取引と約束
腐都乖離編ラストです。
「ここは?…」
国を欺き、民を欺き、自らを騙した人間「大空 新」
いや────
【あっ!ようやくお目覚めですか?お寝坊さんですね、調子はどうです?】
「…──お陰様で最悪だよ、ムーン」
磔にされている大空を見ているのは、紅茶を飲んでいるムーンだった。
世界を滅ぼそうとした罪人、大空新太郎の裁判が始まろうとしていた。
【いやー、助かりましたよ、カオリちゃんが固有魔法で殺してくれたおかげであなたをここに連れてくることができました────本当にやってくれたな大空】
後半からムーンの殺気が飛ぶ。常人ならとっくに気絶しているだろう。
だが相手は転生者、こんなことは想定内だった。
「…随分とお怒りのようで。死ぬ筈だったクスノキを生かしたのはお前だな?余計な事をやってくれたあれのせいで計画がどれだけ狂ったか」
【クスノキさんのせいにしないであげてくださいよー。あれは全て貴方のちょございなおままごとの結果。誰が何をしようと崩壊していた廃墟でしたもの
あと、何か私に言うとありますよね?】
「……死ね。以外にあると思うか?」
【そうですか】とムーンは大空の足元に魔法陣を起動させる。もとの世界でも日本でも無い、最悪の世界に追放させるためだ。
【───特別に選ばせてあげます。
1・寄生虫がわんさかいる世界
2・強酸のような有害な液体がはびこる世界
3・何も無く、ただ虚無の地獄の世界
どれがお好みですか?】
大空は何も話さない。話す必要は無くなったのだ。
「何度も言わせるな! 死ね!」
大空の錠が外れる、手刀で首をちぎるつもりだった。
そのつもりだったがそれは出来ない。
なぜならもう彼の手は無いのだから。
「─────は?」
大空の手が落ちる。血を大量に吹き出し、痛みを撒き散らして大空はその場に倒れて悶えている。
「き、貴様が、何故ここに!……まさか全ては茶番だったと? 答えろムーン!」
ムーンの前にいたのは顔がない謎の女。
大空は正体を知っている。いや、それしか思い浮かばない体をしている。
だからこそ、信じられなかった。
それが目の前に立ち塞がっていることを。
【そういえばあなたは知ってましたね、この子を。であれば本当に貴方は追放ですね。更正の余地無しと。
ではさよならー、今教えた世界を全てブレンドした場所に転移させてあげます。さぞかし地獄でしょうが頑張ってくださーい】
大空は転生者だ。死ぬ事は無い。それはどの世界でも変わらない、大空はその世界で死にたくても死ねない無限の地獄を味わうのだ。
「───ムーン!!答えろ!なぜ我らを救わなかった! お前程の力があればあの世界を救えたはずだろ!
そして!目の前にいる女をその状態をする必要があるのかー!」
【ちょこまかとうるさい虫ですね。言ったはずですよ? 私は世界を救わない、助けないと。まぁいい、貴方では無い人が世界を救うでしょう、それを地獄で見てなさい。】
大空は自覚する。こいつに世界を救う気なんてないと。ただ救えればいいなーぐらいにしか思っていないことを。
その為だけに転生者がは死にたくても死ねない呪いに侵され続けている。
不老不死なんてたまったもんじゃない、誰も頼んでいない地獄を引き受ける気など神にはなかったのだ。
「あ……ハハハ!!! ムーン、お前はいつか死ぬ!誰かによってお前の首は地面に落ちるんだよ!
その日が来ることをせいぜい地獄で待っててやる!また会おうぜ!ムーン!いや、この偽善者がぁ!」
ムーンの魔方陣によって大空は沈んでいく。だが、最後まで大空は笑っていた。最後までやり直すという事、人の気持ちを取り戻す事は叶わなかった。
【……どの世界にもいるものですね。救いようのないクズというものは。あぁ、護衛ありがとうございます、もう帰って大丈夫ですよ?】
顔のない女はまだ帰らない。ムーンに聞きたいことがあるからだ。
だが、口も無いのでテレパシーでムーンに伝えるしかない。
【あぁ、そうですね、あなたの予想通りです。次のジョーカーは彼ですよ。全くどれだけ悪行をなせば気が済むのか。
もうすぐ巨大国家が亡びます。まぁあの国は私も見ていいものでは無かったので助かるんですがね。】
ムーンは最後に残っていた紅茶を飲みきる。椅子を立ち、部屋を出ることにした。
扉を出る時に少しぼそっと喋る。誰にも聞こえないように、ただの独り言ように。
”抜からないで下さいね?アリス”
──────────
まぁ、そんなことが天界で起きていた事はつゆ知らず俺は少し話していた。
こっちもこっちで問題だ。特にプリスでね。
「へぇ、この小さいガキがあたしを助けてくれたのか。いい強さをしているよ」
「えぇ、そ、そうですね」
俺とプリスは喋る。結構やばい、舐めてた。確かにアリス以上かもしれないと思っていたけどここまでか。
こいつ、喋っているだけで魔力が出ている。本来魔力は溢れることは無い、その人間の限界で成長が止まってしまうからだ。
だが、その魔力が溢れている。つまり「今だに魔力の量が増え続けている」というこだ。
腕を振る。歩く。息をするだけで濃い魔力が流れ出る。
代謝がいいってことなのか?
────やっぱりこうするしかないか。
「プリスさん、私と一緒に旅をしてくれませんか?」
「…いいよ、どこにでもあんたがあたしを救ってくれたんだ。恩返ししないとね」
まぁ、助けたのは俺というかアルグワ何だけどね。
やっぱりこいつをエレシュキガル置いておくのは反対だ。
エレシュキガルは復興を続けているが、俺達はもう国を出るつもり、例え、どれだけ荒廃しようと人間は強い。いずれまた美しい国が出来上がるだろう。
俺達はそれを見守るしかないのだから。
「それでは行きましょうか、プリスさん」
「はいはい、久しぶりの旅だなー、あれと旅した以来だ。
楽しみだよ本当に」
───────
出発の時間だ。見送りには2人が来てくれた。
グリュエと、カウノだ。
「何から何までありがとうね、クスノキ。カウノさまもお見送りしたかったって言っていたけど王になってしまったから忙しいのよ」
そうだ。言い忘れてたけど大空の後任はカオリになる。彼女も俺と旅をしたかったらしいが、さすがに彼女がいなくなれば国は崩壊する。引き受けるしか無かったらしい。
まぁ適任だよ。
「クスノキさん!本当にありがとうございしました!私も出来ればついて行きたいんですが、この【ネックレス】も研究したいのでやっぱり国に残ります。
それから、私の…ご先祖さま?なんて呼べば?プリスさん?プリスおばぁちゃん?」
「あははー最後の呼び方でもう1回したら殺すぞー」
はいはい、2人共その辺で、じゃあそろそろ行くよ。またあったらこの国に来るから、その時は───────グリュエ?
「あっごめんね、最後にカオリ様からメッセージがあってね
”もしエレシュキガルの力が借りたくなったらどこであろうと連絡しなさい、たとえ地の果てだろうと助けに行くから”だそうよ」
随分と俺は気に入られたようだ。光栄な事だよ。
俺からもカオリにありがとうって言ってたって伝えといてくれ。
じゃあ、本当にまたな!!!
「クスノキ、国を救ってくれてありがう!いつでも来なさい!歓迎するわ!」
「クスノキさーん!お元気でー、旅の果てが良いものになることをカウノも祈ってます!」
ありがとよ!2人共さよならーー!!!!
そうして、俺達はエレシュキガルを離れた。
「そういえば、クスノキよ、次はどこに行くつもりなんだ?」
ん?─────そういえば言ってなかったな。
「次は、アルピスに向かいます」
「えーと、地図上だと、ここか。遠いね、最短距離でも1ヶ月はかかるよ?近くのエルフ神国とかは寄らないの?」
あーエルフ神国か。確かに俺も寄りたかったが、約束だから仕方ない。
「約束?」
「えぇ、私はある人間と取引をしまして。
次行く場所をアルピスにする。
エルフ神国には絶対に寄らない
という2つを守らなきゃ行けないんです、なのでエルフ神国にはアルピスが終わってから行きましょう」
「はーい」とプリスはやる気のない返事をする。同中魔物も居るかもしれないけど、まぁ彼女がいるのなら大丈夫でしょ。
……それにしても、1ヶ月野宿か。宿が恋しくなりそうだ。
なんでアリスもエルフ神国には寄るなとあんなに言ったのだろうか?
『第三章 腐都乖離編』~完~
場所は変わり、エレシュキガル司令室。
「という事が、全容よ。何か質問はある?」
「えぇ、無いわ」と話すのはカオリとラムダ。2人は影で組んでいたのだ。
アリスが大空の目的を知っていたのもそのため、いつから組んでいたから知る由もない。
「それにしても、本当にいいの?なんのお礼もしてないけど?」
「えぇ、大丈夫よ。彼女の次の行き先をアルピスに出来た。それだけで私達の目的は完了だもの。
彼は随分と彼女にご執心でね、エルフ神国に寄らせる訳には行かなかったのよ」
「……その理由って、あれの事?」
カオリが察する理由はエルフ神国に行った転生者が二度とかえって来ないという噂があり、カオリも行くのを躊躇していた。
ラムダは答える。
「えぇ、それもあるわ。でもそれはもう無くなる噂だから。彼女を寄らせない理由は単純に巻き込まれ無いように…よ」
「────何に?」
ラムダは少し笑う。まるで目の前に餌があるかのような肉食獣の笑顔だ。
「1週間後の今日。魔王アリスはエルフ神国に宣戦布告+殲滅を実行するわ。老若男女の全て皆殺しよ」
カオリは目を見開く。可能だと、一瞬で理解した。エルフ神国に1週間の明日は無いと、確信出来るほど、ラムダの顔には自信があった。
ラムダは続ける。
「貴方、エルフ神国に大切な人はいる?」
「……別に居ないけど?」
「なら良かったわ。安心して皆殺しにできる。
私はそろそろ行くわ、お茶美味しかった。また来るからその時はお茶をしましょう。
ではまたね、エルフ神国が無くなった地図ばどれだけスッキリするでしょうね?」
バタン、と扉が閉まる。それ以上足音が聞こえなかったのでラムダはワープしたのだろう。
カオリは自分の椅子に座り腰掛ける。ギシッと少し音がした。
「滅ぶエルフ神国と魔王アリス。どちらの味方になるか、そんなの決まってるわね」
カオリは今の事実を秘匿にする。民が知るのはすべてが終わったあと。
エレシュキガルが事実上、エルフ神国を見捨てたのだ。
──────
1週間後の今日になる。
ラムダがある場所にワープする。
「遅かったな、ラムダ」
玉座には魔王アリス。そして少し前に5人の腹心。そしてグリシャだ。
ラムダが揃った所でアリスは行動を開始する。
「さて行くか。これより、我が軍はエルフ神国を滅ぼす。皆殺しだ。行くぞ…」
アリスの目の前には大勢の人間がいる。クスノキが旅をしている間にアリスは国を手に入れた。
そして、エルフ神国を滅ぼそうとしている。
これから起こるのは戦いではなく蹂躙だ。
すべてが終わったあと国として残るのはどちらの国か。
それが、今日で決まる。だが、最初にネタバラシもつまらない。
これはクスノキが野宿をする1ヶ月の間に起こる戦争である。
主人公が入れ替わる。
いや、語弊がある、この物語は【クスノキ】と【アリス】どちらも主人公なのだがら。
まずはアリスがどうやって国を手に入れたのかから話をしよう。
次章 第4章 『神国殲滅編』
読んでいただき本当にありがとうございます!
というこで、神国殲滅編は次よりスタートです。
クスノキはしばらくお休みですね。主観は変えるとややこしいのでそのまま行きます。
勘違いしないで欲しいのが、アリスは実は裏では優しいとかありません。裏も表も大悪人です。
あの大空を凌ぐほどにね。
次回は幕間です。
星を増やしてくれるとありがたいです。
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