」
「どうでしょうね」
「またはぐらかす…いい性格でありませんわよ?」
「でしょうね。ですから、私は――」
――勇者を見捨ててしまったのですよ。
読んでいただき本当にありがとうございます!
白王 サタン 死王の旅も、書きたいなと心の隅で思ってます。
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