そして彼等は上に行く
目を開ける。そこには見知ったカジノの天井。
帰ってきたのか、と俺は輝くシャンデリアを見ながら、思った。
起き上がる。シズクがこちらを見て、目を見開いた。アルミシアは…いない。先に上に上がったか。
「シズクさん。彼女は?」
「彼女――アルミシアは、先にVIPルームに行ったでありんす。誠に言い難い事でありんすが…」
その事はいいと、分かっていると伝えた。シズクは1つの頷きをして、こちらを見ている。罪悪感からか、少し目を逸らしていた。
俺も行かなきゃいけない。上へと。プロメテウスの事もある。だがそれよりも――
「行きます? モルトさん」
「そうだな。行こう」
モルトも起き上がっていた。その目は少し悲しい、落ち込んだ眼差しで。
そう、俺達は第二の試練を突破して、"ある記憶"を見た。それが真実か否か。それとも、何か他の意味が…どちらにしろ、上に行かなきゃ話が進まない。
「あ、、貴方たち、和解したでありんす?」
シズクが、変なものを見る目で、見てきた。そういえば喧嘩してたっけ?
別に仲が良くなったとか、許したとかじゃない。ただ目的が同じだけ。どうせ二人とも上に行くんだ。であれば――
「シズクさん。VIPルームに上がる条件ってなんですか?」
「…え、、あぁ! そ、そうでありんす。VIPルームに上がるには、わっちに運と、実績を見せてくれるのが条件でありんす。
運は、ブラックスワンで、みせてくれたでありんす」
「…実績は?」
「資金でありんす。金額にして、四千万。わっちにみせてほしいでありんす。クスノキ殿は、現在モルトの財産。八千万を持っているでありんす 」
八千万…そして、VIPルームに行く為には、四千万と。茶番だ。神もそうしろって言っているんだな。
それがお望みなら、そうしてやるさ。
「では、私の八千万の半分。つまり、四千万をモルトさんに、上げてください」
「…は?」
シズクが、めちゃくちゃ困惑している。そりゃさっきまで争っていたヤツに、資金の半分を渡しているんだ。変なやつと思われても仕方ないか。
「慈悲のつもりか? クスノキ」
「…何を言っているんですか? モルトさん。私はこれから地獄に行くんです。か弱い女の子一人に、行かせるつもりですか?」
「…何処にいるんだ? そいつは」
…後でしばこ。まぁいいや、ちゃっちゃっと済ませて、エドの顔を拝みに行こう。
「はぁ、分かったでありんす。特例中の特例では、ありんすが認めましょう。そこの階段を上がっていくでありんす。あとこれ――」
渡されたのは、カードキー。金で装飾された高級そうな、VIPルームへの鍵。これを見貼りに見せれば辿り着くそうだ。
「…じゃあ、行きます?」
「おう」
俺と、モルトの足を進めようとすると、止める声がひとつある。
「クスノキさん。最後にひとつ忠告でありんす」
「忠告?」
「えぇ、貴方の資金は今四千万。見た目は大きいでありんすが、VIPルームではそれが瞬きをする間に消えるでありんす。そんな戦場でありんす。ご武運を」
シズクの目は、決して俺を怖がらせるとかでは無く、心配の慈愛の目をしていた。そして、その戦場の先に、目的の物があると。やるしか無い。
「じゃあ今度こそ、お別れでありんす。さようなら、次会う時は、勝負をしたいでありんす」
「えぇ、さようなら。また会いましょう」
そうして、別れを終えた俺達は、階段をあがり、カードキーを見せて、先に進む。
大きいドアの先には、VIPルームがあると思ったらあるのは【エレベーター】
「ここから少しの間乗って、VIPルームに辿り着きます」ですと。めんどくさい仕様だな。
「……」
「……」
気まずい! 適当にエレベーターに二人でのって、一分ぐらいで着くと思ったら、めちゃくちゃ長ぇ! いつまで続くの? マジで気まずい――
「おいクスノキ」
――と思ったら、モルトが話しかけて来た。彼も流石に耐え兼ねたらしい。
「なんです?」
「お前は"あの記憶"が真実だ思うか?」
「…どうでしょうね。ただ、真実の場合、私は貴方を敵と見なければならなくなるかもしれません」
「そりゃ楽しみだ」
ケラケラと笑っている。他人事じゃないんだぞ? 貴方の…いいや。それを言ったところで「それで?」って言われるのが、目に見えている。
こちらからも、質問するか。気まずいし。
「モルトさん、こちらからもひとつ聞いても?」
「なんだ?」
「何故、資金が八千万もあって、VIPルームに行かなかったんです?」
「……別に大した理由じゃない。【怖かった】だけだ」
「…怖い?」
モルトは、少し目を閉じている。まるで見たくない思い出を見ないように、蓋をするように。音はエレベーターが下る音しか聞こえない。
「俺は所詮井の中の蛙だ。生死統一教を沈めたくても、こちらは何も知らない。そして、あのVIPルームの親玉としている自分に、甘えてもいた。お前のおかげでやっと勇気を出せた。ありがとな」
「…えぇ、それはどうも」
意外だった。モルトが俺にお礼を言ってくる日が来るとは。明日は槍でも降るか?
その時、エレベーターが止まる。どうやら終着駅に着いたようだ。
「止まりましたね」
「あぁ、着いたようだ戦場に」
ドアが空く。そこには――先程のカジノの何倍? いや何十倍もの、熱狂と悲劇に満ちた、享楽の宴が行われていた。
「ここがVIPルーム…なんて、美しい」
~黄金変容変 後編開幕~
とあるバー。
「ねぇ聞いた? エド。君の仲間VIPルームに来たってさ」
「相変わらず酒臭いな。酔王だからいいのか?」
「まぁまぁ、しかも面白いのが、彼女、モルトと一緒に来ているんだ! どんな喜劇だろう! あぁますます彼女に興味が湧いてきた!!!」
「…そうかい。俺もとりあえず会いに行くか。いい噂も聞けたしな」
とある机。
「やっと来たのです。あれはモルト? なんで一緒にいるのです!? まさか和解? いやあの確執が一瞬で? 二人はグル? 最初から…いや、考えすぎなのです。とりあえずまだ会わないでおくのです。でも次会った時は完璧に打ち負かして、サメの餌にしてやるのです!!」
ここから始まるのは、運だけが味方の勝負。隣の席もディーラーも、勝利の女神すらも信用できない神聖な戦い。ギャンブルという言葉通りの物事が始まる。
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