勇者VS死王(終・上)
死王と俺の最後の戦いが始まった。
アルピスの未来、そして俺達の未来、それを決着させるには余りに不相応な戦い。
結局の所――
「死王!」
「勇者!!」
――殴り合いだ!
死王の顔面が歪む。両方とも固有魔法を全力で使っている。消耗など考えている暇などない。
俺の腹にも拳が入る。骨が軋むようた。雷光のような衝撃と、口から出る血の感触には慣れたくない。
そう思いながらも、下の反転を見る。
これが死王の反転か。随分と――
「はぁ…はぁ 随分と貴方の反転は禍々しいですね」
「そりゃ、死王だからな…ゲボ」
闇の中だった。その中に少しだけ光る鍾乳洞のような石と、黒い水の流れる何本もある滝。それしかない地獄にふさわしい反転。
俺が見た事あるのはアリスやアルギュワの二人だが、あの二人は反転に明確なイメージがあった。
だが、この反転は、まるで子供がクレヨンで書いたラクガキのように滅茶苦茶だ。
少し目を離すと、いつの間にか死王は大きく笑いこちらを見ている。
「いいのか? よそ見なんかして」
「どういう――」
「下から来るぞ?」
下…!!?
見ると、俺の足元だけが、沼地のようにぬかるみになっており、すぐさま飛び上がると沼地から大きな蛇のアギトが出現し、捕食の動きをとっていた。
もしも俺が、そのまま下に入れば食われて終わりだっただろう。
だが、下から来ることさえわかっていれば、と言うということは……下から?
その反応を見て、死王は上を指す。
「やっとわかったか? ここは俺の反転。どこからでも襲ってくるぞ!」
周りを見渡す。
そこから何十? いや何百という巨大な蛇が、一気に俺を襲ってくる。
別に噛まれる事は、警戒していない。だが、これが死王の固有反転という事。
固有魔法と固有反転は、密接に関係している。もし、あの蛇の能力をこの蛇達が使えたら…仕方ない。
【固有魔法 ハローワールド発動】
一瞬で蛇を全て吹き飛ばす。自分で思うが、どういう原理なんだこれ。おりゃ! ってやってるだけなんだがね。
「はは! 気合いだけで俺の蛇を消し飛ばすか! 相変わらず滅茶苦茶だな!」
「貴方に言われたくありません!」
俺と死王はぶつかり、両手で相手のそれぞれの手を掴み、頭をぶつける。
その力は拮抗しており、どちらも引くことは無い。勇者と死王、引いたら負けなのだから。
「もういい、お前が何故ここまで進化したのかは、忘れてやる。今は…この戦いに集中するとしようじゃないか!」
「…そりゃどうも。でも、何故あなたはここまで戦いを求めるんですか! まるで、誰かに殺して欲しいみたいに!」
「良い読解力だ…その通りだよ。俺は、ラスボスなんだからな。倒されるのが本望だ。
…ただまだ死ねない。あいつの答えを聞くまでは…」
「答え? 何の話――」
死王は、体を軽く回転させて俺の腹に蹴りを入れる。深く入ったのはいい。だが、この滝の中に入るわけには行かない! ここはマジでやばい気がする!
「ッ…!」と俺が間一髪で避けると、死王は追撃を入れる訳でも無く、語り始めた。
「なぁ、クスノキ。死ぬと生きるの違いはなんだと思う?」
「…意味的な話ですか?」
「馬鹿言え。根本的にだ。人間はいつか死ぬ。
ただ、もしなんの希望もなく、ただ生きるのに必要な時間以外を、ほぼ全て寝て過ごすやつは、生きていると言えるか?」
「それでも、生きているんじゃないですか? 人間は生きているんです。昨日まで、あなたの言っていた生きながら死んでいるとしても、明日から変えられるのが生きているの特権です」
そうだ。人間は脆い。死なんて目の前にしたら、きっとすぐに諦めてしまう。だから、俺みたいにみんな下を向いて前を向かない。
それでも、前を向く奴がいる。それは死が怖くない馬鹿じゃない。死を拒絶する愚か者じゃない。
死を踏み越えようとする挑戦者なんだ。だから、俺は――死王お前に、
「そろそろ王手です。死王。ペテルギウス抜刀!!」
勝たなきゃいけない。人間がこれからも、前を向けると、死を目の前にしても下を向かないと証明するんだ。今ここで!
「いきますよ。死王」
「来い、勇者…」
俺はペテルギウス。死王は蛇から作り出した紫色の剣。
それを持って、二人は激突する。その先の結末とは…
反転が崩壊する。
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