金に潰される兎
一枚のコインが宙を舞う。
指で弾かれ、回転しながら下に落ちていく様は、まるで罪人のようだ。
コインが落ちる。一回の金属音と共に、何かを知らせるわけでも、誰の目にも止まらず落ちる。
コインが表か裏かは――どうでもいい。
では、誰かが勝ったか? それもどうでもいい。
では、誰が弾いた? それもどうでもいい。
注目すべきは、コインが弾かれたと言う事実。弾かれたコインは、もう二度と手の上には帰って来ない。覆水盆に返らずと言うやつだ。誰かが何かをやっている。
いつ気づく? もう遅い? それは誰にも分からない。だがひとつ言えるのは、クスノキ、エド、モルト、アルミシア、ウイスキーの中に【裏切り者】がいるという事だ。
そして誰かが、コインを弾いた。それは現実的ではなく、概念的だ。スタートダッシュを決める、ピストルと言ってもいい。
動き出す。トランプのジョーカーが、綺麗な花畑を枯らす、毒の水が。すべてを台無しにするために動き出すのだった。
~船長室~
「やぁ、来たかい?」
その声は、平常心の塊。本来招かざる部外者を招待してまで、椅子に優雅に座る者は、なにかに飢えている。
それは、愛――否。友情――否。性欲――否。
【快楽】だ。全ての肉がただれ落ち、魂を掴まれるかのような、そんな痛みにも似た感覚。それを彼は欲している。
何故か? それは彼が一番よくわかっている。機械から不良品と落とされた一本のネジ、それが彼だ。
「――まぁな」
一歩。歩く音がする。それは挑戦者。クスノキ達の目的とは、別に、自身の目的を叶えるために来た、転生者。
知りたく無かった。VIPルームで酔王から聞かされたあの情報の真実を、確かめる為に彼はここに来た。
「自己紹介…もっかいしとこうか。僕はザ・チェリーの一人、【太陽】の名を持ち、このホワイトハウス船長でもある――レイズ・スプリングだ。よろしくね」
「(…俺もしておいた方がいいのか?)…エドだ」
船長――レイズは、一言でいえば生粋のギャンブラー。全てにおいて賭けている。例えば次に着く島も、明日生きているかも、今日死ぬのかも、全ては運で説明がつくと彼は確信している。
中肉中背、瞳は金色。装飾を持っていなければ、彼がレイズだと気づく者はいない。それほどの地味さでありながら、彼はこの地位まで登り詰めた。
金色のコート、下には上下黒いスーツ。手には、これでもかと指輪が着けられている。
そして、性格は――
「また来たんだ。敗北者」
――煽らずにはいられない、サディストである。
「…負けていない。戦略的撤退だ」
「同じ意味じゃん。逃げたってことに関しては…だけどね」
「違う」
「はぁ、言葉の綾だね。まぁいいや。ん? あれ? 一緒にいたモルトは? 愉快な仲間たちって感じで、一緒に来てなかった?」
エドは何も言わず、廊下を指さす。そこには、今もバニーガールに絡まれて、動けないモルトが流れる石のように、隣の部屋に連行されて行った。その顔は、まさに嬉しさとイライラがあわさった様な顔だった。
「…相変わらず不器用だね。巻き込みたくないのなら、最初から手なんて組まなきゃいいのに」
「手を組んだのは俺じゃない。クスノキだ」
「そう。そういえばそのクスノキは、北風と接触したようだ。運か実力かは分からないが、やるね。君の仲間だけはあるよ」
一瞬だけ、エドの目が見開く。そしてその後は、少しの透かし笑い。相手が知らぬ間に王手をしていたからだ。
だが彼にも一抹の不安が残る。
(クスノキ…達では無いのか? では酔王は何処に? )
だが、その答えを考える前に、レイズが手を叩く。それははじまりの合図。ギャンブル開始だ。
――と思っていたが、レイズから発された言葉は、エドの予想とは少し違った。
「うーん。俺も、チャレンジャーの意向は組みたいが、嫌だなー。君との勝負ははっきり言って、【面白くない】んだ」
「…それはどういう?」
「だってエドはさ。君は【ここで死ぬ気】だろ? …タチが悪いよ。生きる為の勝負に、死を前提に組み入れる奴なんてさ。しかもそういう奴はだいたい強い。だからさ――」
レイズは、手をもう一度叩く。奥の扉が開く。そこから現れたのは、血だらけのバニーガール。エドの目の前に来た瞬間崩れ落ちた。腕を撃たれ、今にも泣き出しそうな、悲劇の女性だ。
「――彼女に勝ちな。その勝敗が、君と僕の勝負の結果として、打ち出そう。悪い条件じゃないだろ?」
「あぁ。だが、レイズ。お前にとってなんのメリットも無いという点を除けば、違和感は無いな。なぜこんな勝負を?」
「…なに君。風が吹くことに理由がいる? 海が青いのに理由がいる? 人間が死ぬことに理由がいる? 理由や建前がなくちゃいけないかい? 死ねよ。だったら、そのまま何も無く死んじまえ」
エドは不快感を覚える。それはもちろんレイズに。彼は椅子に座り、エドは立っている。なのにレイズに、見下されているような感覚だった。
レイズは、一度だけ、バニーガールを睨む。
「おい」
「は、はい! レイズ…船長」
「…お前をサメのエサにするのは、少しあとにしてやる。目の前の男に勝て。それが、お前が生き残る唯一の手段だ」
「…分かりました」
「もし負けたら、その時は言うまでもないよな? プードル?」
バニーガールの怯えた目は、少しづつ固まり、覚悟を決めた目に変わる。深呼吸から、よろよろと立ち、歯を食いしばる姿は、死にかけの肉食動物だった。
「私は、バニーガールのプードル。悪いけど死んでもらうわ。私の命がかかっているの」
「残念だが、それは無理だ。勝つのは俺だ。サメの餌」
プードルは、胸から一丁の拳銃をだす。それは脅しのはずだった。だが、それ見たレイズは笑う。彼の悪ふざけが火を吹いた。
「いいね。その銃。トランプや、ルーレット。どんな勝負にしようか迷っていたが、こういう時こそ、シンプルにするべきだ。そうだろ?」
プードルとエド。二人ともあとがない。負ければ訪れるのは死。転生者であるエドは死なない? 否。死ななくても、殺す方法などいくらでもあるのだから。
「――では、このレイズが、ゲーム内容を発表しよう! 【ロシアンルーレット】なんでどうだい? なぁ、カカシ共」
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