追いかけっこ
豪華であり、脱出不可能の孤島の船。揺れるのは波か、それとも今日決する運命のせいか。
揺れる【星】は何も言わない。ただひたすらに歩く。
どれだけ緊迫しているか、追い詰められているかなど、知って尚【彼女】は悠然と歩く。
「はぁ、全く。爆弾とは面倒なものだねぇー」
爆発すればこの船が終わる。竜骨が壊れ、何もかもが深海へと落ちていく。
この船の華々しい歴史も、財宝も、人々も全て等しく海の底だ。
もうその未来が訪れるまで、あと一刻の猶予もない。それでも彼女は歩く。
何故なら【彼女は負けた事がない】のだ。
比喩ではない。事実であり、彼女は生まれてから敗北を知らない。
爆弾は止まる。この船は無事。運命は決まっている。何故なら、彼女がいるから。
そう信じているし、周囲もそう信じざるを得ない。だからこそ、彼女はこのホワイトハウスのオーナーなのだろう。
◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇
【ホワイトハウス VIPルーム 休憩階層】
ボタボタと、壁、天井、床、至る所から粘液が溢れ出ている。水色で淡い紫を囲む意思を持つ粘液。人はそれを【スライム】と呼ぶ。
その粘液は自由に動き回る。合体したり分裂をしたりもする。
部屋から溢れ廊下に出るスライム。中にいた人間がどうなったかは、語るまでも無いだろう。
「早く走れ! 粘液に取り込まれても助けねぇぞ!」
「いやずっと走ってる! オロロロロ! 中の酒が…」
後ろから凄い勢いの粘液に追われるモルトと、吐きそうになるウイスキー。
二人は50mを5秒程の速さで走っている。だが、後ろから泡のように溢れるスライムに追いつかれそうになっている。廊下全てが埋めつくされるほどの、粘液の洪水。追いつかれれば確実に呑み込まれる。
だが、二人がこれ程走る理由は、スライムの【捕食方法】にあった。
「おい、知ってるか! スライムの捕食方法を!」
「ゼーゼー。いや、知らないねー。オロロ。ウプ。てかスライムって強いの?」
「スライムはこの世界で【悪害】と呼ばれる魔物だ。切っても燃やしても効果なし! そして本体はほぼ全てを溶かす酸性粘液の塊だ! 呑まれれば、窒息する恐怖と徐々に体を溶かされる苦痛を、何十時間も浴び続けるぞ! 因みに、この世界で一番最悪な死に方にスライムがある程だ!」
「それは嫌…オロロ」
二人の足が早くなっていく。だがそれ以上に粘液の足が早い。ドプドプと、流れる粘液の一滴が、ウイスキーの服につきそこが溶けて穴になる。
それを見た彼は、顔が青くなる。
(あの粘液に取り込まれたら…)
彼がそれを想像し、末路を思い描いてしまうのも当然でもある。
そして、ウイスキーの前に更なる絶望が訪れる。
「おい、モルト! 前!」
「分かっている! 壁だ! …滅茶苦茶だな。意志を持つだけでこれ程厄介なのか!」
二人の目の前にあるのは、粘液の壁。巨大粘液が廊下を占拠していた。
勿論あれに飛び込む事は出来ない。そんなのは自殺行為だ。であるならば――
「道を変えるぞ! こっちだ!」
「ハイヨ! オロロ」
道を変える。壁と二人の間にある一枚の通路。そこに行くしかないが、デメリットが多い。まず、そこが行き止まりであれば詰み。そして、爆弾の部屋から大きく遠ざかる事になる。
だが、二人はこの道を通るしか無かった。
「ウイスキー! この道の先には何がある!?」
「えっとね! 分かんない!」
「だろうな! 酒カスが!」
「仕方ないだろう?! この船代わり映えのない構造だがら、何処がどこか運営でも迷うんだよ! えっと…この道の先は…確かキッチンだ!」
その瞬間モルトの顔が青くなる。VIPルームのキッチン。大方休憩中に食べる物の仕込みだろう。つまりは――行き止まりである。
バタン!
二人は、キッチンへ入る。周囲に部屋はなく、最奥にこの部屋。
急いで椅子や大きい家具をドアの前に置く。一時の時間稼ぎでしか無い。何か解決策を見つけなければ、彼らが次見つかるのは骨だけだろう。
「おい…どうする?」
「どうするって言ったって、君が考えなよ! ちょっとまだ吐き気が残ってて、、」
その瞬間大きい音が、ドアの前から鳴る。恐る恐る二人がドアを見ると、ミシミシとこちらに伸びるドアの姿があった。ドアの前の重石など焼け石に水。破られるのも時間の問題だった。
二人は話し合う。これはどうか? いやこれは? じゃあこれは? と、そして議論が終わり二人は答えを見つける。
【あれ? これ詰んでね?】と。
そして――
「追いかけっこは終わりました?」
ドアが破られる。前の重しを全て吹き飛ばし、巨大な粘液が溢れ出る。それは一瞬でキッチンを埋めつくすが、二人の場所だけはまだ無事だった。
だがそれも束の間、粘液は二人を飲み込んでいった。
そこから見えるキッチンはまさに地獄そのものである。
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