夢から覚めた夢
戦いは終わった。
死王に勝ち、そしてアルピスの未来は守られた。
それなのに、何故ここまで喜べないのだろう。何かが迫ってきている気もしたが、それは無いと自分に言い聞かせる。
むしろここで来たら、もう俺に抗う術はない。バットエンドだ。
「てか…誰も無いんですね」
瓦礫の街をヨタヨタ歩く。血を失い過ぎた。
意識が薄れていく。やっと、歩けるまで回復したのに、また意識をうしな――
「おっと、大丈夫か?」
支える体があった。このどうしようもないぐらい、なんかの粘液でぐちゃぐちゃなのは――
「貴方ですか。エド」
「おうよ。終わった様だな」
えぇ。とエドの肩に捕まりながら、話す。するとエドはさっきまで地下深くで狂王を倒したと言っている。
「え? ちょっと待ってください。じゃあ貴方なんでここにいるんですか」
「そりゃあ、なんか変なボタン押したら、トラップが発動して、地上に放り出されたって感じだ」
「それはそれで大丈夫なんですかね?」
――と、呑気に会話をしていると、俺達の前を何かが横切った。吹き飛ばされたように見えた、その正体は…
「クスノキ…死王には勝ったようだな」
「プリス!」
やっべぇ! 普通に忘れてた!
え? てか何が起きた? 何故プリスがここまで消耗している?
ボロボロだった。体全体から血を流し、息は切れ切れ、死にかけの状態だった。
一体何が――と、俺がプリスに近づくと。
「やれやれ。狂王は何をしている?何故死王はいない。復活は我を待ってからだとあれ程言ったはずだ」
声の主の方を振り向く。少し大きい瓦礫の上に何かがいた。
白い長髪で、仮面をかぶり大剣を持つ女性の姿。
「貴様は…」
「知っているのですか? エド」
「あぁ、確か魔王アリスの仲間だ。奴と組んでいたのを見た気がする」
それを聞いた白髪の女性は、頭をポリポリしながら、少し下を向く。
「まぁ、あれは表の姿ではあるが。まぁ、間違っていない。お前達の敵と言っておこう」
「そうですか!」
俺は剣を抜く。固有魔法は使える感じが無い。
ただそれはそれ。敵というのなら、必ず倒そう。やっと死王に世界を救えと言われたんだ。
それを漁夫の利で取られてたまるか!
「…はぁ――」
それを見た奴は、ひとつため息をしてこちらを見る。少し見える目は、こちらを哀れんでいる?
「ここまで来ても分からないんですね――」
白髪の奴は、仮面を取る。
そこから顔が見える。何だ、分からないとは。お前の事など一度も見た――こと――な…い……………は?
「――ご主人様」
「…………シロ?」
何が起きている?
頭が回らない。俺は知っている。あの時自分が救えなかった白いオオカミ。あの時確実に目の前で死んだ。
有り得ない。生きているわけがない。あれがシロのわけが無い。なのに――何故、私はあいつがシロだと確信している?
「シロなのですか?」
「――あぁ、やっと分かったんですね。ご主人様は、いつも理解が遅い。だから、ダメなんですよ。
まぁいいです。死ね」
いつの前にか、シロが俺の目の前にいる。剣を持ち、確実に首を斬るために、大ぶりで振る。
「シロ…?」
「はいはい、死ね」
横にいたエドが走るが、間に合わない。いや、ここから俺を助けられるやつなんて――
「させない」
「…!? まだ抗うか! 勇者の垢が!」
助けてくれたのは、後ろで死にかけのプリス。
最後に血を吐き、酷い呼吸で話す。
「逃げろ。クスノキ。ここはお前の死に場所じゃない。私のだ」
「何を言って――」
「エド…と言ったな。頼む」
「いいのか?」
「あぁ」
エドは俺を担いで、シロから逃げる。
プリスの顔が見える。その顔は、穏やかに笑って満面の笑みだった。
「じゃあな、クスノキ。お前だけがディスガイアに抗えるんだ」
「…何をするかと思えば、逃走ですか。随分と古典的な。まぁいいです。貴方を殺すのは後、まずはあれを始末―― 」
プリスは指を鳴らす。
「固有反転」
「な!?」
シロとプリスの二人だけが、反転の中に入る。それを俺は見るしかできない。エドは一目散に走っている。何とかしなきゃ! プリスが死んじゃう!!
「エド! 離してください! プリスが!」
「もう無理だ! 分かるだろ! シロ…と言ったか!? あれの力は死王並だ! 勝てるわけが無い!」
「でも! でも! まだ、あそこにプリスがぁ!!」
固有反転ができ上がる。もう、勇者に出来ることは何も無い。プリスは自分が死ぬまでこれを解く気は無い。
そして、それは狼も分かっている。
「…やってくれましたね。ディスガイアや、あのスライムにグチグチ言われるの好きじゃないのに…」
「そうか、それは残念だ。だが、ここは通さん。これが私の最後の戦いだ」
「私の? 今までずっと道を間違えていた貴方が?」
「そうさ、間違えていた。だから、最後ぐらい正しい道を歩みたい! 例えそれが、万人に間違いだと言われても、私はそれを信じたい! あいつを信じたいんだ!」
プリスの眼光が光る。
狼にもはや、勇者を追うことは出来ない。これを殺すのにも時間がかかる。そして時間かければ、彼女をムーンが守るだろう。
つまり詰み。であれば、やる事はただ一つ。
「とどめを刺すのは好きではないんだが…いいでしょう。聖王プリス。お前に死を与えよう」
シロがディスガイアから与えられた称号は【狼王】
背中から大きな大剣を、出し振りかざすオオカミ。
着た白銀の鎧から光が乱反射し、それがさらに白髪を美しく飾り立てる。
「何か、言い残す言葉はあるか?」
「…無い。と言いたいが、お前はクスノキと知り合いなのか?」
「……昔の話だ」
「そうか? お前は、あいつを殺そうと思えば、できたはずだ。なのに――」
「死ね」
シロの大剣が、プリスの首を飛ばす。
ドサッと、落ちた首からは今も鮮血が流れ出る。瞳孔は広がり、声も出さない。完全に彼女は息を引き取った。
「はぁ…はぁ。随分と、好き勝手言ってくれたな」
「――終わったか?」
プリスの固有反転が消える。
それと同時に、シロの横に来たのはディスガイア。
彼も少し傷を負い、シロはそれを見ても何も思わない。
「終わった。だが、狂王と死王がいない」
「奴らは死んだ。クスノキとエドに殺されてな」
「…そうか。お前の計画は全て水の泡になったと」
シロの煽りに、ディスガイアは何も言わずただ空を見て、ポッケに手を入れてため息をついた後、
「いや、プリスを殺せただけでも、僥倖だろう」
「あれがか? 貴様に傷をおわせたのは、大したものだが、それでも――」
「いい。帰るぞ。本拠地に」
そして、シロとディスガイアは撤退をした。
残ったのは、瓦礫の山と青空の下、ボロボロのアルピス。
だが、はっきりしたのは今日滅ぶはずのアルピスの運命は転生者二人によって、完全に覆されたということだけだ。
読んでいただき本当にありがとうございます!
アルピス編残り1話です。プリスは完全に脱落です。
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