聖王VS邪王(2)
向き合う二人は、再び戦いを始める。
覚悟を決めた瞳で、歩く聖王と迂闊に攻められない邪王。
ここは、聖王の固有反転の中。相手に有利なフィールドであり、どんな効果があるか分からない。全てに注意をしながら、邪王は様子を伺う。
「…来ないのか?」
「固有反転の中で、突撃する馬鹿が何処にいる」
「そうか。なら、こっちから行くぞ!」
聖王の拳を、捌いていく邪王。蹴りをかわし、カウンターをしていく。
全てに手応えがあった、邪王は違和感を覚える。
反転には何も変化が無く、聖王を助ける動作すらない。ただ二人の王を、俯瞰しているだけだった。
停滞カウンターを喰らい、下がる聖王に邪王は問う。
「何の真似だ。何故固有反転の能力
を使わない? 最後まで失望させるな」
「…何の話だ? もう使っているよ。まぁ、君にはまだ分からないだろうさ。まだ【準備】が出来ていないからな」
「準備?」
「だが、それも今終わった。始めよう、固有反転 失楽園――とくとご覧あれ」
聖王が指を鳴らすと、景色が変わる。先程まで平和だった世界は、いきなり地獄の炎が撒き散らされる辺獄に変わる。
勿論邪王に炎など、効果は薄いだろう。
だが、邪王からすればそれこそ恐ろしかった。
(感覚が…ある。ただの炎? 違う。何を――)
聖王は、武芸のように舞を踊り出す。静かに、それでいて躍動があり、この地獄にふさわしくない…はずだった。
舞を踊りながら、聖王は語りだす。
「第一幕。二人の天使がそこにいた。その二人は大変仲が良く、いつも一緒にいるほどだった。だが、それもこれまで、辺獄にて一人が炎に包まれる――」
それと共に、邪王に炎がまとわりつく。炎など効かない邪王が、苦痛の声を上げる。
あるはずのない感覚が、今も襲っている。肌が焼け焦げる感覚や、肺が熱で炎症を起こす感覚等、実際に焼けたレベルの感覚が、邪王を襲う。
あまりの苦痛に悶えるが、どれだけ力を使おうと一向に炎は消える事がなく、燃え続けている。
「何故、消えない!」
「消える訳ないだろ? これは第一幕だ。燃えていろよ、客がシラケるだろ」
「続いて、第二幕。」
◇◇◇◇
「なぁ、お前の名は?」
「…サタン。そう名乗れと言われた」
「そうか。よろしくな勇者よ。ここからお前が変わる時だ」
いつの記憶だ? 私の頭に、久しく映らなかった昔の映像が流れていた。もう思い出すことも無いはずの、出会いの記憶。
イチゴのように酸っぱく、墨汁のように黒い、始まりの記憶だった。
あの時、出会ったのが自分でなければ? 何が出来た? あの時、血塗れになりながら敵を倒す勇者を、見ているしか無かった自分に。と、後悔が押し寄せる。
手を出すべきだった。いつの日か、彼が魔王を倒すとわかっていたとしても、それまでは普通に扱うべきだったんだ。
もう遅い。彼は死に、魔王だけが生きている。
それでも――今ならわかる。真の敵はこいつだと。これは、魔王でも勇者でも無く私が殺すべき存在だ。
だから――
◇◇◇◇
終わった世界に2人がいた。
聖王の固有魔法は、徐々に強さを増していく。既に聖王の目的は時間稼ぎから討伐に変わっている。
固有反転の中でもわかる。聖王は焦っていた。
現在の戦いは、地下での魔王と月王、そして地上の自分だけだと思っていたし、実際にはそれが事実である。
だが、今まさに何かが生まれた。これの本命、たった一人で全てをひっくり返すレベルの悪魔と呼ぶべき存在が。
一方その頃、アリエルは図書館から爆発の存在を確認する為に、地上をひとりで走る。ニャークルの制止を無視し、街を走っていた。
壊れた家に、誰も居ない場所。だが、それでも救う命があった。
「お姉ちゃん」
アリエルが足を止める。そこには、家の下敷きになり今にも死にそうな男の子が一人。
今は爆心地に行くのが最優先ではあるが、それはそれ。目の前の命を救わない訳にもいかない。
「大丈夫か? お主」
慣れた手つきで、救助を始めようとする時、不意に彼女を止める声がする。
「アリエル王女! 何故ここに! 早くお逃げ下さい」
アリエルの部下だった。昔からヤンチャな自分を時に助け、時に怒る、良い部下で今日も自分を見捨てていないお人好しだった。
「分かっとる! じゃがわしはこの子を助ける!」
「……は? 何を言っているのですか? そこに子供なんていませんよ?」
アリエルはその声と共にもう一度男の子を見る。そこには、姿は無くただ黒い塊がひとつ。イカスミが意志を持って動いているような存在。
その物体は、不意に大きく伸びて後ろの部下の心臓を貫く。部下は大量の血を吐いて倒れてしまう。
アリエルはただ見ているしかなかった。そしてその塊は徐々に大きくなり、いつの間にか人型になっていた。
「キシシシ、久方の地上だ。狂王は何をしている? なぁ、そこのお嬢ちゃん教えてくれないか?」
「……」
ギザギザの歯に、ボサボサの長髪。黒い帽子に黒いコート、黒いシャツと死を連想させる姿をしていた。
その昔サタンが死力を尽くして、封じ込めた最悪の一体。人が生まれて死ぬように、朝日が昇って沈む様に、その化け物は当たり前に死を運ぶ。
付いた名は、「死王」
【死王 アンデットバーン ここに降臨する】
絶望はここからだった。
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