魔王VSクローン(1)
アルピスの戦いは激化していく。国だけが揺れていた地震は、徐々に周辺の国にまで伝わっていく。
それを起こしているのは、聖王でも月王でも無い。この国になんの思い入れも無い魔王である。
「いいねぇ! それで終わりか!?」
魔王とムーン対抗用クローンは、今も戦っている。元々は封印が弱くなり、少しだけ行動できた狂王がいずれ来る超白星祭で、ムーンを殺すために用意していた兵器である。
二体あるうちの既に一体は、行動を止めており、最後の抵抗という場面まで進んでいる。
戦いは進み魔王が指を鳴らすと、クローンが切り刻まれる。クローンの表面は、魔法をずらす液体で覆われており、切れていると思っても大してダメージがない。
魔王は少し負けず嫌いだ。もう一度指を鳴らす。同じ斬撃を繰り出すが、今回も体の表面をズレる――ことは無く、問答無用にクローンの右足が吹っ飛んでいく。
それを見たクローン。顔は変わらないが、明らかに動揺をしている。当たり前だ。同じ斬撃のはず、同じ攻撃のはず。なのに、二回目は防げなかったのだから。
魔王は笑い、
「何を驚いているんだ? お前、目の前の人間を餌だとでも思っているか? 俺は【魔王】だぞ?」
瞬間クローンの視界から、魔王が消える。どこを探しても見つからず、全てに警戒すると1番警戒していたはずの場所から、衝撃と声が届く。
「後ろだぞ」
クローンは体を回し、後ろを攻撃するが既に魔王はおらず、体を戻し前を向くと目の前には、指を鳴らす直前の魔王がそこに居た。
「じゃあな」
指を鳴らす。するとクローンが縦真っ二つに切れる。
クローンの声は止み、鼓動も消え、傷口も再生しない。文字通り魔王の完封であった。
「いやしかし困ったな。こいつを外に出したところで、称号なんか取り戻せないだろうから、ここで殺したが骨折り損だな。これだったらクスノキで行けたか」
身体をのばし、欠伸をする魔王。
最後にもう一度だけクローンを見て、振り向いて出口に歩く。そこには、不完全燃焼の顔をする魔王がいた。
だが、
「ほう…まだ動くか?」
魔王は振り向く。先程まで動きを止めていたクローンが再び動き出した。
割れていた身体は、磁石のようにくっつき、鼓動をし始め、もう一度雄叫びをあげる。
構える魔王だが、違和感を覚えた。死んでないのなら、なぜ今動き出した? 一度負けた相手がまだ居るのに、何故立ち向かおうとしている?
魔王はトリックに気づく。いつの間にか、先程動きを止めたもう一体迄も生き返り、こちらに歩んでいる。
「二人で来れば勝てるとでも?」
クローンは二体横に並ぶ。そして二人で立ち向かう――のでは無く、抱き合い融合し始めた。
(そう来るか!?)
魔王は笑う。クローンには、もちろん融合という選択肢は存在しない。だが、魔王との圧倒的な戦力差、個々よりも一を求める合理性、そして何より作った狂王の意思がそこにはあった。
グチャグチャと、嫌な音を立てながら細胞同士がくっ付き合い進化をし始める。
勿論魔王は攻撃しない。セオリーという訳では無いが、純粋に見てみたかった。クローンの最適解を、
【これで奴に勝てる】
と思わせた進化の先を。
先程まで液体で覆われていた身体は、石炭を思わせる程艶を出し、光沢を得る。
顔は縮み、マッチョの人型のように無駄を極めていた身体の性能が、全て効率化されていく。
最後に人間の目と、鼻、口が作られ、進化が完了した。クローンが進化の参考にしたのは、他ならぬ魔王であり、これから打倒す敵であった。
「ようやく終わったか?」
「……」
進化を果たし、魔王を見るクローン。二人は対峙し、お互いを敵と再認識した。
「来いよ」
魔王が構える。勿論一瞬の隙もないし、油断も無い。ウサギとカメのように、弱い奴に油断する様なやつでは無いのだ。
だが、魔王は進化を舐めていた。進化の一番のメリットは、参考にした生命体の根本を理解する事。理解しなければ、それを殺す性能など生み出せない。
クローンは身体を落とす。まるで陸上のクラウチングスタートのように、スタンバイし魔王を見た。
魔王はそれを見て、さらに気を引きしめる――だが、既にクローンは前におらず既に目の前にいた。
クローンの右腕が、魔王の腹に入る。少し骨がきしみ、最初の一撃等比べ物にならないほどの、大きく吹き飛んでいく。丈夫に作られているはずの、地下室の壁を簡単に壊す程の。
「いいね、流石は進化だ。思ったよりも学習しているらしい。であれば――予定続行だ。お前を殺し俺は魔王の称号をもう一度手に入れる」
魔王とクローンの第2ラウンドがここから始まった。
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