転生の闇
またムカデに刺された。(今年に入って4回目)
「はぁ、はぁ、あのクソガキが!」
腹から血を出して、少しづつ歩く大空。
予定と違った。本来であればアズマをボコボコにして今なおクスノキ達と戦っているはずだったのに。
1匹のありのせいで出鼻をくじかれた。
「仕方ない、少し休んで傷を癒さないと────」
その時、大空の顔めがけて矢が飛んでくる。かろうじて大空は躱わせたが、次は無い。『今のは威嚇射撃』だからだ。
「無様なものね。大空」
「……やぁ、カオリ」
運命は時に残酷だ。大空が腐王を起こす所までは天が味方していたと言ってもいい。
だがそこまでだった、ここまでの不運、今までの幸運の代償かのように埋もれるほど振り積もっている。
「あのさ、見逃してくれないか?君の事をエレシュキガルで面倒見ていただろ?」
「……大空。最後に言い残す言葉はある?無いわね?撃つわよ」
(……まじかよ。ノンストップじゃん)と大空は笑いながらも絶体絶命だ。大空とカオリの距離は10メートルも無い、この距離から彼女が外す事などありえない。
つまり、選択肢はひとつしかなかった。
「はぁ、わかったよカオリ。降伏だ───なんて言うわけねぇだろうが!!固有魔法も使えねぇ恥さらしが!いい気になってんじゃねぇぞ!!」
そう言って大空は発動する。自身の人生を表した最大の魔法を。
「固有魔法!暗い朝」
大空の傷が治っていく。この力は大空と同じひねくれた能力で『自身の状況をまるっきり反対にする能力』だ。
例えば右手を火傷して、固有魔法を使えば右手が凍傷になるという、何とも扱いにくい能力だ。
「あぁ、傷が治っていく。こういう時便利だよな、俺の能力は。さぁ行くぞ、カオリ!固有魔法が使えなかった自分をあの世で恨むんだな!!」
カオリは文字通り少し後悔する。
(最後まで分かり合えなかったな……)と心の中で後悔した。
初めて会った時?仕事を一緒にした時?その時対応が違えば今は戦わずに共にゾンビと戦っていたのかな?と。
それでも未来は決定している。大空は考えを曲げない。
だとすれば今の自分に出来ることは、この馬鹿に引導を与えてあげることだ。
「固有魔法 未来操体」
「起動。 敵対人物認識、排除を開始します」とカオリの表情が変わる。大空は知らなかったカオリが固有魔法を会得していること。
「君は……誰だ?なんだこれは!聞いてないぞ!カオリが固有魔法を会得しているなんて!」
「肯定。私は固有魔法によって生まれた新たなカオリの人格、名称不定」
大空は後ろに退く。壁がありながらも下がるしか無かった。聞いた事がない、新たな人格が生まれる固有魔法など。
異質だった。そして畏怖であり、好機だった。
(予定外だ!……諦める時ではない。カオリの固有魔法は会得してからまだ日が経っていないはずだ。だとすれば長く使っている俺に分がある!
一撃だ、一撃で全てを決める)
大空は走り出す。最速の最短の一撃で首を刈り取る。
だが、カオリの首に届く前にたった2本の指だけで剣を止められる。
大空の顔が一気に青ざめる。カオリの表情は何も変わらず右手に拳を構えた。
「憤慨。マスターの命令を遂行。『大空が自分から手を出すまでは手を出さないであげて』。対象からの攻撃を確認。殲滅を開始します」
カオリが大空の腹を殴る。1体何本折れたのだろうか?腹からボキボキと骨が織れる音が鳴る。
そしてその勢いのまま回し蹴りを食らわせて最後に手から魔力を放つ。
「─────!!」
大空は何も言えず消滅した。たった3回の攻撃で粉微塵になって消えてしまったのだ。
「終了。対象の消滅を確認。固有魔法を解除────」
(ちょっとあんた!何してんの!?大空を殺してどうするのよ!)
カオリが心の中で固有魔法に話している。他の人から見たら彼女が1人で話しているようにしか見えないので結構シュールだ。
「疑問。マスターが憤怒している理由が理解できません。牛乳は取りましたか?」
(カルシウム不足じゃないわ……じゃなくて!大空を殺したら生き返っちゃうでしょ。あいつは転生者なのよ)
カオリ?が少しデータベースを検索する。カオリには理解できない力だったが知る必要も無いのだ。
「回答。データベースからの引用、転生者は呪いによって死ねない、これは真実です。ですが、満点でもありません」
(どういう事?アイリス?)
「説明。転生者にも死ぬ要因があります。それは固有魔法で殺された場合です。固有魔法が死因の場合転生はせず無となって消えると書いてあります……それとマスター『アイリス』とは?」
カオリ?が首を横にして聞いた。
(あぁごめんなさい。あなたも名前が無いと不便でしょ?だからアイリスなんてどう?私の世界じゃ虹の女神って呼ばれてるすごい女神なのよ)
アイリスはその名を承認した。この世界で初めて『意志を持った固有魔法』が生まれる。
この事実は固有魔法の限界を大きくはね上げる面白い事実になる。
少し残念なのはその事実を当本人達が何とも思っていないところだろうか……
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