抜き取るのは型抜きだけでいい
ペラペラと本を読むプリス。
(なぜ、アルピスの歴史は、こんなにもまばらなんだ? ある地点から綺麗に百年間抜き取られている。
何があった? この歴史に一体何が···)
読んでいたのは歴史書。上の通り、どの本も全てに抜き取られている歴史がある。
誰かがちぎったとかではなく、最初から印字する気がない様な、決定事項のような気がした。
さらに奇妙なのはその時期─────
(そしておかしいのは時期だ。なぜこんな中途半端な場所だ? 昔と言われても、現代と言われても頷けない時代だ。
始まりの百年の近くならわかる。あそこは隠したい歴史が多い。だが、抜き取られたのはほんの『三百年前』だ。アルピスは何をした? 何を隠そうとしている?)
プリスは本を全て読み、収穫が無かったとため息をついて、本を戻す。そして次の本に手をかけようとした時···
「調査は順調ですかにゃ?」
話しかけてきたのはニャークルだった。
「おや、ニャークル殿。すいません起こしてしまいましたか? 静かに読んでいたはずなんですかね。(···消音魔法を使っていたのに、なぜバレた?)」
「別にいいニャ、それで何を調べていたのにゃ? 力添えをしたいのにゃ」
「···それはそれは、ありがとうございます。では一つお聞きしたいのですが、もうすぐ開催される『祭り』はどの時代からから始まったのでしょうか?」
「にゃ、■■■■祭は、約三百年前には始まっていたにゃ。それより前にあったかは分からないのにゃ。
···何でそんなことを聞くのにゃ」
プリスは少し頬を爪でかく。真実を言うべきか、嘘をつくべきか、少しだけ迷う。
少ししか悩んでないのは、【どちらを選択しても対して結果は変わらない】と、プリス自身が把握しているからだ。
なので、少し誤魔化して伝えることにした。
「えっとですね。私自身が、祭りに疎い身でして、ご主人様も楽しみにされているのでね。せめて祭りの原点を知ろうと歴史書を読んでいたのですよ」
「···そうなのにゃ。それでわかったのにゃ? 分かったのなら興味深いから教えて欲しいにゃ」
「まだ調べていると言ったじゃないですか、しかも収穫はゼロでしたよ。それで? 【あなたは祭りが三百年前から始まった】と知っていますよね? ぜひ教えていただけませんか?」
その瞬間、ニャークルの顔から笑顔が消える。無表情に、マネキンのように、喋らなくなった。
プリスも流石に不審に思う。だが、声を出さない。相手からの反応を待つ。
「···アルピスは『罪』を犯したのにゃ」
「罪? 何のですか?」
「分からないにゃ。でもそれが全ての原因なんだにゃ。アルピスが海上浮上都市になったのも、全ては敵から隠れる為。
···誰かが、何かに触れたのにゃ。それは神の怒りを買って···」
ニャークルの足が震え出す。寒くもない、重いものを持ってないが、それでも足の震えが止まらない。
目が霞んでいき、それでも言葉を出そうとした時───
「迷える子羊よ。もう大丈夫、貴方の罪を聖王プリスが許しましょう」
プリスが、ニャークルの額に光の玉を入れる。次の瞬間、彼女は意識を失い、幸せそうに寝ている。
「おやすみなさい。大丈夫、次起きた時には何もかも忘れてますから───さてと、そろそろ出てきたらどうですか? いつまでそこにいるつもり? ねぇ、アリエル殿?」
本棚の影からアリエルが出て来た。まるで、やっては行けないことをした子供のように少し落ち込んでいる。
「こ、これは、少し前からたまたま見ただけなのじゃ。儂も話しかけようと思ったが、少し恥ずかしくてな。それに儂も歴史には興味があってな」
「あぁ、別にアリエル殿を責めようとは思っていません。子供というのはイタズラをしてしまうもの。それを責める大人気ない人間はここにはいませんよ」
「ほう、流石の器じゃの。では、儂はこれで」
「───ですか、なぜ私が歴史を調べているとわかったんですか?」
「···いや何を言っておる。お主の手には歴史書があるではない───!!?」
アリエルは目を見開く。いつの間にか、プリスが持っていたのは、歴史書から昆虫図鑑に変わっていた。
机の上に積んでいた本も全て無くなっている。少しネタバレだが、これはプリスの固有魔法の恩恵だ。
アリエルは今の状況に、冷や汗をかく。
「······」
「答えられませんか? ではさらにひとつ。貴方は最初から見ていましたよね? しかも興味とかで無く、監視として、なぜですか?」
「···なぜ分かったのじゃ?」
「分かったというか、、そもそも私がここに居たのはあなたを呼ぶためですから」
「!!!?? まさか最初からバレていたと?」
プリスの口から笑い声が響く。腹を抱えて涙を流しながら。それはアリエルからは挑発に聞こえる。
「何がおかしい!」
「いやいやw まさか、バレないと思っていたとはね。どんだけ脳内お花畑なんですか? 馬鹿につける薬はないと言いますけど、これはもう手遅れですね」
ピシッとアリエルとプリスの殺気がぶつかる。先程までの子供のような彼女はいない。
「やっぱりお前は嫌いだよ。プリス」
「ハハハ、やっぱりお前だったか。その体を借りて何をする気だ? 盲目でもしたか? フロート いや、オブジェクトフロートと言った方がいいか? まぁいい、その体はご主人様の大切な友人のものだ。返してもらおう」
フロートが剣を出そうとしたその時、それより早く、プリスが首を掴む。子供なので、そのまま首を絞める。
「グ、ガ、この力! 宿主を殺す気か!」
「生憎私は聖王なのでな、死にたての体など簡単に蘇生できるんだよ。あぁ、悪魔が命乞いなんてするなよ? 興醒めだ。塗り重ねた歳を数えて、地獄に落ちてろ」
プリスは固有魔法を使う。首に光が集まり、中の悪魔が口からところてんのように出てくる。それを彼女は握り潰す。
「アガァ!! ヤメロォー!」
「は? 命乞いするなって言ったよな? 大方『始まりの百年』の人間が居なくなって、イキリ出したんだろ? 舐めるなよ? その時にはお前なんかゴミのようにいたぞ」
悪魔の辞世の句も聞かずに、彼女は悪魔を握りつぶした。
彼女は何も思わない、ただどれだけ時間がたとうとなにも変わらないなと前から目をそらす。
その時感じ取る、【あいつ】の気配を。
「···気の所為か? なぜ、、いや違う! なぜあいつがここにいる!」
◆◇◇◆◆◇
アルピスの中心、パイプ室に二人の人間がいる。
ハクアとカゲの二人だ。なぜこの二人がいるかは後にして、少なくとも今伝えることは。
「全く···なぜ俺が人間を助けなくちゃいけないんだ」
敵の前に立ち塞がる【魔王】がそこにいたという事実だけだ。
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