2000年の内の一日(上)
ある雨の日。その日はゲリラ豪雨だった。飛行機のような雨の音と、轟雷。今は夜。辺りの家は光り輝いていたが、街を歩いている人間は一人もいない。
俺は雨の中外にいる。もちろん今の姿で。恐らく誰にも俺は見えていない。なぜなら降る雨ですらこの体を通り抜けていく。自分自身が空気になったようだ。
だが、この街には見覚えがある。目の前には交差点。そこの妙に長い信号。今は誰もいない廃校。そして…この街で唯一の【病院】
あぁそう言えば――
「私…ここで生まれたんでしたっけ?」
ピチャ…ピチャ
少しだけ歩く。凄まじい風も、吹き荒れる雨も、浸水した下も、どれも体に触れない。少ししゃがんで水を触ってみても、触れず通り抜ける。(幽霊ってこんな感じなのかな?)と下らない思考をするまでには余裕があった。
今まで戦ってたからか、こんなに隙だらけでも襲われない日本に少し安堵した。だがそれもそこまで。雨が降りしきる中、少しだけ【異音】がし始めたのだ。
バチャ バチャ
下の水を顧みない大きな足音がする。おそらく成人男性。そして走っている。
薄暗い闇の中から、蛍光灯によって姿が映し出される。…誰だ? こういうのって知り合いじゃないのか?
いや待て…まさか? 俺の両親はもう死んでいる。今は養子という名で別荘にいるが…そういえばメイド達元気かな?
その時、俺はすぐ近くに掲示板があることに気づく。今までほとんど見えていなかった。そこにはこう書いてある。
2000年 11月 09日 本日、草刈りがありますので、よろしくお願いします。
全てを察した。この年、そしてこの日は【俺が生まれた日】つまり、今は過去。そして夜に病院に走る人。やはりあの人は――
「亜蓮ー!」
――やはり、俺の父親ですか。
◇◆◆◆
清潔な病院の中、俺は父親について行く。別に確実に父親だと確証がある訳では無いが、そんな気がした。親だからかな? 遺影も無いし、根拠なんて本当にないんだけどね。
父親の顔は普通だった。まぁ俺が想像した通りの顔。優しそうで人を怒れなさそうなそんな顔だった。
雨でビチャビチャの中、病院に入り普通にナースに怒られていた。ペコペコ謝っているが、なんか慣れてるな?
そしてナースも怒り疲れ、部屋番号を教えてくれた。父親はまたそこでもお礼を言って、エレベーターまで走っていく。てか足濡れているんだから…ほらやっぱり転んだ。
仕方ない。ついて行くか。
静寂でちょっと気まずかったエレベーターを抜け、やっと病室に入れた。
…見た瞬間わかった。ベットに寝ている女性。前も言ったが確証なんてない。それでもあれが俺の母親だと一瞬で理解出来る。
体力を失い疲れている様子。そして横にはまだ産まれたばかりの新芽の赤ん坊がいた。母親は、たまに赤ん坊を見て少し笑う。
「すまない。間に合わなかった。君の辛い時に入れないなんて」
「そう言わないで。強かったんでしょ? 私はあなたがそうやって立ち向かう姿が、好きだから結婚したのよ? それで…名前は決まった?」
「あぁ亜蓮 あれんはどうだ? 「次ぐ」という意味の亜と、極楽浄土の蓮…どうかな?」
「もう、自分で決めたのに。あなたが決めた名前よ? 自信を持ちなさい?」
今日初めて、俺の名前を知った。養父からは「どうでもいいだろ」の一点張りだったから。まぁ、別に大して俺には響かなかったな。別に期待などしていないが、もうちょいなにか捻ってても。
「あぁ、これが僕達の息子。どうなるかな? 君のように凛々しくなるかな?」
「そうね。そして貴方のように強くなって欲しいわ」
「そうだね。子供に【これ】を教えるのは、少し抵抗があるが、これをいつか託す日がくる。そうだろ?」
…託す? 何を?
「ねぇ、あなた。見せてあげない? きっと亜蓮も気に入るわ」
「確かにそうだね」
そして父親は、手に力を入れる。光が集まる。嘘だろ? だって今、父親の手にあるのは【魔力】何故ここで。
「楠木式魔法概念起動」
病室が一瞬でプラネタリウムのように、床も壁も天井も宇宙で埋めつくされる。だがそれは決して光ではなく、間違いなく実在する物のように動いている。
「…いつ見ても綺麗ね。貴方の【魔法】は」
「そうかい? お気に召したのなら良かったよ」
嘘ん。俺の親…魔法使いだったの?
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