2000年の一日(中)
今日も今日とて病室にいる。外には出てない。単純に行く所もないし。一つだけ、養父の所に行ってもいいかな? と思ったが、道に迷いそうだからやめておいた。
そんな日、それも今日で終わる。今日は11月15日。俺の両親の【死亡日】だ。
俺は両親についてほとんど知らない。好きな物も、好きなアニメも、一緒に食事なんてしたことない。何故なら、俺に自我が芽ばえる前に、もう既に死んでいるからだ。
だからこそ、俺は父親が魔法使いだってことも、母親が俺にベタベタしていることも、全く知らない。なんかちょっと嫌悪感ある。
時間にして昼。父親が死ぬ。でも何故だ? 父親は昨日も元気にここに来た。病気などでは無いはず。では――
!!?
――その時、俺の体に電撃が走る。それは概念的に。いきなり化け物のような魔力が生まれた。なんだ? 行ってみるか。
◇◆◆◆
「はぁ…はぁ…まさか、こんな化け物が」
「グルルルルル」
走って魔力の方向に行ってみると、死にかけの父親と、魔獣? がそこに居た。鋭い牙に、漆黒の体。まるでクマを思わせる巨体に、ワニの口、そしてライオンの牙を持つ、お子様ランチのような化け物だった。
俺も見えているからわかる。あの魔獣は危険だ。このまま放っておけば、何人、いや何千人と食い殺すだろう。だからこそ、俺の父親は 魔法を使ってあの化け物を殺そうとしていた。
父親が魔法で剣を作る。傍から見れば滅茶苦茶目立つだろうが、人が通らない所を見ると人避けすら済んでいるんだろう。
「これで終わりだ」
「グルルルルル…ガァァ!!」
父親と化け物が互いに1番の攻撃を食らわせる。結果は相打ち。魔獣は顔を、父親は腹をえぐり取られている。魔獣は霧になって消えた。そして父親は、腹から大量の血を流し。そして地面に崩れ落ちる。
未来日記から未来を変えようとしても無駄だと分かっている。そして俺は何にも触れられない空気。ただ見ているしか無かった。
「…これは、無理か。終わりか僕の人生も」
父親は諦めていた。その目は優しく少し笑って、後悔がないようだった。俺はこんなに苦しんでいるのに、貴方はそのままお陀仏ですか。随分と身勝手ですね。
「亜蓮…ごめんな。もっと君に魔法を見せてあげたかった。世界を、空を見せてあげたかったよ。ごめん。本当に…ごめん」
父親の目から涙が溢れている。滝のように大粒の涙が、絶え間なく流れている。
やめてくれ。だからなんだと? 今更謝ったって何も無い。自分に何も託さなかったクセに。このまま死ぬ人間なのに。
「出来れば亜蓮には、人を守って欲しい。魔法なんて忘れて、優しい人間に」
はいはい。貴方も俺に頼むんですね。最後まで呪いを残して、血だらけで死ぬ。なんともまぁ、勇ましい者の死に方ですね。
「――でもそれ以上に…幸せに生きてくれ」
男が喋ったのは、俺にとって最も予想外かつ逆鱗に触れる言葉。幸せに生きろだと? どうやって? もう何人も人を殺してる。地獄がお似合いの自分に今更なんの救いがある! 救われる道なんて無い。勇者なんていい表現だ。傍から見ればただの人殺しだ。もう居場所なんてどこにも無いんだよ。
「……」
それ以上男は何も喋らなかった。既に脈も呼吸も止まり、ただの肉塊となっている。魔力も既に感じられない。また呪われた。死ねない理由が増えてしまった。
◇◇◇◇
病室に帰ると母親が死にかけていた。突然の事だが、不思議と違和感は無い。失ってわかる。母親の体から魔力が感じられない。きっと、父親の魔力で母親は生命を繋いでいた。ユーロも初めて会った時、サタンが中にいたからあの腐食の体でも生きていた。同じ原理だろう。
目の前の母親は、既に瀕死。言葉を発する事すら難しいレベル。ただ吐息が荒いだけだった。
「…」
そのまま死んだ。衰弱死で何も喋れず呼吸が止まった。呪いを吐かなかった事が唯一の救い。
結局何も産まなかったな。強いて言えば父親が魔法が使えただけ。それだけだった。
その時空間が崩壊し始める。終わりか。これにどうやって答えを――
「あれ?」
――確かに空間は崩壊した。だがその後は何も無い空間が生まれた。病室のテクスチャが剥がれ落ちたように、この空間は何もないデバックした後のようだった。
「さて、答えは得たか?」
後ろから声がする。違和感しか無い。その声は一番聞いたことがある声と言ってもいい。最後まで答えを出せないチキン野郎。そんなやつ一人しか居ない。
「…なぜ目の前に俺がいるんですか?」
「違うさ。お前は俺じゃない。俺はお前の中の自我と言ってもいい。名前を出すなら”固有魔法”って奴かね?」
今まで使えなかった魔法が、いきなり見知った姿で出てきましたとさ。
読んでいただき本当にありがとうございます!
魔獣や、父親の職業については幕間で公開予定です。
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