ハイエナと勇者と老人と北風
白王…この世界では老人のことを【白】と呼びます。なのでおじいちゃんの王みたいなものです。
「…あの具材の中にお茶菓子が入っているのでは?」
「いいえ? あの鍋の中身がお茶菓子でございます」
…何それ? 白王から、奴隷ルームで煮込まれている物は、お茶菓子だと分かった。
分かった…分かったよ? 信じるさ、信じたくないけどね? 今にでも白王に、看板で【ドッキリ大成功!】っていきなり叫んで欲しいもん。
今の情報で、俺の中の奴隷オーナーが、化け物になっております。あのクソでかい鍋を、コップ替わりに飲む巨人になっております。
「ほ、本当に…お茶菓子なのです?」
「…さっ、先を急ぎましょうか」
「――無視するな!なのです!」
アルミシアも、少しチキってるぞ。いや仕方ない。俺もチキってますもん。明らかにさっきより、歩くスピードが遅くなっている気がする。
これからお化け屋敷に行くような感覚。本当に――うわまた鍋の匂いが。
「オェ」
「…大丈夫なのです?」
「ごめんなさい。やはり匂いが」
「…反応からして、匂いはするのでしょうけど。相変わらず私には感じないのです」
嘘でしょ? ほんとに? 三角コーナーに、一週間ぐらい放置した野菜の匂いよ? いやそれとも、この匂いがこの世界では、普通なのか? 俺がおかしいのか?
「ご安心を、クスノキ様。貴方の嗅覚は間違えておりません」
白王は、足を止めて振り返り、優しい眼差しで答えた。
解説すると、俺の嗅覚は少し人より強くて、たまにいる特異体質らしい。あの鍋の匂いは相当なもので、昔は大勢がダウンしたんだと。
それを、重く受け止めた奴隷ルームのオーナーが、鍋に防御魔法を貼ったとさ。匂いだけを完全遮断する特注品らしい。
更に言うと、お茶菓子は完成品はめちゃくちゃいい匂いだと。本当か? と思ったが、確かに日本でも、パクチーやシナモンは、変な匂いだなと思った事はある。(※個人の感想です)
「さぁ、着きましたよ。ここがお嬢様の部屋でございます」
おや、会話をしていたら、いつの間にか到着していたらしい。
てか、ここが? 普通の一軒家だな。まぁたしかに奴隷ルームの地獄の雰囲気には、似合わないファンシーさがあるっちゃあるな。
全体的にピンクの家だ。材質は木? みたいな一歩間違えれば、童話に出てきてもおかしくない家だ。
「お嬢様、お客様をお連れしました…おや? 留守ですかな?」
慣れた手つきで、ギラリスがインターホンを鳴らしてる。なんでインターホンがあるの? は聞かない。もう疲れた。ここの全部に、一々ツッコンでたら日が暮れる。
「お嬢様ー、おりませぬかー」
さっきからギラリスが、何度も叫んでるけどさ。居ないよ。だって部屋真っ暗だもん。お嬢様が日陰で暮らすことは無いでしょ。もういいよ、留守なら留守でちょっと暇を潰すだけだし。
「どっかに行きます? アルミシアさん」
「…なんか本当に、計画通りに行かないのです」
アルミシアが、ため息をする。そう、その瞬間だった。
「――その必要はありませんわ!」
俺とアルミシアの、後ろから声がする。そう、またしても後ろを取られたのだ。
後ろから聞こえる女性の手が、俺の肩に触れる。
「ふむふむ、面白い過去をお持ちですわね。異世界人、スプラッタ王国と、エレシュキガルにも行ってますわね。アルピスで超白聖祭があると、魔王アリスとも良い関係を…面白いですわ!」
後ろの女性は、続いてアルミシアの肩に触れようとするが――
「触るな! なのです!」
流石に気づいたアルミシアが、振り返って攻撃する。だがそれは不発に終わり、いつの間にか前にいた。ギラリスといい、何なんだ? この【移動方法】は。
「おや、お嬢様。どこかに出かけて?」
「えぇ、奴隷の一人が、怪我をしてましたの。しかもそれを隠して作業をしておりましたわ。お仕置として三日間の、謹慎を言い渡した所、泣いて喜んでましたわ!」
「…それは多分、逆の意味の泣きだと思います」
えぇ!? とショックを受け、やっと俺たちを思い出したのか、ハッ、として振り返る。
クルッとカールした長い赤髪。室内で日焼けなど無いはずだが、傘を指し、髪とは反対の金色のフリフリのドレスを着たお嬢様がそこにいた。
「オーッホッホッホ! 御機嫌よう! 貴方たちが【チャレンジャー】ね! この私"アルギュワ・アーモンドスライス"が! 自ら迎えに来た事を、誇りに思いなさい! オーッホッホッホ!!」
そして彼女は、慣れた手つきで日傘をしまって、その先端を俺達に向ける。大きく踏み込んだ音は、どこまでも轟く雷鳴のように。
「――そしてまたの名を、このホワイトハウスでVIPルーム! 二人のオーナー の内の一人、【北風】の称号を持つ者ですわ!」
彼女は、目を見開き、思いっきり笑う。威圧感が凄い。戦闘力で言えば、俺の方があると思う。だが、彼女の存在につい、肌が痺れる。きっとこの威圧の正体は【自信】だろう。オーナーという事実は嘘では無いらしい!
「――あなた方は、VIPルームで遊ぶのではなく、夢を叶えに来たのですわね? であれば、私とはいずれ戦う運命! 全力で倒しに来るといいですわ! オーッホッホッホ!!!」
俺は小声で「一人で勝てる相手じゃ無さそうですね」と、アルミシアに言うと「…チッ」と言って、何も言わなかった。どうやら認めてくれたってことで良いだろう。
であれば――
「アルギュワさん。こちらは、二人で戦いますが、問題ありますか?」
「いえ、まっ!たく! 問題ありませんわ! 寧ろ二人でかかって来なさい! 助け合いって登り詰める。それが、私に勝てる唯一の方法ですわ!」
「ありがとうございます」
「ふふ、お礼など不要ですわ。…時間も勿体ないですし、まずは――」
お、もうすぐに始めるのか。アルミシアも一気に臨戦態勢になった。何が来る? 体術か? それとも普通にギャンブルか? 何が来ても対応して、アルミシアの足を引っ張らないように!
「――お茶会ですわ」
「「…ズコー!!」」
…なんだろ。今日の俺とアルミシアは、結構心が通いあってる気がする。
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