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永劫回帰は夢を見ない  作者: ユナ
涙花赤銅編

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奇跡の一撃

「やってくれたな…死王」


勇者と死王は対峙する。

方や廃墟の古城で膝を着いて座る死王。

方や怒りで我を忘れそうになる勇者。


「やってくれたとは? 勇者よ」

「知らぬ訳もあるまい! 貴様が昨夜この国の民を全滅させたのだろう!」


勇者の激高に、死王は振り返る事もせず少し笑いながら


「それが何だ? 死んだだけだぞ? いずれ死ぬ生き物が死んで、何がそこまでお前を怒らせる?

あぁ、そうだったな。ここは…お前の帰るべき場所だったか? 勇者サタン」


その言葉が勇者の逆鱗に触れた。

剣を一瞬で抜き、首元に一気に接近して斬る勇者。それを指一本で止める死王。

お互いに余裕はなく、勝負は一瞬で決める事となる。


「「固有反転」」


2人は反転を行使し、熾烈な戦いを始める。

戦い自体は約2日間、休む間もなく行われ、生物だけが居なくなった死王の縄張りは、その姿を消し更地となっていた。

それでも――


「終わりだ。死王」

「…そのようだ…な」


死王の心臓を勇者の剣が貫く。ドクドクとマグマのような鮮血は止まることなく流れ出る。

勇者は勢いよく剣を引き抜き、その反動で死王は前に倒れる。


土砂降りの雨、砂埃すら立たぬ地獄の闘技場で死王は死を迎える。

だが、死王は死を前にして凪のような心持ちだった。

いずれ復活するとは知らず、それでも負けた事が心地良かったのだ。死ねる事が祝福のように感じてすらいた。

死王は思わず笑が溢れる。だが、それがまた勇者の怒りに触れた。


「何を笑っている…人が死んでいるんだぞ! 何千じゃない! 何十万と…貴様と言い魔王と言い、なぜ人を食べ物のように殺せるんだ!」

「…そうだな。何も感じてないからじゃないか? 」


死王の棒読みに近いその言葉に、ついに勇者の目の光が消える。


「何だ? 勇者よ。その幼児にするような説教で改心すると思ったか? 悪いが俺には悪という感覚は無い。

人間は死んだんじゃない。死なせてやったんだよ。それをお前のひとりよがりで怒るのは勝手だが、随分と都合が良いな。

ここにいた人は、俺が殺したんじゃない。お前が救えなかっただけだろう?」


そうだ。あの勇者さえ、人間を殺すのを止められなかった。

止められないのであれば、やってないのと同じ事。結果は同じ、最後自分の手に残ったのは、救えなかった奴の冷たい死体だけだ。



それは――お前も同じか?


「どうだ? そろそろ諦めろ。クスノキ」

「な…にをですか?」


負ける。まずいぞ、どうすれば良い。俺もアルフレッドも限界だ。

横を見ると、アルフレッドの足は震え今にも倒れそうになっている。辛うじて剣を刺して立っているが、それも限界だろう。

…もうこうなったら、あれを使うしかない。使いたくは無かった。これで倒せなかったら、俺達の負け、最高火力のアレを繰り出すしかない!


虫の息のアルフレッドに、少し話しかける。頼むから動けてくれよ!

こっちだって、動くの辛いんだ。指動かすだけでも、魂がヤスリで削られるぐらい痛いんだから。


「アルフレッド、動けますか?」

「…何とか…な。策はあるのか?」

「一つだけ…これで死ななかったらおしまいですね」

「そうか、やるぞ」


アルフレッドは震えながら、頑張って体をあげる。


「策は聞かなくても?」

「聞いても分からん」

「そうですか」


俺とアルフレッドは少し笑う。

立てなかったはずの足が上がる。まだ戦えると剣を握る。あいつに一泡吹かせてやりたい!

だから行く、何がなんでもやるしか無いんだから!


「立つか…来い!」


二人は死王に向かって走る。俺の予想が正しければ、死王にはある弱点がある。それを引き出せ!


死王の蛇が襲いかかる。四方から来る蛇に対応しながら、何とかあいつに接近するしかない。

…もし当たったら? それは――


「根性!!」


痛みに耐えながら、俺達は死王を目指す。そして、ついに…


「死王!!」


まずアルフレッドが切りかかる。もちろん攻撃は通じない。これは恐らく、死王に纏わりついている黒い煙の力だろう。

アレを攻略する時間が無駄だ。だがこれは逆も言える。煙で守っているという事は、内部に攻撃されたくないという事。であれば――


「アルフレッド…つまらんな。最後まで突進か」

「だと思うか?」


アルフレッド剣で死王を引き付けている間に、俺は後ろに回り込んで、あいつの無防備な背中を目指す。

そうすれば、必ず突破口がある! それを――


「後ろだな。勇者――は?」


――見越しているだろうと思った!

死王が俺だと思って振り向いた先にあったのは、一本のフォールアウト。

死王の弱点は、俺の攻撃手段が剣だけだと思っていること。であれば、俺よりも剣を警戒するよなぁ!

それが罠だとも知らず!


「今だ! クスノキ!!」


死王がもう一度前を向く。その時には、俺は既に真正面にいる。攻撃態勢になっていた。

もう遅い。今更お前が、その技を危険だと判断して、止めようとしても手遅れだ!


「体崩拳!!!」


一撃が当たる。浄化の力が、死王の煙を通り抜けて、内部に浸透した。そして遅れてくる衝撃が通る道をつくり、遂に死王にそれが襲う。


「ぐぁぁぁぁ!!!!!!」


この戦い初めての、死王の絶叫である。

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