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花の頭|一紫《ほろ》露草の如く

作者: 本結瓜澄

わたしは酷く落ち込みました。手を繋げなかったからです。露のようにそれはうすく、散花のように手元に残ったからです。

あなた、と訊きなにを思うでしょう。足下でしょうか。つまさきでしょうか。あなたでしょうか。

温かい毛糸に腕を籠らせる。

春を迎えるのは あなたが袖を通したためだと思います。

 カサハニカの揺れる。

 顎が一つだ。

 あなたの街では雪が降ったという。どこでだろうか。桜の様に何なのだろうか。

 片手に指白。母の声だ。川沿いへ往くという。これ程までに指は赤いのに。ああ、沈丁花だ。あなたの髪の様よ。

 ペンを持つ。あなたへ綴るのだ。何が良いかな。届―――あなたの眼を見ると、手が進むのです。進めたくなるのです。たと―――あなたの顔が見たい。夜だ。きゃくが歩む。

 ああ、温かいですね、なぜ買うのですか? 人の前で。分かりません。

 あなたの声がする。文字を打つ。インクが乏しいのか、あなたが可愛すぎるのか、幸先を確かめ、順を確かめ、爪をなぞり。

 見上げれば岸辺の手許たいさんぼくのはな。

 学びも終える。あなたより去った。手紙が届いたのだ。あなたの名で。その手紙を池に溶かした。あなたでなかったからだ。字の形も、執圧も、姿も。

 あなたに出会った。互い窓の前をゆく。誰へもへ観られながら。あなたに見せながら。

 朝だ。いや、昼か。文字を書こう。溜め、いや、指がふるえる。何をしているのだろうか。何をしているのだろうか。花の様に美しく、句の様に、美しく、雨よどうか、降ってください。

 あなたの襟の匂いを覚える。その沿いに、お茶碗に。ああ、桜はまだか。綺麗なその髪に残らない。川を挟んで。

 凛の花だ。日の陰にさびしかろう。

 膝が濡れるとはこの事か。花穂だろうか。

 花冠だろうか。

 手紙という文字を書いた。やはり、香りがする、と書いた。小川をはさんだ岸、木屋に紙を添える。陰の中、いつでもあなたが読める様に、木の花を一滴〃とす。いつでもあなたが詠めるように。

 香りがしたのだ。

傷ついたのだ。文字がない。文字がある。傷付いた。あなたの涙がみえない。書かなければ、インクが付く、ガラスに、あなたは悪くない、どうかご自由に、あなたはきぶしの花のように凛々しく、純粋なのです。誰の指にもつめるのです。だからどうか、この垂りを見ないで下さい。


 手帳に一滴 どこまでも拡がる日の元に 窓の陰に一つ。


 あかく、あかく、足元にひろがる川眺める。指の白く。

 柿を食べよう。ひとつ、ふたつ、あれ、もうないや。最後にお水を。幸せとはこういうものか。

 川の音がする。付き添いにいるのは母か。桃の実がなっている。覚めてしまったのか。妙に居心地の悪い膝のうえで。一滴一滴木洩れ日だ。

ああ そうか この実になったのだ。故に母はこの実を大事に置いている。

 上れば一室だ。梅も無い。桜もない。人が行く。梅の葉の様だ、ぽとぽと 泣き声が聴こえる。ぽとぽとぽとぽとぽとぽとぽとぽと

何故暖かいのだろうか。冬であったのに。何故今喋っているのだろうか。何故今喋っていないのだろうか。

 四ツ葉に花。あれは何だったろうか。人は居ないのだろうか。

 四ツ葉に花。声をお掛けになる。葉のしょくはいかがですか。声を発せられないのです。窓が綺麗だ。

 梅の匂いを嗅いでいる。指元にあるのだ。壁の先に。

 香りは素敵だ。それと同時に葉の音が響く。判っている。靴は列んでいる。

 どれ程空はきれいだろうか。何故枝は揺れていないのだろうか。

母だ。大事そうな手の平には栗だ。髪飾りを見付けたのだろう。その手の平に。

 沿いを行く。串し玉を沿える。布と共に。名前を呼んだ。桜待ち月の元に。

 明かりが綺麗だ。高らかに呼ぶ声とはこういうものか、笑んでいる。初めての様だ。


 沿いを行く。あなたと靴紐を溶かしたばかりだ。陽はついばみ、あなたの陽、歌を謳う。

 愛と、辞書を。

 悲しい事も起こるんだね。あなたは言った。当たり前の様に折れた。


 涙・声・眉・立・行・去

 裾を捲る。今朝は届いている。机に日だ。

 写真立てにはあなたの筆、その写真だ。また揺れた。

 失ったものは一つではない。数えたものも一つじゃない。この円はなんだろうか。

桜餅の何と綺麗なものだろうか。

 空木の花を見つめる。空木の花を見つめる。餅の甘いことよ。

 十薬の葉の下をくぐる。爪がつかり、花弁が風落ちる。跡の雫持ちかえれば、名を呼ぶ声である。

 帰る声である。

 傷を負い、赤は茶し、茶は黒し、あなたの顔は茶し、桜の色は瞳前に。

 花を摘みにいく。荷台の向こうである。髭の手刷りを伝い、列車に指切る。

 綺麗なつぼみがいっぱいだ。何故人と呼ぶのだろう。

 蘆の花に転ばせ昼の月を差す。中央にいるみたいだ。足の震えるこの影は 塔の声だ。

何をしているのだろうか。冠が散ってゆく。

 冠だ。茶の肩にほろりほろり散ってゆく。あなただろうか。それとも、母だろうか。花の寄せるその黒にティーカップが掠れる。

指が白く、頬も白い。

あなたの姓を呼ぶ。ティーカップが震える。花がかすむ。

昼の時針が鳴る。

あなたが起立する。

ほほを寄せる。

花冠に茎が挿す、笑う。

ぼくが、走る。

八手の花が香る。

靴を踏む。

靴が流離う。

指が燻る。

耳が赤む。

好きです。

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