バットエンドはまだ早い
アルミシア「見てください! スロットが停止しましたよ! これが『フリーズ演出』と言うやつですか!?」
クスノキ「いえそれはただエラーを起こして止まってるだけなので、係員を───あー、叩かない!」
『次の日、クスノキ大勝利。
さらに次の日、またまた大勝利。
さらに次の日、以下同文。』
ということで、めちゃくちゃ勝ったわ。
やってて分かる。この国は俺をVIP層に招待しようとしている。ディーラーは確実に俺が勝つようにイカサマをしている。
まぁ、何故? という疑問が残るが、それはまぁ、置いておくとしよう。
エドも、これに気づいてVIP層に上がったのか?
⋯いやあいつの事だから『あれ? なんかいつの間にかVIPに行ったぜ、ラッキー!』って感じがする。感じがするって言うか絶対そうじゃん。
だが、問題はあっちだ─────
「⋯⋯」
「また負けたんですか? アルミシアさん、何故そこまで大きい勝負で? 少しづつ貯めていくのが鉄則───」
「それは分かってます。でも、でも」
⋯思うが何故こんなにも負ける? ディーラーがいる勝負なら、ずっと負けても疑問は無い。
だが今回彼女が賭けたのは、スロットやパチンコの所謂"個人競技"と言える。
スロットやパチンコには最低保証があり、大体三百回転もすれば、当たりが出るはずだ。
だが、彼女は今日一度もレギュラーすら出ていない。
⋯聞いてみようか。
「あのすいません、係のものですよね?」
「⋯えぇ、どうされました?」
おっと? 俺の顔が少し怖かったか? 青ざめて怒られる準備をしている。まぁいい、怯えてた方が扱いやすいし、続けよう。
「あそこのスロットの設定は何ですか?」
「設定ですか? スロットは一括で同じとなっていますが?」
嘘だな。それであれば彼女が当たらないはずがない。
つまり、この設定は『運営が任意で変えられる』と言う事。
⋯誰か、いや何かがアルミシアを『奴隷に落とそう』としているという事か? 全くきな臭くなって来たな。
ん? 嫌な予感がしてきたな。まさかだよな?
「帰りました。さて、アルミシアさん。一つ聞きたい事があります」
「? 何ですか?」
「貴方もしかして"王女"だったりします?」
「⋯なんでわかったんですか?」
やっぱかー!! もうまたかよ! ハーレム主人公じゃないんだから、なんでこんなに王女に会うの?
「そ、そうですか。因みにどこの国ですか?」
「電脳国"ブレイン"の第一王女、ブレイン・アルミシア・マスカルネが私の本名です」
⋯もうやだ。
◇◇◆◆◇◇
「はぁ、なんでこんな事に」
俺が来たのはバー。酒を飲む所だ。まぁ酒は飲めないので、ジュースで飲んでいるがね。
見た所色とりどりの酒が沢山あるってかあれ何? レインボーに光ってるけど、飲める物なの?
金に関しては⋯結構ギャンブルで勝ったし軍資金も多いから少しぐらい使ってもいいだろ。
うん、てかここからどうしようか? 俺だけなら直ぐにVIP層に行けそうだが、アルミシアをどうするか。
そもそも俺がここに来たのは、アルピスの為。本質から見てられなほど脱線するのは如何なものかとは思う。思うんだがね⋯
『私はもうすぐ奴隷に────』
⋯全く、なんであいつがルームメイト何だがな。
どうにかして彼女にこの船から下りる金を用意しなくては、じゃないと明日の自分に殴られそうだ。
「すいません、クスノキ様」
「はい? いや、ですからその"お酒"はいらないです。飲めないんですってば」
「ですがこれは、『あちらのお客様』からで」
店主が持っていたのは、一杯のウイスキー。
誰だ、こんな幼女に酒を勧めてくるバカは。
「ん? ごめん。俺の酒飲めなかった?」
「この酒は貴方の? すいませんが私はお酒が飲めないんです」
どう見ても酔っている。この男が俺に酒を渡して来たようだ。メガネをかけて黒いコートに身を包んだ、いかにも胡散臭い男。
色々と言いたいが、まずはその猿芝居を辞めてもらおう。
「あなたは何故酔ったフリをしているんですか?」
「いやー、俺は酔ってるよー。酷いじゃないかそんな言い方をしなく─────」
「では、何故あなたの服にはお酒が零れてないんですか?」
その瞬間、男がフリを辞める。やっぱり芝居だったか、まぁ酒飲みには変わりないだろう。千鳥足とかまじだったし。
「それで何の用ですか?」
「いいねー。そうでなくちゃ、悪いね酒で酔ってる、フリをしていた方が色々と楽でね。
俺の名は──────」
「名前は結構です。興味無いので」
「おっと! これはこれは。ではいい。本題に入ろう」
男は指をひとつ建てた。俺の横に座って、悪魔のような笑い方をして、こちらを見た。
「⋯いいの? 君のツレと一緒じゃなくて?」
「ツレ? アルミシアさんの事ですか? 彼女にはバーでお酒を飲む金なんて─────」
「あぁ、違う逆逆。アルミシアに君がついてなくていいのか? って事」
「⋯どういう事ですか?」
「彼女は上手く乗せられてしまったね。仕方の無い事さ」
「何⋯を?」
「君は気づいていただろ? 彼女を落とそうとしている勢力が居ることを。いいね! よく気づいた。だがそれだけだ、君はそれ以上何も行動しなかった。だからこそのあの結果だよ。
君は更に気づくべきだった。彼女はまだ奴隷に落ちていない。だが、その"落とし穴"はすぐそこにあるってことを」
俺の脳裏に最悪の展開が映される。もしも、彼女の身分を相手が知っていたら? 知る機会があったら? 今日スロットで負けたのが、相手の"王手"だったら?
「───ッ!! 店主さん、ご馳走様でした!!」
俺は勢いよく扉を開けて、広場に向かう。
俺の選択は最善だったはずだ。だが、最高では無く最悪の一手だった。
まだ時間があると、なんの根拠もない空気のような希望を見ていたのだ。
「アルミシア! 掛け金不足につき、奴隷行き決定!!」
全てが手遅れだった。俺が見た時は泣く事も出来ず、膝から崩れ落ちたアルミシアがいただけだった。
◇◆◆◇◇
「よろしかったのですか? 教えてしまって」
「ん? そりゃもちろんでしょ。僕がそんな非情な奴に見えるかい?」
男はバーで店主と二人だけで話していた。
手には俺が飲めなかったウイスキーを飲んで、少し笑いながら。
「⋯このウイスキーを飲まして、寝ている間にVIP層に連れていくつもりだったが、意外と物分りが良かったな。彼女なら俺の手助け無しでもVIP層に行くだろ」
「これも全ては、"王"からの指示で?」
「そりゃあ勿論。パシリはきついよ、《称号》を持っていても、結局下働きだよ」
『酔王 アランカ・ノン・ウイスキー』
このホワイトハウスで、VIP層を管理する王の一人だ。
「マスター、僕ってなんでこんなに哀れなの?」
「⋯ひとえに人徳では?」
「おっと、ズバッと言うね」
二人の笑い声に、ウイスキーの氷が溶けてカランと揺れる。結露した水が彼の手を濡らしながら、それでも飲むのを辞めなかった。
「VIP層で待ってるぜ? お連れさんと一緒にな。君は彼に勝てなければVIP層には来れないけどね」
◇◆◆◇◇
「貴方は?」
泣いているアルミシアを他所に俺は、勝利した男のところに向かう。
「あ? てめぇ、どんな神経してたら俺に話しかける? 俺は───あぁいやすまん。新人か? そりゃすまねぇ」
男は、足癖が悪く勝負台の上に足を置いて、葉巻を吸っている。
いつかは見ると思っていた。この一般で一番金を持っている、ボス的なやつを。
リーゼントで、白を起点に龍が載った服を着た、歯がギザギザのヤクザ見たいなやつだ。
「俺の名は、モルト・マネー。覚えとけ、ここでは俺がルールだ。⋯俺が名乗ったんだから、てめぇも名乗れよ。常識だろ?」
「クスノキです」
「そうか、良いなだ。よろしくクスノキ。今日から俺たちは─────」
"友達だ"
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