勇者の帰還
「アルフレッド…」
「ご無事でしたか?」
大きな背中だった。いつも見ている彼とは全く違う、戦いの背中。白金の鎧に、漆黒の剣。赤色の髪の好青年イケメンがアルフレッドである。
「これはこれは、騎士様ですか。遅れてのご登場感心いたします…が、少々遅すぎるじゃないか?」
アルフレッドはハクアを見た。今にも死にそうになっている彼女。彼は守れなかった。来るのが遅すぎた。だが、まだ希望はある。ここで自分が耐えればまだ救えるかもしれない。
アルフレッドは剣を構える。
「死王…私は前菜だ。だが、そう簡単に食えると思うなよ?」
「いいね。メインディッシュのあの姫の前にお前を死に送ってやろう」
闘いが始まった。
アルフレッドの剣は、確実に死王の首を捉える。それを紙一重で交わし、嘲笑う。
舌打ちをするアルフレッドを見て、死王は更に挑発する。
「随分と短気だねぇ。騎士とはもっと悠長に構えるもんじゃないか?」
「黙れ。魔族ごときが」
「如き…ね。じゃあそれにやられる君は、何ごときなんだ!」
死王は足で踏み込み、拳でアルフレッドを攻撃する。防御体勢を取っていた彼を軽々と吹き飛ばし、後ろの家に吹き飛んでいく。
「アルフレッド!!」
「大丈夫です! 」
アリエルの心配に、瓦礫の中から声を出すアルフレッド。そして春雷のごとく一気に死王に突進し、大きく死王をアリエル達から引き剥がす。
死王は笑い、アルフレッドは一切表情を崩さない。
対峙し、互いの力で押しあっていた二人の地面は徐々にひび割れていく。
「いいね、流石は前菜だ! もっと楽しませろよ!」
「そうか、じゃあ旅に出るぞ!」
死王の目の前にいたアルフレッドは、一瞬で後ろに移動し蹴りあげる。
「マジか!!?」
死王の景色は地上から一気に、上空に変わり先程まで近かったアリエルが点に見えるほどである。
つまりアルフレッドは一蹴りで、アルピスのバリアを突き破り、先程魔王がやったレベルを人の身で行っているのだ。
その時下から来る気流で浮かびそうになる死王だが、頭を誰かに掴まれる。
勿論アルフレッドだ。どうやって移動したのかとか、なぜ呼吸ができるのかは置いといて、既に死王を下にぶん投げる体勢になる。
「お前まさか…嘘だろ?」
「地上が恋しいだろ? 帰してやろう!」
アルフレッドは死王を頭ごと思いっきり下に投げ、隕石のようにアルピスに落ちていく。
落ちた先で大きな衝撃と砂煙が舞う。痛みも痺れも感じるが、死王はすぐに起き上がり、アルフレッドを探す。
だが、目の前は砂煙で覆われており、遮られていた。
「落下も、酸素無しも、効果無しだな。であれば――」
その声と共に、死王の後ろから剣が入る。心臓から血が流れ、遅れて口からも血が流れでる。
「終わりだ」
アルフレッドの剣が更に刺さる。さらに血を吹き出す死王。ついに膝から崩れ落ち、勝負は決する――はずだった。
「終わりだ? そいつは困るな! これからなのに!」
首だけが反対に曲がり、死王とアルフレッドの目が合う。アルフレッドはすぐさま剣を抜き、死王から離れる。
見ると死王の体は、黒く塗りつぶされていき少しづつ変形しているように見えた。
「すまんな。思ったよりもサタンの封印が強固でな。やっと本気が出せる」
アルフレッドは冷や汗をかく。死王は黒くなってから1度も動かず変化していない。そのはずなのに、徐々に鼓動が早くなる自分がいた。
手が震える、血液が早くなる。
【さぁ行くぞ。お前が知るのは希望ではなく、絶望がお似合いだ】
◇◇◇◇
場所は戻り、アリエルは今もハクアを引きづって、避難所に行こうとしていた。身を庇って助けてくれた彼女を助ける為にも、安全な場所を何とか探して歩いている。
「もう少しじゃ。耐えろ、ハクア!」
「…ゲホ」
また大きな血の塊がハクアの口から出る。それを見て、少しでも急ぐ為に足を進めるアリエル。
避難所は遠かった。近くにあったはずの避難所は、何かわからない巨大なドーム型の何かにやって覆われ入れない。だからこそ、1番離れている避難所に行きたいのだが。
アリエルの前の家が吹き飛ぶ。何かが突っ込んで来たように、右から左に貫通した後がある。
風圧で目を閉じていたアリエルは、やっと目が開けて飛んできたものを見ることが出来た。
「ア…ルフレッド」
ボロボロの瀕死のアルフレッドがそこに居た。アリエルはハクアを担ぎながら、アルフレッドに近づく。生きてはいるが、もう戦えないだろう。
彼をこんな姿にしたのは、一人しかいない。
「よお、また会ったな嬢ちゃん」
「…あなた、死王なんですか?」
白髪の頭。全身に稲妻のような模様が入り、服は消え、黒い煙のようなものが服の代わりをしている。
そこに居たのは、完璧な死の化身だった。
死王が1歩歩き出す。それだけでアリエルの心が押し潰されそうになる。
だが動けない。猫に睨まれたネズミのように、恐怖で動けなくなっていた。今だからこそわかる。あの時相対した死王はいわば赤ん坊だったという事が。
1歩づつ近づき、確実な死が向かってくる。
アリエルは震えている。涙を流して、二人を抱き締める。
死にたくない…だが、自分にはどうすることもできない。
「助けて」
掠れる声で、叫ぶ。
「助けて! クスノキ!!」
死王の手が触れる時、誰かが彼に飛び蹴りを入れる。
「この俺を、吹き飛ばずだと!?」
そう言いながら、大きく吹き飛んでいく死王。残ったのは、1人の小さい少女。金髪で鎧を着た、二刀流の剣士。
彼女は、手から出る光で、アルフレッドとハクアを治療する。意識は戻らないが、一先ず命の危険は回避したレベルだ。
「遅いぞ」
「ごめんなさい。少し迷いました。複雑ですねここ」
遅れて死王が帰ってきた。
飛び蹴りに怒りもなく、ただ話しかける。
「お前の名は?」
「名ですか。そうですね。勇者 クスノキと言っておきましょう。因みにあなたの敵です」
「成程…わかりやすい」
これよりアルピスの運命を決める最後の戦いが始まろうとしていた。
読んでいただき本当にありがとうございます!
星を増やしてくれるとありがたいです。
面白かったと思ったらブックマーク!
感想やレビューもお待ちしております!
星ももちろん大歓迎!
具体的には広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にね。
そうするとロリのやる気が上がります。




