密室の二人
前半ちょいと小話
長い長いエレベーターだった。
上に上がるはずなのに、俺たちの気持ちは落ちていく。
あぁでも、こんな事を昔体験した気がする。
なんだっけ。確か、俺の故郷で【行方不明者】が多発したときの事。消えた人が最後に訪れた所に行ったんだよな。そしたら、そこは廃墟のビルで、動くはずの無いエレベータが動いていた。
誰といった? あの時何階に…なぜ俺は、止めなかった? いや待て、あの時【誰が消えた?】
そうだ、、あの時。あいつが――死体になって。
「クスノキ」
夢は終わる。何の夢を見ていた? だいぶ重要な夢だったはず。なのに、片隅も思い出せない。
まぁいいや。話し掛けられたのなら応答するべきだろう。
「何ですか? アルミシアさん。良い眠りだったのですが?」
「うなされていたのに? まぁ、それは良かったのです…ただ、近くなったら起こせって言ったのはお前なのです」
現在俺達は、オーナーに会いに行くために、エレベーターに乗っている。
アルギュワとの勝負に勝ち、案内されたのがここ。どうやらオーナーがいる場所は、本当に特殊らしく、このエレベーターだけが直通らしい。他ではどんな手段だろうといけない、と。そう言われた。
ただこれがまじで長い。中は金の装飾ばっかで目がチカチカするのに、三分ぐらい乗らなきゃ辿りつかないらしい。なので寝ていた、以上あらすじ終わり!
「てか長くないですか?」
「それについては同意なのです。もう五分はこのままなのです」
アルミシアはスマホ? のようなものを出して、時間を見ている。そういえばブレインってスマホがあるんだっけ? ゲームとかはできないけど、メッセージとか電話できるそう。
「便利ですね。それ」
「あぁ【ンマホ】の事です?」
「…気持ち悪い名前ですね」
「うるさいのです。まぁたしかに便利ではあるのですが、大半の機能がブレインに居ないと、発揮できないのです。電話も繋がらないのです。まぁ、繋がる相手居ないのですがね!」
「…」
「おい。なんか反応しろなのです。こっちが虚しくなるのです」
どうしろ言うんだ。どう転んでも壊れる不発弾だろ。あの時の状況から一変。まさかあんなにツンデレだった彼女が、こんなに……
「あの、さすがに長すぎません?」
「そうなのです。気まずいのです」
「てか今エレベーター動いてます?」
「何を馬鹿なことを言っているのです? まさかこのエレベーターが止まって、私達二人が密室に閉じ込められたとでも言うのです? …そんな馬鹿な――」
俺達は少しだけ黙る。そして気づいた。今この部屋は動いていない。横に動くGも、機械音すら聞こえない。
つまり――
「「開けてー!!!!」」
扉をドンドン、と叩いてもビクともしない。閉じ込められてしまった!! 俺達ふたりは、この密室にランデブーしてしまったのだ!!
「おい開けるのです! 止まるならまだしも、クスノキと一生はゴメンなのです! 偽善が伝染るのです!」
「はぁ!? 何を言って! 私だってあなたと一緒なんてごめんですよ!」
「はぁなのです!?」
「はぁ!?」
少しの更に少し討論の後、息を戻しながら冷静になった俺たちは、現状を理解した。
現在は――
・エレベーターは動いていない
・いるのは二人だけ
・何も道具は無い
――的な感じ。うん詰んでら。終わりだ。俺達ふたりは、もうここで骨になって死ぬしかないんだ。
「アルミシアさん。私ここからでたらお腹いっぱい料理を食べたいんです」
「ナチュラルにフラグ立てるのやめろなのです! それにここから出たところで、ずっと食べてる飯なのですよ!」
「密室だから大きく響きますね。やる気が上がります。エレベーターだけに」
「やかましいのです! ふざけている余裕があるのなら、現状を解決する方法を探すのです!」
…とは言ってもな。無理でしょー。だって扉開かないし、声なんて届かないだろうし。ボタンなんて…ボタンなんて。
俺は上を指さす。そこには【緊急事態ボタン】と名の書かれた赤いボタンがあった。
アルミシアも、それを見て一瞬だけ希望を見出した。そう一瞬だけ。俺達ふたりは、いきなり壁にぶち当たる。
((…いやあのボタンの位置高すぎ!))
そう、届かない。誤動作を防止する為か、成人男性がの頭ぐらいにボタンがある。生前の俺なら何とか届いたかもしれんが、今は幼女。そしてアルミシアも大きいとは言えない。
せめて俺の身長があと二倍あれば…二倍?
「…クスノキ、どうにかジャンプして届かない…なんなのですその顔は」
「いい案を思いつきました。そう身長が足りないのなら伸ばせばいい。なので肩車しましょう! 貴方【下】でお願いしますね!」
「はぁ!? 肩車やるのはいいとしても、何で私が下なのですか! どう考えてもお前が下なのです! 私が上に乗るのです!」
「何でですか!」
「こっちのセリフなのです!」
密室の中、二人の怒号だけが響き渡る。時間は既に予定到着時間より十分以上オーバーしている。
苦肉の策として、二人はジャンケンをした。勿論勝った方が上で…勝者は――
「おい、もうちょっと右なのです! 行き過ぎなのです。あぁ戻りすぎなのですよ!」
「…わがままが多いですね。…重 」
「お前次重いって言ったら、喉元を割くのです! さっさと右なのです!」
「今右に行きましたよね! クッ…早く…。ボタン押すのなんて一秒あればいけます! 早く押して!!」
「もう少し耐えるのです! このボタン押されてないから、固くて。フン! フン!」
「力を込めないで! 重くなります! ただでさえ重いのに!」
「お前ここから降りたら殺すのです! 覚えとけなのです! このボタンのように…おらーー!」
そしてついにボタンが押し込まれる。それはもう強く。強すぎて陥没する程に。
「あ…(やってしまったのです…)」
「あ…って事は、押せたって事ですよね?」
「え? あっ。も、勿論なのです! さぁ下ろすのですよ。さぁ、さぁ! (やばいのです!)」
そして俺は彼女を下ろす。腰が痛い。そしてボタンが押されているね。押されて…いるけどさ。押されて…壊れてね? あれ。
「クスノキ、あまり上を見るものじゃないのです。時には下を見て、初心を思い出すのも良いと思うのですよ」
そう言う彼女を見ると、旬のナスぐらい真っ黒な顔をしていた。冷や汗ダラダラの結露しているのかレベルである。
「あなた…あれ壊し」
「――てないのです」
「いや、どう見ても壊れてますよね? 煙出て」
「――出てないのです」
はぁ、壊したかー。だから俺がやるって言ったのに。ユーロと言いこいつと言い。この世界にはゴリラしか居ないのか? ボタンを押して壊れるなんてB級映画でももうやらないのに…
「まぁ、治せるんですけどね」
――というわけで、久しぶりの浄化。その光は、ボタンに当たり新品のように壊れた物は治っていく。
という事で元通り。
「…は? え? 治ったのです?」
「えぇ、治せますから」
「はぁ!? だったらはやく直せば良かったのです! なぜ私がこんな罪悪感を」
「――やっぱり壊したんですね」
「あっ…ハイ」
彼女は、目を逸らし、連写のような瞬きをしている。冷や汗ダラダラは止まっていない。
はぁ、最初から言えば良いものを。
「次は私が押します。また壊されたらたまったものでは無いので」
「ハイ」
「屈んで下さい」
「ドウゾ」
そして、そこからボタンを押した。そこからはスムーズ。直ぐに対応が成され、エレベーターが動き出した。ただ、俺たちの気まずい空気だけは、動かなかった。
目的の場所に着く。扉が開く。
「ここは?」
「…何なのです? 何も無い?」
俺達ふたりが来たのは、何も無い部屋。真っ白で四角い正方形のような部屋。簡単に言えば角砂糖みたいな部屋だ。
机もなければ椅子すらない。そんな部屋だった。
…場所間違えたか?
「いいえ、間違えておりませんよ」
声が聞こえた。いるはずの無い先程まで無人だった場所から声がする。
一瞬で俺は振り返る。…そこには――
「貴方は…?」
「名乗るのが遅くなりました。私はオーナーのメイドをしております。クロと申します。以後よろしくお願いします」
普通の挨拶に、普通の対応。それ以上に何も感じることなど無いはずだ。
なのにも関わらず…俺の心には淀んだ衝撃が胸を溶かしている。
…なんでお前がそこにいる?
「――練魔」
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