勇者VS死王(終・下)
反転が割れた。
俺と死王の激突に耐えられず、シャボン玉のように崩壊した。
久しぶりに感じる新鮮な空気を吸いながら、落ちていく俺。
アルピスの地面を触りながら、少しづつ何とか立ち上がる。
剣のぶつかり合いで、色々なところから血が溢れだしている。頭はもちろん、目は耳や口からも。やはり、あいつのテリトリーで、無茶するのは流石悪手だったか?
それでも倒せたなら――
「なんて、簡単には行きませんよね。自分で言うのもなんですが、タフすぎません?」
「そう…だな。ここまで来れば、あれで死にたかったのだがな」
お互い、もう戦う気力は無い。だが、ここで何もせず和解できるほど、俺たちは大人じゃない。
ここまで戦いあったんだ。最後まで足掻こうじゃないか!
地面に落ちていたペテルギウスを握る。それを見た死王は表情を変えることなく、同じように剣を構えた。
「勇者。3回だ」
「えぇ。決着をつけましょう」
俺と死王は、目を大きく開け剣をぶつけ合う。
これが一撃目。
まるで、最初に出会った他人のように。
もう一撃。自由にぶつけ合う。これが2撃目。
少しだけ、喧嘩しあった親友のように。
死王は剣の反動で大きく飛び上がる。
だが、目は死んでおらず俺を見て、最後の一撃を俺にぶつけようとしてきた。
「最後だ! クスノキ! 証明しろ! 死に人は勝てると! この腐った世界でも! まだ、抗う奴がいると!!」
「望むところです!」
俺は死王に向かって飛び上がる。落ちる死王と上がる俺。
剣に力が入る。あぁ、これで終わり…終わりなんだ。悲しくはない、後悔もない。
ただ、一つだけ言えるとしたら、お前とは普通に会いたかったよ。死王。
「終わりだ! 勇者!」
「死王! 黄泉に生きなさい! アシュトニング!」
最後の一撃が、ぶつかり合う。お互い全力をかけて斬る…訳では無い。俺は、剣を弾く。
死王は、目を見開いた。勘違いをしていた。死王を斬れるのはペテルギウスのみ。
だからこそ、最後の一撃はペテルギウスだと確信してしまっていた。
死王の剣をフォールアウトで弾く。そして、納刀していたペテルギウスを抜く。
これで最後だ。終わりにしよう。勇者と死王…いや、人間とバットエンドの拒絶の物語を!
「アシュトニング――二撃目!!!」
死王に振り下ろされたペテルギウスは、深く体に入る。
それを見て、死王は抵抗することも無くただ「ありがとう」と、安らかに笑っていた。
これで決まる。勝者は勇者である。
この世から、死王が消えていく。死の象徴が消えていく。
青空の元、晴れた雲から光が垂れ死王と勇者を照らす。
「負けたか…そりゃあ、悪役は勝てねぇよな」
死王の体が塵になっていく。本来再生する体も、死んでも復活する機能も、クスノキの力で阻害され、これが本当の死だと直感する。
だが、死王の心は極めて穏やかだった。負けて悔しくもないし、死ぬ恐怖も無い。
やっと、答えがわかったのだ。
あの時、少女が言った好きに生きるとは、結局これの事だと。
好きに生きて、好きにしぬ。ただ、それには一つ責任を取って、後世に残さなくてはいけない。
死王はクスノキを見た。そこにはボロボロで今にも気を失いそうになっている。
(やれやれ、どっちが勝ったんだかな――)
死王は、クスノキを引っ張り体を合わせる。そして地面に落下する時に下に潜り、クッションになった。
慈悲だ。死王を殺したのだから、最後まで足掻いてくれないと困る。
それが、死王の唯一の願いにして、やっと死ねる要因なのだ。
見ると、死王の右腕が消えていた。足も、徐々に消えていっている。
あんなに嫌いだった、太陽も今は愛おしいほど見れる。罪の国すらも今はおかしいほど好いている。
「消え…るんですか?」
「寝とけよ。勇者」
クスノキの目が覚める。とは言っても、ほんの少しだけ直ぐに落ちるが、それでも死王の温もりを感じていた。
腕…は掴めないので、耳を胸に当てるクスノキ。
「貴方…鼓動がないんですね」
「そりゃ、死んでるからな」
いまだけは二人の時間。やっと戦いが終わり、ほんの少しだけ出来た、別れの時間。
お互い晴れた気持ちで、最後の言葉を語る。
「さようなら死王。貴方の生に意味があったと願います」
「…おう。じゃあな勇者。死王を殺したんだ――救えよ、世界」
そして、死王は消える。
先程まであった強大なオーラも、今日で滅びるアルピスの運命すら、掻き消えた。
そして、それはここでも感じる。
「死…王?」
地下深く。狂王は、感じた。先程まで暴れていた死王のオーラーが完全に消え去った。
それはつまり、死王が消滅したということ。死王の敗北という事だ。
喪失、それが狂王の心。そして、
「ありえない。ありえない! 死王が負けるわけが無い! イカサマだ! 絶対に違う!!」
狂王を相手にしていたエドは、ついに笑う。
(狂王のあの反応。やったんだな。クスノキ! 俺の助けなんてやっぱり要らねぇじゃねぇかよ!)
こうなれば、後は最後の調理のみ。エドはもう既に準備を整えている。狂王を殺す準備を。
「随分と焦っているな。死王も死ぬんだな。皮肉なものだ」
「…なんだと貴様」
発狂はエドの言葉で消え、ギョロリと振り返り狂王はエドを睨む。
その眼光にすら怯まずに、エドは挑発を続けた。
「なんだ? 図星をつかれて悔しいか? だろうな。思えばお前のやっていることなんて、ただ――死王の甘い汁を吸う寄生虫だったもんな!」
「言わせておけば! 死ねぇ! 転生者が!」
ついに堪忍袋の緒が切れた狂王は、エドに向かって突進する。
笑ったエドは、近くにあるレバーを引く。すると、狂王の足元が開く。トラップのような装置だ。
「な!」
狂王は下を見る。そこには現実では考えられない激流が、絶え間なく流れ続けていた。
狂王は、落ちる寸前に開いたドアをつかみ、下半身が水に浸かりながら、流れに耐えている。
「負けるかぁ!!」
「…まじか。ここまで来ても耐えるとは、まじで醜いな。だが、残念。お前の敗北は、この穴に入った時点で決まっているんだ」
「何を!」
「このフロアは排泄室だ。下の水は、何だと思う?」
狂王は、下を見る。水はただの水。それだけだ。
そう思った矢先、体の力が一瞬抜ける。ここで手を離せば死ぬのだ。手を緩めるなど有り得ない。
だが、それとは反面に、狂王の力は徐々に抜けていく。指が1本1本離れていく。
「ウゥ…何故だ。指が離れる!」
「…なんだ。まだ分かってないのか。冥土の土産だ、教えてやる。
さっき言ったよな? このフロアは排泄室だ。魔力を含んだ水から魔力を吸収し、そして排泄する場所がここだ。
つまりここは、魔力が一切入ってない、言わば砂漠の水。そんな水に魔力の集合体のようなお前が入れば、魔力が水に溶け出すのは、ガキでもわかるだろ?」
エドは、狂王の足を蹴る。最後の力で踏ん張っていた狂王はついに、全身が水に浸かる。
「ガボボボ!!」
狂王は、水の中を落ちていく。魔力の無い水の中、もちろん魔法なんて使えない。詰みだ。彼はこれから窒息死するだろう。復活するのも、魔力無しでは叶わない。
(ちくしょう。何故、こうなった。俺は――ただ、死王を神にしたかっただけなのに)
その時、狂王の頭に記憶がフラッシュバックする。
「お前に力を与えよう。アルピスで死王が復活する。それからは好きにしろ」
甘い誘惑。それに頷いてしまった時から、彼の運命はこうなると決まっていたとかもしれない。
(そうだ。あの時…お前の意見を聞いたから、許さんぞ! 許さん! ディスガイア!! 許さんぞ!!)
そう思いながら、狂王は落ちていく。薄れゆく意識の中、最後に懐かしい光景を思いながら。
「名前は? 」
「無い。お前は?」
「俺もさ。だから、名乗ろうか。いつか狂王と呼ばれる男だ」
「ださ」
「うるさい。お前もいつか死王と呼ばれる日が来るんだからな。行くぞ、世界を転覆させる為に」
この日を持って、狂王アルレリト。死王アンデットバーンは、この世から消滅をした。片方は悔いなく、片方は悔いだけ残して。
「じゃあな。狂王、力を貯めていた魔力の水に殺されるとは、皮肉なものだよ」
濁流を見たエドは、最後にそう言って、その場を後にする。ここは狂王の臭いで居るに耐えないからだ。
「もう少しか…私が来て死王が復活する手筈。面倒だ。
だが、もしかしたら会えるかもな。…そうだろ?」
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