世界にひとりだけのバグ
良いなぁ。
自分は履歴書になるステータス画面が欲しい。
自分は忘れっぽい所が有るから、まとまった自身のデータを確認できるって素晴らしい。
ある日、世界は少しだけ変わった。
人によっては生きやすく。
人によっては生きにくく。
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その変化は突然だった。
ある日の事。
ネット掲示板に、また胡散臭いスレッドが立った。
現実で“ステータス”が表示されるようになったと主張するスレッドタイトルで、最初はネット掲示板ではよく見かける、妄想スレッドだと見られていた。
もちろんスレッド主が何を言おうとも、そのスレッドに集まってくる連中は真に受けず、茶化すばかりだった。
だがしかし。
そこのスレ主があまりにも必死に、お前らもやってみろよ! と一貫してネタではないと主張し続けていたので、一部の者が冗談半分で試してみると書き込んだ。
結果、本当に出来てしまった。
だがまあ、ネット掲示板ではネタに便乗して騒ぎだすやつなんてのが当たり前に存在するわけで、容易にすぐさま信じられる事は無かった。
それでも興味を持つやつが少しずつ増え、試してみると宣言した連中もステータス画面がでたと一緒になって騒ぎだす。
その流れが徐々に大きくなり、ネット掲示板だけでなく各種のSNSでも同様の流れが発生し、世に知られることとなった。
なお研究の結果『ステータス表示』だと自身の視界にのみステータス画面が映り『ステータス開示』だとステータス画面が他者にも見られるようになると判明した。
ステータス画面に表示されるのは、ゲームみたいな数値やスキルではなく、人生の履歴書みたいなもの“だけ”だった事には一部の界隈にがっかりされた。
だがそのステータス画面には学歴や資格取得履歴“も”嘘偽りなく表示されるので、いつしか面接時に履歴書と違うところが無いかを面接者に開示してもらい、面接官が確認する慣習が出来ていた。
なおステータスに表示されるのは履歴書然としたものだけでなく、大雑把な犯罪歴や、人生で褒められた事や叱られた事や注意された事等の履歴なんてのもあった。
このステータス画面の発見により、人類は少しだけ善良になった。
犯罪を隠せなくなったので、抑止力になったとも言う。
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………………のだが、ここにひとり。
悩める男子学生が居た。
「どうして……」
まだステータス画面の存在が、世に広く知れ渡る少し前の頃。
教室でステータス画面について話しているお調子者学生達がいて、それを男子学生が聞きつけた。
「ふーん。 じゃあ、やってみよ」
なんて、軽く試してみたのがきっかけ。
彼は自室へ帰って後は寝るだけの万全な状態になってから「ステータス表示」と口にしてみたら、本当にステータス画面が出てきた。
「…………ん?」
でも彼のステータス画面には“なし”の文字だけが踊っていた。
「なんだコレ?」
そんな声が出るのも仕方がないだろう。
名前の欄も“なし”。
学歴の欄も“なし”。
どこの欄を見ても“なし”ばっかり。
「どうして……」
と男子学生は頭を抱えるしかない。
と言うかこの彼はなぜ“なし”しかないステータス画面で、この程度のリアクションしかしないのか。
それは彼が飛び抜けた不幸体質だからに他ならない。
彼のやること為すこと全てに不運がつきまとう生活で、既に心が擦り切れているからだ。
それで男子学生が頭を抱え終わり、ステータス画面に向き直ると変なメッセージが表示されていた。
“今回は不手際によりあなたのステータス画面が正しく表示されないバグが発生してしまいました。
発生を確認したのはあなただけです。
申し訳ありませんが、当ステータス所持者本人による直接入力をお願いいたします”
勝手かつ巫山戯たメッセージだった。
とっとと修正しろよと言いたいが、そこではたと思いつく。
これ、都合のいい事を入力すれば、それが自分のステータスになるんじゃないか?
そう思ってしまった。
これで都合の良いステータスに書き換えてしまえば、今までの不幸を軽く吹き飛ばせる様な、不幸なんかで揺るがない万全な背景を武器を手にできるのではないか。
そう思ってしまった。
今まで不幸ばかり味わってきたんだから、これくらいしても誰からも悪く言われないのではないか。
そう思ってしまった。
緊張からか、無意識に音を立てて息を飲み込む。
震える手で“なし”の部分をタッチすると、浮かび上がる入力画面。
画面の隅には、見慣れたスマホのフリック入力ウインドウまである。
――――モードを変えるとキーボード入力方式も出てきたけど、なれているフリック入力にそっと戻した。
その画面で文字を入れると、連動して“なし”だった部分にも同じ文字が表示される。
彼はいつの間にか、脂汗を盛大にかいていた…………。
…………。
………。
……。
男子学生は結局、覚えている限りで正しい情報を入力していた。
彼は経歴詐称をするには、善良過ぎる人間だった。
その入力が終わると、いきなり謎のファンファーレが鳴る。
驚く彼だが、そんなのを他所に新たなメッセージ画面があらわれる。
“偽りの無い入力、ありがとうございました。 バグだというのは嘘で、本当は無作為に選んだ複数の対象がどう入力するのかを調べる実験でした。
現在は他の皆様と同じく、詳細なステータスを確認できる様にしております。
偽りの無い入力をして下さった方には、今後の人生が多少有利になる便利な機能を付与いたします。
改めまして、調査にご協力頂きありがとうございました。”
驚いたままでも、なんとか文章を全部読むと、急な眠気に襲われた。
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目を開けると、いつもの起床時間になっていた。
それと同時に不思議なことだが、自分の変わった所も認識していた。
自身が昨夜の出来事で得た機能の正体と使い方が、ハッキリと頭に刻み込まれているからだ。
その機能を簡単な言葉で言ってしまうと、イヤンでウフンなゲームや漫画に出てくる、都合のいい情報が見える機能。
そして不幸体質がラッキース○ベ体質へ書き換えられた。
今まで不幸体質には散々悩まされていたが、今度は違う意味で不幸になりそうだと、深く深く頭を抱えた彼だった。
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蛇足
世界にひとりだけのバグ?
ひとりだけではなく、無作為抽出で選ばれた人達(人数は未設定。 多分統計学で信用できる数は試行したと思われる)の内のひとりってだけだった。
が、わざとひとりだけと表記すれば、他の人には言わなければ絶対に分からないだろうと、本性を引き出しやすくする罠として表記している。
もらえる特典
人によってバラつきがある。
余計なお世話とかがあるかもだけど、その人にとって必要と思われる機能が搭載されるとかなんとか。
ステータス画面
ステータス画面の呼び出しは“日本語なら”ステータス表示とステータス開示の2種類。
各言語に対応。
表示で自分だけに見える形で。
開示でみんなにも見える形で。
自らの魂に刻まれた情報が表示されるので、原則的に嘘偽りは表示されない。
ステータス表示はカスタム可能で、必要な情報だけ取り出したい時も簡単操作。 それぞれが思う使いやすい方式で操作可能。
なお開示する時には、罪歴を隠せずに絶対開示される。
下手するとスケジュール帳の業界が一気にピンチになるレベル。
恋人から今日は何の日? とか訊かれた時に、なんの記念日だったかを確認するのにも便利。
その魂が歪んでいる場合は、記録にないはずの情報が表示されたりするが、それはその情報が正しいと当人が本気で思い込んでいる証。
そんな場合はステータス画面の背景色が暗く濁っており、まともな精神を持っていないと読み取れる様になっている。
なおアハンウフン的な裏ステータスも密かに存在し、それを知った者はバレるのを隠そうとして、まず話題にしない。
男子学生が得た機能
体質は言うまでもないので割愛。
上記の裏ステータスの一部を簡易表示として、人間の周囲に強制表示して認識できるようになる機能。
設定により表示するものは変更可能。
例えば、頭上に〇〇した回数とか人数とか。
一言で今、何を考えているのかとか。
ムラムラゲージとか。
そんな、ある意味しょーもないやつ。
もし嘘偽りの履歴を書いていたら
ステータス画面の背景色が一気に暗くなる。
ステータス表示でも、開示になる。
当人には不都合な情報が隠せなくなる。
以上が、主なモノ。
主人公みたいに何か体質があるなら、それをマイナス方向へ作用するよう、書き換えられたり。
そもそも消されたり。
そんなのもあると報告がある。




