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永劫回帰は夢を見ない  作者: ユナ
涙花赤銅編

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241/277

勇者生誕

「ねぇ?」

「なんだ? 宿題終わったのか?」

「ううん。まだ、でもさ柊君は、勇者を信じる?」

「藪から棒になんだ」

「答えてよ。私はね、勇者はなりたくてなるものじゃないと思うんだ。きっと――」


【ならなくちゃいけないから、なるんだと思う】


◇◇◇

ん? なんか昔の夢を見てたな。てかそうじゃん。

そうだ、最初から間違えていた。

無理だったんだ。救える訳ない、俺は高校生だぞ? それが国ひとつ救えなんて、分相応にも程がある。

夢なんてない、そんな馬鹿なんてここにはいない。

大丈夫だ、いざとなったらムーンがいる。だから――


「クスノキ!」


俺の前に来たのは、ハクアだった。

良かった。何とか傷は癒えて行動出来ているようだ。


「…クスノキ」


彼女の目は、既に震えていたがそれでも俺の手を掴み叫ぶ、


「起きてよ! まだみんな戦っている!まだ負けてないの!」


負けてない? これが? 無理だよ。死王は勝てる相手なんかじゃない。あいつは今も遊んでいる。持っているであろう固有反転すら使わずに、おもちゃと遊ぶ感覚で、俺たちをボコボコにしていたんだ。

それを――


「どう勝てと?」

「…それは、、分からない。でも、でも――…ごめんね」


ハクアの口からは、解決策でも励ましの言葉でもなく、謝罪の言葉が漏れ出る。

その言葉に動揺して、俺は初めてハクアの顔を見た。その目から流れる涙にすら気づかず、俺は下を向いていた。


「ごめんね?」

「うん、ごめんね。だって君、この国になんの関係も無いじゃん。なのに…君に助けて欲しいなんて言うの、おこがましいよね。でもお願い助けて」


涙の花があった。彼女の伝う雫は、1滴は小さくとも、大きく溢れそれが小さな川を産む。

この国は間違っていた。それはそう。でもそれはそれ。

俺はこの国を助けるのではなく、初めてみたこの涙に寵愛をあげたいと思った。

例え、それが赤銅色に汚れようと、黄金に変容しようと、この涙の意味だけは変わらない。変えちゃいけない、それを証明するのも、守るのも全部俺しか出来ない。

だから――助けてやるか。


【やめろ】


手を掴まれる。物理ではなく精神的に、つまり掴んできたやつは【俺】

どうやら俺は、この道を進んで欲しくないらしい。


「手を離してくれませんか?」

【ダメだ。その先に行けば、戻れなくなるぞ】


【俺】の顔は見えない。だけどきっと酷い顔をしているんだろう。

この先の末路を知っているからだ。この地獄の道を進めば、きっと俺は日本に帰れない。いや、安らかなベットで眠ることすら許されない。

そんな気がした。でも――


「いいですよ。戻れなくても、決めましたから。守るって」

【何故だ。アルピスの為にお前は何故ここまでする。あいつらは所詮他人。

お前が日本にいた時に、死ぬほど見てきただろう? ニュースで見た死亡事故の実名を、人は一晩で忘れる。

その程度だ。その為に、お前が犠牲なる必要など無い。逃げろ、それでいい。それでいいんだ】

「…それでも――」


俺は、守りたいと思った。偽善じゃない、そんな安っぽいものじゃない。

最初はこの世界に転生して、俺もヒーローになれるじゃないかって思った。他には無い不思議な力で、魔王を倒す甘い話。

でも、現実はそう甘くない。きっと誰も、ヒーローになりたくてヒーローになったんじゃない。

それになるしか無かったんだ。それでしか守れなかったんだから。


「――守ります」

【何故だ! 何故お前は歩く!】


【俺】の怒号が響く。理解できないのだろう、そりゃあそうだ。これは、忖度の話でも、理性の話でもない、テストじゃ零点の回答なんだ。

きっと、今日ここで逃げたら、俺は明日を気持ちよく迎えられない。



守れ

戦え

病原菌を食い殺す白血球みたいに

悪を倒すヒーローみたいに

最後まで勇者を演じた馬鹿(サタン)のように!


【…行くのか?】

「えぇ」

【簡単には死ねなくなるぞ。それどころか】

「大丈夫です。だってこれは―― 一粒の涙の為に戦う物語なんですから」


もう【俺】は手を引こうしとしない。相変わらず顔は見えない。でも、


「失望しました?」

【いや、思い出しただけだ。そう言えば、お前はそうだったな。お前は――】

「負けず嫌いですから!」


俺の答えに、顔が見えない【俺】の顔が笑った気がした。

さてと、そろそろ行かないと。何時までも彼女を待たせる訳にはいかないしな。


「そういえば私のってどんな感じです?」

【発動すればわかる】

「そうですか。では行きます」

【…あぁ、言ってこい。大バカ野郎(勇者)よ】


◇◇◇◇


目を開けると、そこには今もないているハクアがいた。そうか、終わったか。


「クスノキ?」

「ん? あぁごめんなさい。寝てました」

「寝てましたって! …あれ? 立てるの?」


ん? そういえば…って体も軽いし、綿毛になったみたいだ。

それにあぁなんだろう。スッキリした気がする。今ならなんでも出来そうだ。そんな全能感すら感じるよ。

右手、左手、両足、頭、心、問題無し。なら行くか!


「じゃあ、ハクア行ってきます」

「え? 行くって何処に?」

「死王」

「無理だよ! 対策しないと勝てないって!」

「大丈夫です」


大丈夫さ、ほら行くぞ!!


◇◇◇◇


「終わりだな」

「……」


死王とアルフレッドの戦い…いや蹂躙は既に終わっていた。

むしろ、ここまでひとりで耐えた彼に賞賛を与えるべきだろう。死王も、


「じゃあな。名前ぐらいは覚えておいてやるよ。アルフレッド」


もう虫の息のアルフレッドの首めがけて、死王が手を振り下ろす。だが、


「させませんよ」

「勇者!? いつの間――」


手は勇者によって弾かれ、逆に死王は顔面を殴られ大きく吹き飛ぶ。国の端までなんの抵抗も出来ず、吹き飛ばされていた。

アルフレッドは薄く目を開ける。そこには、先程まで同じく手も足も出なかった、勇者がそこにいた。

だが、先程までとは全く違う。決定的なものがあると、彼にはわかった。

だから――


「クスノキ…済まない」

「…ハクアといい、この国は謝るのが好きですね」

「耳が痛い…な。俺はここまでだ。もう戦えん」

「でしょうね」

「だから――恥も無礼も承知で頼む。お前とは関係ないとしても、義理すら無いとしても…アルピスを守ってくれ…クスノキ」


風が吹いている。勇者は騎士の頼みに何も言わなかった。そして、死王の元に向かった。


(いいさ、元から…そういう奴なんだろう。頼むぞ…クスノキ)


騎士はそれを最後に、瞼を閉じる。腕を落とし、気絶した。もう彼が、この戦いで目覚めることは無い。


◇◇◇


「何が…起きた? 顔面を殴られただけで、俺がここまで吹き飛んだだと?」


瓦礫が起き上がりながら、頬を撫でる死王。

その頬には確かな痛みがあり、それは自分の力を破られたという意味。

だが、


(ありえない。先程まで俺に触れることすら出来ない奴が、ここまでどうやって? 成長なんてものじゃ説明できないぞ)


そんな思考をしていると、少し上の瓦礫に降りる少女がいた。先程まで手も足も出ない勇者が、上から見下ろしている。


「遅い目覚めですね。気分はどうですか?」

「…今最悪になったと言っておく」


死王は直感する。目の前の勇者は、成長ではく進化を果たしている。もはや遊び相手とは言えないほどの領域まで、限界を大きくぶち抜いたのだ。


(何を捨てた? どれだけ犠牲にすれば、その領域まで…)


死王は途中で考えることをやめ、顔を上げる。

こういうのは本人から聞くのが、1番早いと相場が決まっているからだ。

ただ、


「勇者、降りてこいよ」

「…」

「降りろ」

「…」

「降りろって、言ってんだろうが!!」


死王の意見を無視して、その場で動かない勇者に彼は、固有魔法の蛇を向かわせる。

四匹の蛇は、迷いなく勇者に向かって直進する。

それでも、勇者は動くこと無くただ見ているだけ。やがて、蛇が勇者を飲み込んだ。


「…なんの真似――」


【固有魔法 勇者生誕(ハローワールド)


蛇が塵になる。中で破裂したように、細かい破片になった蛇を見て、死王は一瞬思考が止まる。

見た事がない。自分の蛇が切られるならまだ分かる。だが、吹き飛ばされたのはこれが初めてだ。

つまり、中の勇者は剣すら使わず死王の能力を破壊したのだ。


「馬鹿――」


死王の胸ぐらが掴まれる。掴んでいたのは勇者。

死王は手を弾こうとしてもビクともしない。

そしてそのまま勇者は直進し、近くの壁に死王を打ち付ける。

その衝撃は凄まじく、後ろの壁はひび割れて崩れ去る。


「貴様――」


打ち付けられ、止まった死王。だが、勇者の手を掴んでもやはりビクともしない。

そして死王の目に映る勇者は、先程までとは違う、ライオンのような目をしていた。


「お前さ、何時まで勘違いしている? 私…俺の名はクスノキ、お前を斬る物だ。そして、アルピスを守る者である。

死は死らしく、棺桶の中で眠ってろ」


勇者の宣言に、死王は笑う。ただ無邪気に。

やっとだ。やっと自分の全力を出してもいい相手を見つけたのだ。サタンでさえ、対抗するために反転を使った死王と同格の相手を。


「固有反転」


死王は指を鳴らす。反転が構築されるまでの間。勇者は死王を逃がさない。

そのまま殺すことも出来るだろうに、死王の胸ぐらの手は固定するだけで動かしはしなかった。

2人共、分かっているのだ。この反転が完成し、そこが最後の戦いのフィールドであると。

アルピスの未来、そして国の原罪を決める最後の戦いが、


「さぁこい、勇者! 最後の戦いを始めよう! 俺とお前、どちらが強いかだ!」

「やってやるよ! 勝つのは今を生きる人類だ!」


そして、アルピス地下深くでも――


「殺すぞ! 転生者がァァ!!!」

「やってみろ! 狂王!!!」


エドと狂王の戦いが始まろうとしている。


こうして、

勇者VS死王


転生者VS狂王


二つの最後の戦いが今始まる。

読んでいただき本当にありがとうございます!


涙花赤銅編もクライマックスです。クスノキとエドは勝てるのか!


星を増やしてくれるとありがたいです。


面白かったと思ったらブックマーク!


感想やレビューもお待ちしております!


星ももちろん大歓迎!


具体的には広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にね。


そうするとロリのやる気が上がります。

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