そして彼らは走り出す
新芽は日の光を浴びて、土から這い出て美しい花を咲かせる。そして時が過ぎ腐敗を始め、全てはなくなり、そこには土だけが残る。
花があるときは、避けていた場所を平然と踏み荒らす生命体。美しい花弁があった事などとうの昔に忘れられているだろう。
涙王は語る「人間みたいですね」と。
生まれた時、彼女には何も無かった。ただ大地を滑る潤滑剤の塊。俗に言うスライム。それがシャイミールの最初だった。
自我もなく、仲間もおらず、何もかもが無い。最早生きているかも分からない、それが無辜であり、虚無の生き方だった。
そんな彼女が、なぜ自我をもてたのかそれはまた別の機会に。ただ正攻法ではなく、神に喧嘩を売る方法で得たとだけ伝えておく。
◆◆◆
「なんの用? 今忙しいのだけど?」
「えへへ、そう言わないでください。会えて嬉しいですよ? 私は」
涙王と舞王は仲が悪い。それはこの世界で生きているものなら、ほとんどが知っている事。
その為二人が収めている国も、たまに戦争をするほど仲が悪い。
なのでこの状況は、今静観しているウイスキーからしても、本当に不味い。彼は今落ち着いた表情をしているが、本心はめちゃくちゃ焦っている。
なぜなら、もしここで二人が暴れでもしたら、ホワイトハウスなど直ぐに沈没してしまう。
だが、シャイミールから放たれた言葉は、そんなウィスキーの頭を真っ白にする物だった。
「えへへ。この船に爆弾を一つ仕掛けました」
「――は?」
「驚きますよね? ウイスキーさん。えへへ、爆発したらこの船…沈んじゃいますよ?」
ウィスキーの頭に血が上る。いきなりやってきた部外者の王が、いきなりこの船の航路に王手をかけてきた。だが、次に発言する前に、トパーズの手がシャイミールの喉仏を掴む。
「爆弾を解除しなさい。涙王」
「えへへ、そんなに怒らないで下さいよ。お姉様、ただこの船が沈んで大勢が死ぬだけ。それだけじゃないですか」
根本的にズレている。シャイミールは称号を得て涙王になったから、こうなった訳では無い。
元から彼女の価値観はズレている、魔物として生まれ、数多の人間を殺してきた彼女からすれば、人間など虫のように生まれる害虫に過ぎない。
彼女が統治している国も、酷いものだがそれは別の話。
「さぁ、どうしますか? ウイスキーさん。爆弾が爆発したら…あれ?」
「――クッ!」
ウイスキーは、シャイミールの言葉を無視して走り出そうとする。爆弾が爆発すれば、この船が沈没するのは必然。であれば猶予など一刻もない。
だが、ウィスキーの足が止まる。彼が下を見ると、先程シャイミールから溢れ出ていた液体が、足枷のようにがっちりと固定している。
「えへへ、逃がす訳――」
足枷が外れる。トパーズが蹴りで枷を消し飛ばす。そしてウイスキーに目を向ける。「早く行け」と言わんばかりに。
ウイスキーは走り出した。少し彼女に向かって頷いてから。
「だから逃がす訳が無いでしょ!」
「――まず! 避けなさい!ウイスキー!」
シャイミールが手をウイスキーに向けて振ると、二発の小さな針が飛んでいく。それはウイスキーの目に真っ直ぐと向かっていき、その声に振り向いたウイスキーに直撃――
「させねぇよ!」
――する寸前、ウイスキーの目の前を拳が通る。見慣れた拳。下でずっと暴力を奮っていた一匹狼の力だ。
「…モルト?」
「おうよ。助けに来たぜ。後で金払えよ」
拳で針を粉々にしたモルトを見て、シャイミールは首を九十度傾ける。
「あれれ? おかしいな、貴方は後で裏切り者にする為に、拘束をしておいたはずなのに」
「おうよ。だが、あんな拘束具拳で全部砕いたわ!」
「…涙王の力を、拳で? えへへ、どれだけ脳筋なんです?」
ウイスキーの肩にモルトが手を置く。
「行くぞ。事情は外から聞いてた。爆弾が仕掛けられているんだろ? 止めようぜ。俺達で!」
「…本当に何が起きたの? 君。そんな熱血キャラだったっけ?」
「うるせぇ! 行くぞ!」
「はいはい!」
モルトとウイスキーはもう一度走り出す。もちろんシャイミールは止めようとするが、今度こそトパーズが全てを止める。
「ここは私が引受ける! 爆弾は任せたわよ!」
「邪魔をしないでくれません? お姉様」
「お互い様でしょ? 躾てあげる」
一方廊下を走っているウイスキー達は。
「それでウイスキー! 爆弾がある場所の当てはあるのか!?」
「そりゃあね。涙王は、爆弾を一つと言っていた。たった一つでこの船を沈めるのなら、場所も限られてくる。あるとすれば動力室だ!」
「なるほどね。行くか! ――って、こりゃあ」
ウイスキーの足が止まる。廊下にいるのは、シャイミールの液体から生まれた何か。魔獣のような姿をした敵だ。
他の人間には目もくれず、ウイスキーをずっと凝視している。数は百? それ以上かもしれない。
「これは」
「ウイスキー、俺の後ろにいろ。俺がぶん殴って道を切り開く!」
「…任せたよ!」
「おう、その代わり爆弾解除はそっちでな!」
「「行くぞ!!」」
こうして、三者三様。全ての役者が行動に移る。
クスノキ達は、自分の信念を貫く為に。エドは自らの生に終わりを付けるため。ウイスキー達は、この船に明日を残す為に。
このホワイトハウスでの戦いもついに終盤を迎える。果たして誰が生きて誰が死ぬのか、それはここからのお楽しみ。
【黄金変容編 第二部 決着編 始動】
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