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旅立ち

「さあ勇者よ! 魔王を倒すために旅立つのよ!」


 どんどんどんと、ドアが叩かれたので出てみたら魔王の娘が仁王立ちで立っていた。


「お前、魔王の娘だろ?」


 コウモリのような悪魔の翼。

 羊のような丸まった角。

 服は着てないが体の大部分は黒い鱗で覆われている。

 

 目の前にいるのはまごうことなき魔王の娘だ。


「そうよ! 魔王の娘よ! 勇者が転生してきたという情報を聞いて、ワクワクして待ってたのに一向に魔物を倒したという話を効かなかったから、調べたら旅にすら出てないと言う話じゃない!? だから、あたしが直々に旅の手伝いをしてあげるって言ってるのよ」 


 ルビーのような赤い瞳をぎらつかせながら、まっすぐに勇者を指さす。

 その元気いっぱいな魔王の娘と真逆に、勇者は気だるそうにダルダルのシャツの中に手を入れて体をぼりぼりと掻く。


「俺は別に魔王退治とか興味ないから……帰ってくれ」


 勇者は素っ気なくバタンとドアを閉めた。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 部屋に戻りベッドに寝転ぶと、魔王の娘はドアを開けずかずかと部屋に入ってきた。


「何だよ? 戦いがしたいなら王国軍やら冒険者がいるだろ?」


 やる気なさそうにあくびをしながら答える。


「ダメよ。あんな弱っちい連中なんて下級魔族で十分じゃない。魔王を倒すなら転生者のように無茶苦茶な能力を持つ者じゃないと話にならないわ」


「は? 魔王直属の四天王と王国軍の精鋭、それと上級冒険者で拮抗しているって聞いてるぞ。実力が同じだからお互いに手を出せないともな」


「だーかーらー。それじゃダメなんだってば! 魔王を倒してもらわないと困るの」


「なんで魔王の娘のくせに、魔王を倒してもらわないと困るんだ?」


 率直な質問に魔王の娘はぐっと声を詰まらせる。


「あ、あたしがつまらないからよ。お互いにバチバチと戦ってもらわないと面白くないじゃない」


 どことなくそわそわして視線を宙に舞わせながら答える。


「よくわかんねーけど、お前のワガママに付き合うつもりはないから。俺は平穏に暮らしているのが一番だしな」


「ぐぬぬ。どうしても魔王退治にはいかないつもり?」


 勇者は無言でこくんとうなずいた。


「それなら次の手よ。あたし、この部屋に住むことにするわ」


「はぁ!? なんでそうなるんだよ」


「勇者が魔王退治をしたくなるまであたしが指導してあげるわ。……それにしても汚い部屋ね」


 魔王の娘は部屋を見回す。

 本や日用品が転がり食べた後の弁当の箱だの丸めたティッシュなどが積み上げられていた。


「あ、言っとくけど、あたしを襲おうとしちゃダメよ。これでも魔王の娘。結構強いんだから」


「しねーよ! ってか、なんで俺の家に住むことになってるんだよ。こんな狭い部屋に二人も住めるか!」


「大丈夫、大丈夫。あたしは多少部屋が狭くても気にしないから。むしろ人間の部屋に住めるなんてワクワクするわ」


「ふざけんな。俺の優雅な一人暮らしを邪魔すんじゃねー」


「こんな汚部屋に住むよりかわいい子と綺麗な部屋に住んだ方がいいでしょ? こう見えても料理や掃除とか家事全般が得意なのよ?」


「かわいいって自分でいうかね……。まあ、確かに家事をしてくれる人がいたら助かるけど……」


「じゃあ決まりね。あたしの名前はアニムス。これからよろしく」


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ 


「おい、アニムス。起きろ」


「んー?」


 翌朝、アニムスが眠たげに目をこすりながらベッドから起き上がると、勇者が旅の支度を整えて立っていた。


「なんで、そんな格好してるの?」


「やっぱり、お前と一緒に住むのは無理がある。仕方ないから魔王退治にいくことにした」


「はぁ!?」


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