その頃(酔王陣営)
フラフラと廊下を歩く一人の男。
その足取りからは、感じられない程の思考を今精一杯に練っている。何故? 今? そんな意味の無い雲のような問いが出来ては消えていく。
酔王…ウイスキーが呼ばれたのは、ある人間を接待する為。本来なら、王が接待するなどありえないが、その者がそう希望したのなら従うしかなかった。
(やれやれ、めんどくさい事にならないといいんだけどな…これから、ホワイトハウスはエド達によって、嵐が吹き始める。それを邪魔したくは無い。彼女に介入されては、面倒だからね)
そう言って、彼は目の前の扉を開ける。ここが目的地。ホワイトハウスの接待室と言ってもいい。
だが、通常ルームにも、接待室はあるにはある。このVIPルームは、他の人に見せられない危険因子を、扱う時の言わばモルモット場だ。
ドアノブをひねる。扉が開き、中身が見える。大きな部屋、内装は全て最高級家具で出来ており、全ては客を迎える為の足掛かりだ。
テーブルがある。そこには座る女が一人。紅茶を飲み、目の前のケーキには一口も食べていない。
黒色の長髪。鋭い目はガラスのよう。雰囲気はクラシックを思わせ、笑う姿は天使の様だ。
だが、その内情は、芸術だけを好む。"芸術無きものに居場所無し"と彼女の国では、それだけで排斥される存在になってしまう。
故につけられた称号は――舞王。
"芸術国 ラトムカンタービレ"の王。
【舞王 トパーズ・スターファースト】である。
「やぁ、待たせちゃったかな? 舞王?」
「いえ? とんでもないわ。座って酔王」
ここから始まるのは、世界も手に汗握る。王二人の気まずいお茶会である。
◇◇◇
「ケーキには口をひとつも付けてないが、お口に合わなかったかな?」
「いえ? だって私一口も食べてないもの。私ねダイエット中なの。0.1kg太ってしまって、黄金比は大切なのに」
トパーズの体は、まさに芸術。千人に聞いて千人がナイスバディと答える、美に脊髄が生えて動いているような存在だ。
手は細く、髪は美しく、顔は小顔、腰は細く、胸は普通、下半身もスッキリとしている。
素人が見れば、痩せているとしか見えないが、芸術を知るものからすれば全てが完璧な存在である。そんな彼女に、カロリーの高いケーキを渡すなど、食べられなくて当たり前である。勿論、酔王もそれをわかって、話を進めている。今はとにかく話題が欲しいようだ。
「(早く帰ってくんないかな)…で? 何故ホワイトハウスに来たんだい?」
「あら? 急かす男は、嫌われるわよ? 芸術的じゃないわ。まずは楽しみましょう。このグラスの黄金比はいいわね。職人をスカウトしたくなっちゃう」
――と、彼女は、自分の世界には入ってしまう。こうなると誰も止められない。彼女の価値観が満足するまでは、そっとしておくしかないのだ。
酔王は、ひとつため息をして、船長室での会話を思いだす。
「…は? 僕に舞王の相手を? 無理無理、レベルが違うよ」
「レベル? 何を言ってる? 同じ【六王】だろうが。とっとと行ってこい。そうすりゃ、お前がエドと言うやつと共謀している事を、俺は水に流してやる。…アルギュワはどうか知らねぇがな」
「…分かった」
【六王】…それは、この世界に存在する、称号を持つ王の中でも特筆すべき六人を選出した物。特筆理由は、【その王が、世界の敵になった時に出る被害総額予想】から算出された。
つまり、王の中の王という物だ。
六王第一は、【魔王アリス】言わずもがな最強で最凶。全てを破壊する最悪の王である。
六王第二は、【月王 ムーン】アルピスを統べる女王であり、他の王と違って、理性で行動していると思いきや、ほぼ脳筋で行動する。ある意味アリスよりも厄介。
六王第三は、【涙王 シャイミール・アクアマリン】テイキョクを支配する王で、彼女自身の危険度もあるが、収める国自体の危険度も含めた評価になっている。
六王第四は、【電王 ????】電脳国ブレインを収める王であり、スマホや電子機器など、その国でしか使えないが、これまでの常識を覆すもので、ここに追加された。
六王第五は、【舞王 トパーズ・スターファースト】芸術しか認めず、芸術性亡き者には、死を与えることもある理不尽の王。だが、戦闘力だけ見れば上位にも届き、シャイミールとも互角かもしれない。
そして、六王第六が、【酔王 ウイスキー】である。
彼が、なぜこの位置なのかは、彼自身もわかっておらず、だが酔王のブランド力で、ホワイトハウスは色々な所に顔を効かせてきた。
今は、ため息をついている男と、意外と出来がいいグラスを見て笑っている少女。地獄になるのはここからだ。
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