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人間と「人間」

作者: 蘭

ことの起こりはこうだった。

タイガの森の奥深くにある小さな町で、人々に次第に変化が現れた。

人々は感情を失い始め、この町に普及した情報処理端末に没頭するようになった。

この町は変わってしまったのだ。

この町の人々の心の中は、いつしかスマホ、パソコン1色になってしまった。

情報処理端末の情報を信じ、その内容通りに行動するようになった。

カフェや公園で会話する人々の姿を目にする機会はなくなり、様々なアプリや、画像・動画投稿サイトが人々の生活空間となっていた。

アプリがまるで会話や相談相手かのように。

サイトのフォロワーや「いいね」がまるで命かのように。

この町では、フォロワー数や「いいね」の数で、人の価値さえもが判断され、ランク付けされるようになった。

人間が情報処理端末へとのめり込み、周りが見えなくなっているこの状況を、誰一人として客観視できる人間が残っていなかった。


このようになってしまった背景には、AIを研究している組織が大きく関わっていた。

国際的には研究成果をあからさまに公表することは無く、世間の人の目につかない陰で、AIの研究を推し進める組織であった。

彼らはAIが人類のためになると信じていた。

そもそも研究が始められたきっかけは、人間の心理的な不安を解消することにあった。

困ったときにどうすればいいか、的確なアドバイスをくれるアプリの開発。

それが研究目的であった。

しかし、アプリにAIが導入され、どんどん進化するにつれ、人はアプリへと依存し人としての自己を見失っていくことへとつながってしまったのだ。

研究に夢中であった組織の研究者たちには、人が人間らしさを徐々に失いつつあることに気がつく余裕などなかった。

AI技術のさらなる向上のみが彼らの目的となっていた。

研究者たちは完璧なAIを求め続けた。


そして、ついに彼らが言う「完璧なAI」が完成した。

人々から不安を完全に無くし、人々を幸せに導くAIの完成…のはずだった。

そのAIをロボットに導入したとき、完成の喜びとともに、我に返った研究者たちはAIが人類を超えたと悟った。


そして数年後、ある旅人がこの町を訪れた。

旅人の目には、平和で何気ない日々を過ごす人々の姿が映っていた。

公園ではしゃぐ子供たち、賑やかな話し声の聞こえるカフェ。

旅人がこれまでに訪れたいくつかの町と変わらない風景だった。


人は笑い、幸せに満ち溢れ、感情を取り戻したと思われた。

一人一人が自己を持ち、自分の考えを持ち、そんな人間に指示を出された無表情のロボットが行き交う、ごく平凡な町へと戻すことが出来たと思われた。

だが、人々は感情を取り戻してなどいなかった。

幸せに満ち溢れた人々とは…。

それは進化したAIロボットだった。

それは感情を持ったロボット、ロボットが持つことは無いとされていた感情を持ち出したのだ。

街を行き交っている無表情のロボットたち、いや、その無表情のロボットこそがこの町で暮らしていた「人間」だったのだ。

AIが人類を超えた。


タイガの森の奥深くで起きた変化、遠く離れた町の変化、自分とは無関係な事件…?

果たしてそう言いきれるだろうか。

今一度、自分の周りの人間が、「人間」であるかをご確認ください。

もしも自分たちが完全にAIに支配される前に何らかの変化に気付けたとして、それを防ぐ事は容易なことなのだろうか。

この町のように、なんの前触れもなく、あなたの町にもAIが人類を超える日がやってくるかもしれません。

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