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永劫回帰は夢を見ない  作者: ユナ
黄金変容編
180/274

死に行く人々へ

舞台は少しだけ現実に戻る。


「さてと、これも計画のうちでありんす?」

「は? 何を言っているのです? これを予想出来ていたら、預言者になれるのです。要は計画外ですが、予想外では無いのです」


話しているのは、シグレとアルミシア。

シグレはタバコを吹かし、アルミシアは俺が持っていたカードを1枚ペラっとめくる。


「エースなのですね。勇者にふさわしいクソカードなのです。シグレ、これ勝敗はどうなるのです?」

「…ゲームは中断でありんすが、クスノキがモルトのブラックスワンを当てていたことを見るに、クスノキの勝利でいいでしょう」

「マジか、本当に勝ってしまうとは恐れ入ったのです。筋金入りの偽善者だとは思っていたのですが」


アルミシアは、俺のフォールアウトに触ろうとする。だがその手は触れる寸前に、バリアのようなもので弾かれる。剣が触るなと言っているのだ。


「チッ! 目的の物はそこにあるはずなのに! フォールアウトめ、まだ私を主と認めないつもりなのです!?」

「そりゃあ、主が眠っている間に盗むハイエナを、所持者にしたいとは思わないでありんす」

「黙るのです! クソが…もういい。予定が狂った、もう私はVIPルームに行くのです」

「…ご自由にでありんす」


アルミシアは強く舌打ちをして、その場を後にする。迎えに来た係員を無視して、スタスタとVIPルームに上がった。


(…憎い、憎い、憎い!)


アルミシアの心には、まだ深海の水が注ぎ込まれている。それの結果は自分を苦しめるだけなのだが、それを贖罪として生きる彼女には、喜んで落ちる地獄なのだ。


◆◆◆


「暇ですね」

「さっさと歩け」


あの後アルピスの映像を見終わると、世界がまた元に戻る。そしてまた徒歩が始まり、十分が経つ。

正直何も無い。ただやつれた人を見ているだけの、時間が進んでいた。


「モルトさん、あれは?」

「ん? あぁボランティアだな。ここで支援をして、募金を貰って私利私欲の為に使う奴等だった。俺から見ても偽善者だったよ」

「でも助けて貰っていたのでは? ほら、あそこで係の人からパンを貰う人なんてあんなに笑って…」

「――気づいたか? ()()()


少しだけ違和感があった。それはボランティアが、パンを渡す時に何かを渡している。小型の…注射器?

物資を貰っている人は、どちらかと言えばパンよりも注射器を貰っているように見えた。


「あれは?」

「麻薬だよ。打てば寿命がバカみたいに減る代わりに幸福感と、多幸感が得られる最悪最低の代物だよ」

「――なんで、あんなものが…」

「実験だとよ。あとから知ったがな。あのボランティアは製薬会社から来た使節団で、裏社会に投げる麻薬の効果をここで検証しているんだよ。ここの住民は空腹と不幸で満ち溢れている。だからこそ麻薬がよく効くんだよ」


嫌な世界だ。なんで日本にもあるものがここにもあるんだ? しかも人を助ける物じゃなく、貶めるものばかり。


「――更に最悪なのが、住民があの麻薬の事を知っていたんだよ」

「え?」

「どんな物だろうと、一回打てば人は大体察する。ボランティアは毎回注射器をコミカルなものに変えていたが、それでも…住民たちは空腹と絶望に耐えられなかった」

「…それは全て人から与えられたものなのに、自身の環境は全く救われていないのに…」

「だったら? 奴らにそんな感情があるとでも? そんな馬鹿は注射器を受け取らず空腹で死んだよ」

「待ってください。ということは貴方も?」


モルトは首を振る。そして見せてくれた右腕には注射器の針の跡が一本もなかった。

何故だろう? パンを受け取らなかったのか?


「無いんですね、跡」

「あぁ、だが勘違いするなよ? 別に俺はボランティアからパンを受け取っていたし、あの時は麻薬なんて知らなかったさ」

「じゃあなんで…」

「いるだろ?俺と近い人間で、注射器を打ってなくても怪しまれないと誤魔化せるやつが」

「まさか――」


モルトは上を見る。その瞳は何を見ているか? 雲、空、違う。ただ虚空を見て目を逸らす。


「そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…」

「母親は昔から、体が強かった。それで父に結婚を申し込まれるほどな。だがどれだけ体が強かろうと、身体を壊す薬には叶わない。それを一本じゃなく二本だからな。徐々に正気を失い、衰弱をしていった」


俺は何も言えない。ただ奥から吹いた風がモルトの髪を揺らす。それでも彼は話を続ける。


「――俺も母親があんなになれば気がつく。注射器が原因だとな。だがそれに気づくのも遅く、そして母親は俺にそれを誤魔化した。『何でもないよ』と『知らなくていい』と、唇をかみ締めながら言っていたよ」


先程の人を見る。注射器を貰って、子供にも打っている。そして喜ぶ子供、涙を流す親。それを見て笑う人々。誰も意地悪などしていない。ただ子供に知られないように、楽しい薬だと言い続けているように見える。

一個人に出来る事など限られている。それでも自分がそこにいたら行動出来ていただろうか? 注射器を受け取っていただろうか? 烏合の衆になれていただろうか?

そして俺はモルトの顔を見る。彼の目は鋭くボランティアを睨みつけていた。


「反吐が出る。ああやって子供に教えてんだよ。あの子供は大人まで生きられないのに!!」

「注射器を受け取らなければ、投与しなければパンを受け取れない。それが彼らの正義なんですね」

「――分かってる。分かってるさ。ああやって媚びを売らなきゃ生きられない。弱肉強食が摂理なんて分かってる! でも【あれは】無いだろ。あんなむごい地獄を作って、誰も何も言わない! 」


モルトに同情なんて出来ない。自分とは環境が違いすぎるし、それは彼の過去への冒涜だ。

でもだからこそ理解出来る。彼の金への執着も、何がなんでも勝負に勝つ事も、全て生き続けなければいけないからだ。


「はじめ呪いだった。今は鎖だ。母親の慈悲で、いらない覚悟で俺はまだ生きている。あの時隣にいた奴のように注射を打っていれば、ただいきなり狂ってボランティアに、射殺された彼のように!! …誰も生きたく無いわけじゃない。でもそれでも、この国の人間は生きることを嫌い、狂う事を望んたんだ」

「……」

「クスノキ、なぜ俺がホワイトハウスに来たか。お前はアルピスを止める為と教えてくれた。だから俺も教える。

俺の目的は、この製薬会社を潰す事。それにはVIPルームで貰える権限と、金と、情報が必要だ。まだ名前と【テイキョク】に本部がある事しか知らないからな」


テイキョク。確か涙王が治めている国、カゲはそこに行きたいって言ってたけど、大丈夫なのか?

それにしても最悪な企業もあったものだな。どこも腐っている部分はある…か。


「その製薬会社の名は【生死統一教(アスクレピオス)】俺の全てを奪った忌々しい敵だ!」


その時、そこの空気が変わる。これはあの時と同じ敵襲だ。だが、酷いにも程がある。これは――


「モルトさん。下がっていてください。ここは私が――」

「いい。余計な慈悲を託すな。分かっている。だがな」


モルトは前に進む。敵は正気を失った民やボランティアが蠢いている。まるで彼を仲間に加えようとしているように。


「――分かってる。俺が憎いんだろ? 同じ故郷で俺だけが平穏に過ごしている。来いよ、お前たちの辛さは痛いほどわかる。薬で死んで尚ここで使い尽くされる。それがどんなに【屈辱】か!」


モルトは、拳を構える。涙は流さない。ただ手を握りしめ、唇をかみ、我慢する子供のようだった。


「来い! 俺がお前らを終わらせてやる! 引導を渡してやるよ!」

「来ますよ。モルトさん!」


そして俺達に襲いかかる第二の敵襲が始まった。


読んでいただき本当にありがとうございます!


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