答えを見つける
揺れる船。震える瞳孔。何も無い答え。そして全ては一つに終結する。
朝日が夕日になるように。氷が水になるように、人が生きて死ぬように、全ては何も無く過ぎていく。
転生者共は勘違いをしている。輪廻から外れ、死ねもせず生きる者ども。君達は愛されなくなったんじゃない。
【元から誰からも愛されてないんだよ】
◇◇◇◇
「これはルール違反では?」
先程の優勢から一変。勝負は普通に終わる訳もなく、エドの元に銃口が向いている。
プードルは涙目で彼を睨む。そして口元がにやけ、絶望が露骨に現れる。
「…ルール違反? ふざけないでよ! あんた…転生者なんでしょ? だったら死なない。だから譲ってよ。こっちは死ぬのよ。お前と違って、選ばれてないの! たった一つの命なのよ! お前の軽い命とは訳が違うのよ!」
吐露した彼女の意見は至極真っ当。確かにここで死んでもエドは生き返る。だが、それは生命の話。社会的、金銭的には莫大な借金を負い、ある意味永眠する事になる。
それでも、プードルは自分の命を優先する。誰も悪くない。
彼女と意見を交わしても無駄だと、察したエドはレイズを睨む。主催者が何も言わないからだ。
「ん? なぜ俺を睨む? 銃口はお前に向いているぞ?」
エドは少し視線を落とす。想定外では無かった。ため息も出る程の想像通り。結局この勝負はレイズの予想を超えなかった。
だからこそ彼は何も言わない。既に彼の意識は勝者への期待に向いてしまっている。
つまり彼に何を言っても無駄。もう彼の中でこのルートは正解になってしまっている。主催者がそうであればこのままゲームは進んでいく。
「そうだ…そうだぞ。ハハハ! プードルやっとわかったか! これが【生きる】という事だ! お前の銃口の先にいるやつは、お前と同じ人間。ただ、生まれた環境が違うだけの、同類だ!そう、同じ存在なのに何故ここまで差がつく? それはお前らが馬鹿だからだ! 銃口を向ける者、銃口を向けられる者。一文字入るだけで、勝者が敗者か別れる。それが現実だ。結局この世に生まれも才能もない。【自分の状況に一文字を入れれるやつが勝つ】んだよ! 死ぬのにルールもクソもねぇ、縛られ勝手に絶望して、そしてこの世を呪う。あぁなんて愚者だ! だが、それも現実だろうよ! 正義も悪もない。その銃口に込められた弾は、必死に生きた人間も、堕落した人間も、平等に撃ち抜く言わば【無慈悲なる平等!】 お前も撃たれれば死ぬ。いつかその日が来るとしても、その日まで敗者を踏みにじり続ける。罪の行進、それを人は【人生】呼ぶ! お前のせいでどれだけの人間が不幸になった? どれだけの人間の絆を粉々にした? そしてその代価を、どれだけ肌に塗りこんだ? お前の服も、髪も、体も、意思も、運命も、全て名も知らぬ弱者から剥ぎ取った勝者の証! あぁ、人間は生きているだけで不幸を産む。謳歌すればする程、横にいる何も着れず震える人間が可愛く見えるだろう? 元々は自分もそうだった事など忘れ、勝者に飲まれて、敗者の味を忘れただろう? もっと叫べよ、喜べ、お前の引き金が全ての始まりだ! そこから溢れる鮮血が、お前の魂を更に上に引き上げる。降り口など無いのに、上があるかも分からない、褒美がある訳でもない階段を、他人の不幸を燃料にして上がっていくんだよ! それこそが喜び、謳歌…いや愛だろう。純愛であり、陽愛であり、相愛であり、敬愛であり、慈愛であり、博愛であり、汎愛なんだよ! さぁ引き金を引け! エドを殺せぇぇ!!!!」
勝手に盛り上がるレイズを横目に、エドはプードルに視線を戻す。見れば彼女の顔は、先程の何倍も酷くなり、泥を黒で握りつぶしたような顔をしていた。
「何も言わないの? 私…今からあなたを殺すんだよ?」
「そうだな。だが、お前の言う通り、俺は生き返る…だが、これは勝者の余裕では無い。撃つのなら撃て。お前は…いや人間は【こんな所で】死んではいけない」
エドの表情と言葉に、プードルの引き金のを引く力が強くなる。ギギギ、と少しづつ引き金が下がっていく。エドは何もしなかった。ただ目を閉じて、凪のように佇んでいる。
「こんな所って何よ。それはこの勝負? それともこの場所? 私が善人だとでも? 私との勝負に負けて、走って海から飛び降りた人間もいるのに。人なんて何十人も殺している。情けをかけるような人間じゃない事ぐらい分かるでしょ? なのになぜ、貴方はそこまで死にたがるのよ!」
耳が痛いな。と、彼は少し笑う。思えば彼は死にたくないと思った日がない。
最初から最後まで、紙の月のようにペラペラの夢の土台で震えながら生きていた。
今日死んでも、死ねないのは分かっている。それでも――
「人間は答えを見つけなければならないからだ」
「…答え?」
「そう、答えだ。なぜ生まれたのか、や、なぜ死ぬかなんて答えが出ない朧気な奴じゃない。要は【自分がどう生きたか】だ。自分なりに答えを出して、それから死ね。じゃないと、化けて出てきても困るからな」
エドは笑う。大空のように明るく、そしてバラのように華やかに。
プードルの目から涙が止まる。あぁだめだ、と。自分は負けたのだ、と。心の底から理解する。
生き残るべきは彼の方だ。自分はここで進んじゃいけないと察してしまった。彼はここからも多くの人を助けるだろう。そして、いつか来る【災厄】に会いたいするかもしれない。その時に戦うのは間違いなく彼だ。
そこの舞台に上がるべきは、確実にエドだった。犬のような自分は、カーテンの裏にすら居場所は無い。
だからこそ彼女は、ここで答えを作る。吹けば飛ぶような紅茶の葉のに近い答え。きっと明日まで考えればもっといい答えが出るレベルの酷い答えだ。そう――
【自分が生きてきたのは、彼を先に進ませる為だったのだから】
パァン。とエドの前で鮮血が舞う。赤い血液は、散る薔薇の花弁のように輪を書いて舞う。
プードルの掠れる意識。その目の先には、今にも抱えてくれそうな、状況が全く理解できてないエドの姿があった。
彼は彼女を抱き抱える。右手にある頭から暖かい血液が、タオルのように手を包む。左手から感じる体温も、徐々に冷えていく。
「何を…している。何をしている!!!!!」
プードルの目に最後に映るのは、必死に叫ぶエド。彼女は幸せだった。最後ぐらいは嫌いな奴を、視界の端にすら入れたくなかったのだから。
彼女の瞼が落ちていく。二度と上がらないカーテンコールのように、喝采も浴びず、二流のエンディングで幕を閉じる。
心音吐息が止まり、彼女が動かない人形となってもなお、エドは理解出来なかった。
転生者は死なない。だからこそ【合理的】に、自分を撃つべき筈だったのに。
「……何を…」
彼の喉が掠れた声が響く。沼から出るためにもがくように、状況を置き換えれる言葉を探しているが、何も出てこない。
母親が死んだ時も、親友が死んだ時も、心の底から動揺しなかった彼が、今日生まれて初めて動揺したのだ。合理的では無い、彼女の無駄な行動によって。
「…つまらん幕引きだったな。プードルがお前に銃を向けた時波乱に期待したが、奴も所詮ぐうの音も出ない凡人だったようだ。そしてこれに合う肴もない。決着だ。太陽の名において、エド。お前に上にあがる権限をやろう。…さっさとアイツらと合流してこい」
そして、レイズはため息をしながらその部屋から出ていった。その後に残ったのは、ただフリーズしているエドと、元プードルの無機質な肉の塊だけだった。
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