希望現着
「お願いします…」
カゲを避難所に置いてハクアは街を走る。本来であれば自分も避難すべきだが、肉親であるアリエルの生存が分かっていない。
自分がいっても何も出来ないことは分かっているが、それでも止める人達をさしておいて街を走る。
(アリエル…どこ!)
思えば自分は、いつも彼女に頼っていた。本来であれば支えるべきなのに、全ての役割を彼女に押し付け、自分だけ探偵の助手というやりたい事をやっていた。
アリエルはいつも笑っていた。あの笑顔の下には、数々の苦痛があったはずなのに、それでも国の為に彼女は頑張っていた。
その結果がこれか? 国も守れず自分も死んでハッピーエンド? 資源の為に他国に頭を下げていたのも、1人夜すすり泣いていたのも知っていたのに…今になって後悔が押し寄せる。
体が熱い、体温が上がり息が早くなり、身体が痛くなっていく。それでも、彼女は走る。走らなければならない。たとえすぐ先に彼女の死体があったとしても。
◇◇◇◇
その頃アリエルは、死王と対峙をしていた。
見上げる彼女と、見下ろす死王。震えていた彼女を見て死王は舌なめずりをした。
「なぁ、嬢ちゃん。ここはアルピスであってるよな?」
「…」
アリエルは無言で一回頷く。それを見て、死王は笑い手を叩く。
「そうかそうか! ついに狂王は成し遂げたか! …何故か奴はもう死んでいるが、まぁ生きていた所で俺が殺していたのだから、結末は同じ。であれば、死こそ唯一の救済!! そう思わないか!!?」
「…貴様、やはり【死王】アンデットバーンか!」
捻り出したアリエルの言葉に、死王は少し感心した表情を見せた。
「ほお、俺の名を知っているとは博識だな。随分と位の高い奴なんだろ? そうじゃなきゃ俺を知っているわけが無い」
「何を言って…」
「――んー? お前は超白星祭を知っているだろ? まぁ今日のはずだが、潮の満ち干きの関係で封印が緩む。そしてお前達はその時に超白星祭で、俺に魔力を送り、封印を壊す手助けをしてくれていたわけだ」
(馬鹿な…)アリエルは動揺する。超白星祭とは、死王を封じる為のものでは?
だが、これによりひとつの違和感が消える。何故、封印対象の死王がアルピスに伝わっていないのか、それがもしも全て逆だったら?
アルピスがやっていた努力は全て水の泡だったと知るアリエルは、動けず絶望が襲っていた。
「成程。ここまで来ても動けない。であれば死ぬ事で動かしてやろう。死後硬直と言うやつだ。死ね」
死王は指先から針のような物を射出し、それはアリエルの目の前に真っ直ぐに飛んでいく。
「――アリエル!!」
針が彼女にあたる時、誰かに抱きしめられ横に転がるってしまう。絶望と死の恐怖は、転がった痛みと抱きしめられた温度によって徐々に溶かされ、彼女は正気を取り戻していく。
「ハクア? 何故ここに、お主は」
「――何故って? 姉妹だからに決まってる! 逃げるよ!」
ハクアは死王を睨む。彼は動くことも無く、「ほう」とニヤニヤしていた。完全に油断していたを見て、アリエルの腕を掴み逃げようとした。
たが、
「もういい」
アリエルは動かない。水が抜けたスポンジの様に、彼女の心は既に壊れそうになっており、動けなかったのだ。
歩こうもしないアリエルを見て、ハクアは、
「もういいって何? 生きようよ! まだ負けたわけじゃない! 貴方が…王女がいれば、まだ国は建て直せる! だから――」
「だから? ワシがやってきたことは全て間違いだった。超白星祭も開催するべきでは無かったのに――ワシは」
「何を言って…それでも生きるの! 兵士もあなたを生かすために、走っている! だから――グアっ! 」
その時アリエルの顔に鮮血が飛び散る。ハクアの口から大量の血が流れ出ていた。
下を見ると、先程アリエルをうち抜こうとした針の巨大なものが、ハクアの腹を貫いている。
ハクアは倒れ、アリエルが抱きしめる形になる。
「ハクア…ハクア!! 返事をするのじゃ! 死ぬな!!」
アリエルの手には、彼女の血液がベッタリとつき生暖かい感触が更に現実を見せてくる。
彼女の腹に穴を開けた死王はゆっくりとこちらに近づき、こちらに顔を見せてくる。
「苦しそうだねー。なぜ苦しいと思う? それは生きているからさ。死ねば楽になる。呼吸も仕事も、苦痛も、明日も見なくていい。ゆっくりとした楽園で過ごせるのさ。分かるかい?」
それを聞いたアリエルは、ハッと彼女をさらに抱きしめる。トドメをさそうとしているのがわかったのだ。涙目で震えながらも、ハクアを守る為に、全身を使って守る。
「安心しなよ。二人の心臓を一気に突き刺してあげるから。そうすれば死の世界でも怖くないだろ?」
そして針がまた射出される。アリエルにハクアを担いで逃げれる力など無い。かと言って一人で逃げるという選択肢などありはしない。アリエルは目をつぶって、死を待つしか無かった。
だが、希望は訪れる――
「させない!!」
「おっと!」
――その姿は、勇者クスノキ…では無く、アリエルがよく知るお目付け役の一人。いつも暴走する自分を抑えてくれていた騎士の姿だった。
「お前は?」
「敵に言う名などないが、答えておこう。アルピスの騎士団長【アルフレッド】だ」
希望は現着する。死王からすればウォーミングアップ程度だが、それでも戦いたくなった。この者に、死という絶望を教えたくなったのだろう。
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