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永劫回帰は夢を見ない  作者: ユナ
涙花赤銅編

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死ぬために生まれることは無い

本当に昔の昔、まだクスノキ達が転生する前、始まりの100年のこと。

ある国が滅亡した。

昨日まで繁栄と未来を掴んでいた軍事国家は、今日全ての生物が黒い柱になって見つかった。

人間、動物に魚類、果ては虫まで全てが黒い無機物の柱になっていた。

その国は、特に滅亡する事はしていない。ただ昨日の事、ある称号持ちと同盟を組む晩餐会を開いていた。

それが最後の晩餐になるとも知らずに、国の民たちは同盟の記念にパーティーをし、舞踏会は盛り上がっていた。


たった一言だ。たった一言――


「死王様」


――その名で呼ぶな。そう言われていたのに、世間知らずの子供の王女は口を滑らし逆鱗に触れた。

そこからは一瞬、彼は一度テーブルを人差し指で叩いただけ。

称号が全盛期の時、彼の魔法は念じるだけで発動した。それがどれだけ死者を増やそうと、自然淘汰と言わんばかりに。


死王は生まれた時から、死王だった訳では無い。

当たり前だが、称号である以上数多の人間から【死】の象徴と崇められる等不可能に近い。


死王は生まれた時、ただの人間だった。少し寡黙で、痩せていた髪で表情が見えない不気味な少年だった。

ただ、一つ他の人間と違ったのは、生まれた時から固有魔法を使えた事、それが彼の人生を大きく狂わせた。

だが彼もわかっていた。自分は安らかに死ねないだろうと。


ある日、隣の幼なじみが死ぬ。

死王にとっては、横ではしゃいでいた芋虫のような存在だったが、村からすればそれの存在は大きかったようで、大きな追悼が行われた。

別にそれ自体は彼からすればどうでもいい。臭い煙も、マグマのような赤い火も、死体を焼く匂いでも彼の目は眉ひとつ動かすことは無い。


「何の話?」


目を閉じる。もう瞼が動くことは無い。心臓は止まり、呼吸は停止する。

それは、身体機能の継続不可能状態。それを死と呼ぶのなら、引き起こしているのは彼だろう。

1人、また1人と死んでいく。あるものは苦しみ、あるものは寝ている間に、自ら命を絶つものもいた程だ。


そして、活気に溢れていた村から、彼以外の心音が消えた時、彼は初めて目を開けた。

勿論それまでも目を開けていたが、自我という殻を破り、彼は初めて自分の足で立ち上がる。

彼は今初めて現状を理解する。


「あぁ、ここの人達、俺のせいで死んだのか」


◇◇◇◇


「これが死王の誕生か」

「そうニャ。歴史としても一番信憑性が高いと言える」


アルピスに帰り、クスノキと別行動を取ったエドは、ニャークルが管理する王宮図書館に侵入した。

彼は全員が避難していると思っていたが、1人全ての書物を漁り、死王の弱点を探っていたニャークルに感心する共に、効率の無さに頭を抱えていた。

溜息をつきながらも、手伝う事を決めた彼は何百とある書物を見て、目が棒になっていた。


話は戻り、エドは要約死王の書物の中でも有益なものを見つけた。

だか、それでは足りない。情報はこれから集めるが、とりあえずの謎がエドの口から出る。


「ニャークル。この本の著者は誰だ?」

「分からないにゃ。私もこんな本は見たことがないのにゃ。まぁ、何百万と本があるから当然と言えば当然にゃ」

「そうか…とりあえずページをめくるぞ」


夕凪の地平線。星屑の夜空、ロウソクの朝日、それらを見ながら、死王は成長をしていく。

ただ人を殺して…命を摘み取り何もかもを不幸にして。

何百、何万と人が死んだ。死体には木が生え、自然と一体化する。

冷たい風が死王を撫でる。いつぞやに貰った服。奪い取ったマフラー。

それらが強風で煽られ、後ろになびくがそれでも彼の心は全く動かない。

明日があると陽気になっていた少女や、あの日親切にしてくれた他人も、今や死体となり目を閉じる事すら出来ない。


命とは効率皆無の生命体だ。生きるという目的があるのに、死というプロセスを最後にブロットしている。

それでも人間は死を喜んで受け入れる。生まれてきた目的を忘れて、羽ばたくように死んでいく。

どうすれば良かったのか、それすら分からない。

本当に荒唐無稽だ。死王はあの時も理解出来ていない――


「お母さんを殺してくれてありがとう」


不治の病に苦しむ母親がいた。死ぬほどの苦痛を味わいながら、死ぬことすら出来ない奇病。

奇病が母を生かし、永遠に地獄を味わせている。

死王は、それを聞いて暇潰し程度に「治してやる」と言って、母親を殺した。

治していない。ただ、生命活動を終わらせただけ。やぶ医者より酷いその処置だが、少女は責める訳でも無く、ただ安らかに笑っていた。


「…なぜ笑っている?」

「え? だって、お母さんの病気が治ったから」

「頭がおかしいのか? どこが治っている? 死んでいるんだぞ」

「そうだね…でも、これ以上お母さんは生きたくなかったと思う。やっと死ねたんだよ。救われたんだ、私はそう思えるよ」

「救われた…か。お前にとって、死とは?」

「難しいことを言うね。ただ、卑下するだけの物じゃないと思う。みんな死を避けて生きている。だけどさ、死を望んでいる人だっているんだよ。そう私は願いたい」


死王から見た少女は酷く儚い目をしていた。

ただ、それ以上に安らかに息をしていない母を見て、安堵していた。

死王の心のコンクリートに、何かが土足で入って来た。そんな夢物語がここにはある。


「お前はこれからどうするんだ?」

「…私? お母さんは死ねたし、私も殺してくれない? もう終わりにしたいんだ、黄泉で自慢にするには、悲劇はもう充分過ぎる程味わったし」


そうして死王は、少女の顔に手を置く。彼女の言葉も一切死王には響いていない。

ただ、最後…ほんの少しの言葉が、死王の気持ちを動かした。


「ねぇ、貴方も好きに生きていいんだよ?」

「何の話だ?」

「だって貴方、生きているのに死んでいる目をしている。それじゃあ勿体ないよ。一度の人生なんだからさ、私の分も生きてよ」

「無茶を言う」

「そうかな? やりたい事をやりなよ。その結果地獄に落ちても、それはそれじゃん。生きたいように生きて死になよ」


そして最後に「お母さんと私を殺してくれてありがとう」と、少女は笑みを浮かべて黄泉に旅立った。


時は戻り、崖で夕日を見ていた死王。

拳を握り、目を閉じて深呼吸をした。


「さて、行くか」


厄災が生まれる。死の具現化した化け物が指向性を持ってしまう。

足を踏み出す。崖から落ちる。海が近くなり、右手を差し出し、指が触れる。


「固有魔法」


大量の蛇が、近くの国を滅ぼした。この時から、死王の運命は決定してしまう。

死がランダムで与えられるのなら、俺が決定的な死を与えてやろう。

そこから数年後、彼は人々からこう呼ばれていた。

この世で魔王と同格の存在。【死王】と。




読んでいただき本当にありがとうございます!


死王の過去は長くなりそうなので、2部構成で。


星を増やしてくれるとありがたいです。


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感想やレビューもお待ちしております!


星ももちろん大歓迎!


具体的には広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にね。


そうするとロリのやる気が上がります。

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