「石」と書いて「魔力晶」と呼ぶの楽だよね
~三日月教~
「ムーン様、会議のお時間です」
部下が報告しに来た時、ムーンは青ざめた顔をしていた。
帰ってきてからのムーンは大忙しだ。だが、それでもあの水槽の中と比べれば天国に近い。
だが、この目の前にある大量の書類を見れば誰でも頭が痛くなるという物だ。
そして極めつけに─────
【あの、なんでこんなに書類が多いんですか? 国が大きくなったとはいえ、ここまで必要ですかね?】
「それは、アルピスの祭りが近いですからね。仕方ないというものです」
【祭りですか? 私がいない間に出来ていたんですね。名前はなんと言うやつですか?】
「■■■■祭と言うものです」
【何て? 口パクしないでください】
「はい? いやですから■■■■祭ですよ」
ムーンにも祭りの名前が聞こえなかった。それもそのはずだ、言ってしまえばこの祭りの名前を知って一番面倒臭いのはムーンだからだ。
神は伊達じゃない、だからこそダメにする。いずれ知ることだが、無知とは命取りになる代わりに、少し丈夫な命綱になるのだ。
~排水制御室~
「さぁ行くわよ!」
…ギアルが張り切っている。さてさて、早めにパイプ室に行きたい所だが、どうもそう簡単には行けないらしい。
簡単に言えば水の問題だ。
「簡単に言うと、今はまさに排水が終わって、水がアルピスに入ってきていたの。それが終わるまでは逆流しているからパイプ室には行けない。だって、パイプ室は排水制御室の前にあるんだから」
あー、そっか、確かにギアルはカゲにパイプ室を無視してこっちに来たって言ってたもんな。つまり、逆流が終わるまであっちに行けないと。どのくらいの時間でそうなるのか。
「ギアルさん、その逆流が終わる時間は?」
「ん? そりゃ排水の時だから今からあと二十三時間後だね」
へー、二十三時間後かー。……はぁ!? 俺達はこれから一日ここで待機するの? 『大丈夫、布団とか風呂ならあるから』ってそういう事じゃねぇ!
「トイレとかはあるんですか!?」
「…そこかよ」
俺の言葉はエドに突っ込まれたが、正直暗いところは苦手だ。
…ん? なんか笑い声が聞こえない? カゲ何を笑っているの?
「フフフ! クスノキ殿! 何かお困りでござる?」
「……いえ特に、トイレならあっちですって」
「違いますよ! 逆流で進めないからここで立ち往生をしているのでござろう? これを改造した拙者がそれを想定していないとでも? さぁ、パドル起動!」
おぉー! いきなり、ボートの両脇からパドルが出てきた。
まじか、何でさっき出さなかったんだろう?
『忘れてた』って? うんシバくぞ。
さてじゃあ行きますか──────
~パイプ室へ向かう水路~
バロバロバロと音を上げながら、パイプ室へ向かう俺達。
さっきみたいな岩の塊は無いんだな、てかなんなのあれギアル先生。
「ギアルさん、私たちが排水制御室に行くまでに大きな岩があったのですがあれは?」
「あぁあれは、岩じゃないよ。魔力の塊さ、このアルピスが海から水を回収して魔力を絞りエネルギーにしていることは知っているだろう? その過程でどうしても魔力の結晶が出来てしまう。その名を【魔力晶】という物だ。 触っても特に外傷は無い、ただ触らない方がいい、傷口から砕けた欠片が入ると、体内で膨張して身体中から魔力晶が出てくる。そして新しい苗床になるのさ」
……そんな危険なものだったのか、全部吹き飛ばして正解だったな。
ギアルも吹き飛ばして助かったと言っていた。まぁ結果オーライならいいや───うん、今まで話していたけどそんな状況じゃなさそうだ。なんだあれ?
「さぁ、エド! ちゃんと運転しな! じゃないと死ぬよ!」
「おい待てこのバカ女、お前まさかこのルートは……」
「だって急いでいるんだろう? だったら特急便だ! 死にたくなかったら必死に生きろ! 安心しろそっちの方が【面白い】!!」
「この! 快楽主義者がぁあ!!」
うんわ、マジで? 今の会話でわかった、目の前には一本のパイプ。
中に入るのか、おそらくそこは洗濯機の中のような濁流だ。
どうやって切り抜ける? 『頑張れ』と? あぁはい分かりましたよ!
「うぅ! やっぱり来なきゃ良かったのです!」
「ん? どうしたんだいハクアちゃん、今更ビビっている? 心配しなくてもこの水の下は巨大な歯車があって体なんて木っ端微塵になるから安心しな!」
「これだからギアルさんは苦手なのですってきゃぁあ!!」
ハクア舌噛むぞ! パイプの中に入ったが、やはり俺の予想通り、いや予想以上に濁流だ。
上も下も分からなくなりそうだ。だがそれでも時間は待ってくれない、俺達を殺そうと次々と魔の手が降かかる。
ここからは何とか運転しているエドの采配だ。
「ハクア! 俺の体を抑えろ、揺れて前が見えねぇ!」
「り、了解なのです!」
「ギアル! ここからの道は!」
「次のパイプを右、その後左にあるパイプを四つ飛ばして、次のパイプがある場所の下のパイプに入れ」
「ややこしいなぁ!」
エドは巧みにハンドルを操って濁流の中何とか渡っていく。ただ行けば行くほど視界が悪くなっていく。
「エド! ライトをつけるでござる! これで見やすくなったでござろう?」
「おぉ! てかそんなものあるなら早めに使え!」
「いや…実はこのライト、光が強すぎて目に当たると失明するでござる」
「なんでそんな欠陥品ばかり作るんだ!」
さて、今度は程々にして、また次の関門だ。あれは大量の魔力晶だ。さっきの比じゃない。数で言えば見ただけでも五倍はある、さてどうするか─────
「クスノキ! ぶっ壊せ!」
───だそうだ。やるか剥離の形を使えば全て破壊できるだろうし。
何? ギアル。
「周りの壁は壊さないでね。ここ心臓でいう大動脈だから壊れたらアルピスが滅ぶ」
先に言え! 全く、更に剥離の形で水に魔力を流して俺の技の威力を相対的に弱くする。
一本ずつ、丁寧に、周りの壁は壊さずに少しづつ砕いていく。
エドも運転しながら魔力晶を避けている。なので案外楽だ。
俺が壊すのはどうしても避けられない物だけ。例えば…あれとかね─────
「んにゃ! でっかい魔力晶なのです! 先生、避けられないです!」
「ハクア、安心しろ! クスノキが何とか壊す! それよりもギアル、あれがこの事件の原因か?」
「事件? あぁ、排水量が低下しているやつだよね? いや違うね、たとえあそこが詰まったとしてもそれで排水が少なくなるような作りにはなっていない。全てのパイプには予備パイプがあり、それがある限りたとえ本命が壊れようと影響は無い。
だが……この大動脈のような場所にあんな大きい魔力晶ができるものか? この濁流でも流せない魔力の塊があったとでも? それが本当なら、誰かがここを通ったということだ。……いいね! きな臭くなってきたよ!」
なんか、ギアルがブツブツ言ってるけど気にしない、
さて切るか。少し大きいからちょっと強く振って切り崩す!
……あっ。
「馬鹿野郎! 振り切りすぎだ! ボートに戻れねぇぞ!」
うわ、これマジだ。本当に落ちる、いや落ちた。俺は水の中、飲み込まれながらそのまま流れていく。
エドも声を荒らげるが、それは聞こえていない。
だが一つだけ、こっちに何かが向かってくるのだけは見えた。
「くそ、どうにかしてあいつを──おい待て! なんでお前も飛び込むんだ! 事態をややこしくするんじゃない!」
俺は意識を失った。でも最後に見えた。俺が溺れているのを見て我慢できずに飛び込んだ、ハクアの姿を。
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