01 プロローグ〜異世界召喚〜
不自由なく生きることの何がいけない?
自由気ままに生きることの何がいけないというのか。
真夏の昼間でも、文句一つすら許されずに働く一般社会人からすれば、文句の言葉以外ないだろう。
エアコンがガンガンと効いた一室の中で、俺は今日もダラけながら生きている。
生命の活力が溜まりに溜まっている今の俺なら何だってできそうだ。
別に変な意味ではないよ?
普通に資格の勉強に励んだりとかそういう話だからね?
とにかく、そんな生命の塊がなぜこうもダラけて生活を送っているのか。
単純な話、やる気が出ないからだ。
漫画を読む気力はあるのに、なぜ教材を読む気力はないのか。
以前に親からそんなことを言われた気がするが、遠い昔のような気がする。
高校生から大学生に進級しても、何も変わらない毎日。
変わったとするなら、周りの環境ぐらいだろうか。
大学生になると、バイトを始める奴がなぜか多くなっていく。
こんな猛暑日の中でも、我が友たちはバイトの日々に明け暮れているのだろう。
だからと言って、バイトを始めようとかそういう話ではない。
ただ、大学が夏休みに入り、暇で暇で仕方がなかったから考えていただけだ。
「あ、読み終えた・・・」
気にいっていた漫画が最新刊にたどり着いてしまい、次巻が読みたくなる焦燥感に駆られてしまう。
長い夏休みは始まったばかりなのに、俺の生命エネルギーは無事保つだろうか?
まあ、何もしてないけど。
「新しい漫画でも読むか・・・」
夏休みに入るなり、俺は毎日のように漫画喫茶に入り浸っていた。
冷房が効いていて、漫画の品揃えも良好。
それに何より、働けと口うるさい親の声を聞かずに済むから。
俺の落ち度ではあることは理解しているが、やる気のない人間にやる気を出せと言っても無駄なことに早く気がついて欲しい。
まあ、親のすねをかじりまくっている俺が言える立場ではないが。
「さてと、漫画取りに行くか」
最近の漫画喫茶は、防音完全個室が完備されていて大変素晴らしい。
それに加えて、部屋には一台のエアコン。
快適な空間で漫画を読むことができる天国と言っても過言ではないのだが、部屋に五冊しか漫画を持ち込めないのがやはりマイナスポイントだ。
こうして、わざわざ漫画を取りに行くのはかなり面倒くさい。
それぐらい我慢しろと言われたら、まあぐうの音も出ないな。
そして俺は、再び漫画あさりの旅へと出かける。
ちなみに、俺の好きなジャンルはチート系だ。
とは言っても、ただ無双するだけのチートではなく、迫害されてざまあな展開に持って行くチートが好きだ。
だから俺の旅先は常に決まっている、「チート系」が収束するコーナーだった。
というか、俺はそれ以外のコーナーを知らない。
「何か面白そうなタイトルはないものか・・・」
どれもマイナーなものばかりで、興味が惹かれるようなものがない。
アニメ化したチート漫画よりも、アニメ化していないチート漫画の方が楽しみながら読むことができる。
だから、名の知れていない漫画を手にしたいのだが、すでに貸し出し中なのかマイナーなものばかりが本棚に取り残されている。
「仕方がない、久しぶりに違うジャンルのを読むか」
チートコーナーから離れようとする俺の頭に一冊の漫画が落ちてくる。
まるで、読んで欲しいと言っているようだった。
漫画を拾い上げ、俺が最初に思ったことはーーーー。
「ったく、ちゃんと本棚に戻せよな・・・。でも、まあ何かの縁だろう」
他の利用客にケチをつけながらも、俺は漫画のタイトルを確認した。
そこには、比較的新しい文体で「害悪勇者」とだけ書かれており、いかにも自分好みの漫画臭が漂っていた。
「これ面白そうじゃん!自室のPCでどういう本なのか調べてみよう」
こういうマイナーではない漫画は、取り付けられている自室PCであらすじを確認してから読むのを勧める。
そうした方が、世界観が簡単に把握できるからだ。
世界観を把握しながら読んだ方が、面白く読めると言った利点がある。
だから俺は、その漫画のあらすじを自室のPCで確認するまで開かなかった。
我ながら、キモい鼻歌を歌いながら自分の個室へと戻っていく。
さて、「害悪勇者」とは一体どんな漫画なのだろうか。
漫画喫茶に置かれているPCの「漫画検索機能」を使って、俺はすかさず「害悪勇者」と打ち込んだ。
「害悪勇者」・・・タイトルの通りで、勇者が迫害もしくは追放からスタートする漫画なのか?
もしそうだとしたら、いいではないか!
期待に胸を膨らませ、俺はエンターキーを力強く押した。
「・・・は?どういうこと?」
しばらくしても、俺には理解できなかった。
漫画検索機能に「害悪勇者」に該当する作品が存在しなかったからだ。
もしかして、新しく入荷したせいでまだ登録の方が終わっていないのか?
だとしたら、店員さんに返した方がいいよな。
未登録の作品を読みたい気持ちがないわけではない。
ただ、なんとなく気が引けただけだ。
そして、俺が「害悪勇者」の漫画を返却しようと席から立ち上がったその時ーーーー。
「な、なんだ!?」
PCから見たことのない色の光彩が、部屋全体を包み込む。
その不可解な光景を最後に、俺ーーーー成宮剣二の意識はこの世界から遠のいていった。
初めに読んでいただきありがとうございます。