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ロストプロミス  作者: お餅。
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-1話 知らない名前-

 僕が気付いた時には、自宅のベッドの上だった。

 ハッとして周りを見回すと、自分の(かたわ)らで全く見覚えのない一人のハスキー獣人が僕の椅子に腰掛けたまま眠っていた。

 続けて窓の外を見たら、既に日はすっかり落ちていた。

 …今の僕の状況を整理しよう、うん。


 まず僕自身の事。

 僕は氷鉋(ひがな) 珠生(しゅう)、ハチワレ模様の猫獣人。縦浜(たてはま)市立 獣坂(けものざか)学園高校に通う二年生…うん、思い出せる。

 そもそもここが自分の部屋である事も解ってるんだし、それは大丈夫か…

 だとすれば、だ。

 僕がここで寝ているのに、すぐ横で知らない人が、まるで病院で倒れた家族が起きるのを待つのに疲弊(ひへい)してそのまま寝てしまったかのようにしている。


 ちょっと怖いが、起こしてみようか…

 僕がそーっと手を伸ばしたその時、そのハスキー獣人が目を開ける。

 僕は少しビクッとなって、元通りの姿勢になったが…

 「あれ…シュウ、もしかして目が覚めたか…?」

 「え、っと…」

 相手から突然名前で呼ばれて僕は戸惑う。

 当然だ、見ず知らずの相手に名前を知られていたんだから。

 そのまま戸惑っている僕を見て続けて相手が話し始めた。

 「シュウ…大丈夫か? 頭痛かったりとか… そうだ、俺が判るか…?」

 まくし立てるように喋る相手に、僕は少したじろぎながらもゆっくりと話し始めた。

 「ちょ、ちょっと待ってください…そもそもここは僕の部屋で、どうして知らないあなたがここに…?」

 僕がその彼を見る不審な目を理解できないといった様子で返事を返してくる。

 「落ち着けシュウ、俺だって。 鋸本(おがもと) 宗哉(そうや)だよ…」

 オガモトソウヤ、その名前を思い出そうと僕は自分の友達の名前を片っ端から思い出そうとする。


 しかし、だ。

 「僕の、友達…」

 必死で思考を巡らす。

 でもオガモトソウヤなんて名前に聞き覚えは無かった。

 他の人の名前は思い出せるのに。

 となると、この人物は一層怪しい…


 だが色々考えていて気付いた、このオガモトが着ている服。

 よく見たら獣坂高校の制服だった。

 いつも自分の制服を壁に掛けている場所を見る、だがそれがなくなっているワケではなかった。

 となると、ますます疑問だ。

 「質問をしても良い…ですか?」

 「ああ、もちろんだ… シュウの質問なら何でも答えるぜ」

 「それじゃあまず…僕の母さんはどこにいる?」

 「それなら、シュウの事を俺に任せて下でご飯作ってるぜ?」

 「そ、それじゃちょっとここで待ってて!」

 「え、ちょっとまだ起き上がんない方が良いって!」

 僕は急いでベッドから出て、オガモトの制止を振り切って下の階へと降りていく。


 「母さん!」

 「あら…シュウ起きてきたの?」

 「う、うん…」

 「ソウヤくんは、まだ部屋にいるの?」

 「え…?」

 母さんがあの彼の名前を知っていた。

 「ソウヤくんよ、シュウが起きてから話をしなかったの?」

 「あ、えっと… ちょっと話してくる!」

 僕は急いで元の自室へ戻る。


 「オガモトくん…!」

 「おう、ど、どうしたシュウ?」

 ドアを勢いよく開けてそのまま尋ねると、少し驚きながら彼が反応する。

 「あなたと僕は、どういう関係ですか…?」

 僕のその言葉に、オガモトくんがハッとなる。

 「もしかして…俺のことが解らないのか…?」

 「どうやらそうみたいで…本当にゴメン」

 僕は軽く俯きながら謝る。

 「オガモトくんは母さんとも知り合いっぽいから、教えてほしい…」

 そう言うと少し悲しそうな顔をしながら話し始めた。

 「俺とシュウは昔からずっと近所に住んでて…まぁ要は幼馴染でよく一緒に遊んでたんだ…」

 「幼馴染…」

 僕はそう聞いても少し信じられなかった、だってそれが本当ならば相手の事だけを綺麗に全部忘れてるんだから。


 「…あ、そうだ! シュウは、シュウ自身の事は覚えてるのか?」

 彼がふと思い出したように話す。

 「そ、そうですけど…」

 「じゃあ、俺以外の部活のメンバーとかは?」

 「部活って…ボードゲーム部のメンバーの事ですか?」

 「そ、そうそう!」

 「それなら僕以外の三人全員名前覚えてますけど…」

 「四人じゃなくて、か…?」

 そう言われて僕は勘付く。

 「それって…もしかしてオガモトくんも部員なんですか?」

 「そう…俺はシュウに誘われて入ったんだよ…」

 またも悲しそうに、そしてこぼすように言う。

 「一年の時、俺が入る部活で悩んでたとこでシュウが誘ってくれてさ…すごく嬉しかったよ」

 その話を聞いていると僕は、なんだかよくわからない不思議な感覚だった。

 だって自分の知らない相手が、さも昔から僕の事を知っているかのように話しているんだから。

 まぁ実際は本当に知っているんだろうけど。


 そこでふと思った、僕の事を知っているならばいくつか問題を出してみよう。

 「僕のフルネームは?」

 「え、ヒガナシュウだろ?」

 「僕の誕生日は?」

 「10月14日、毎年祝ってるから覚えてるぜ」

 「僕が通っていた中学の名前は?」

 「俺と同じで尻尾(しっぽ)(おか)中学校な」

 「…僕の幼稚園の頃のあだ名は?」

 「よく泣いてたから、泣き虫ひーちゃん」

 「…全部正解だ…」

 そう、確かに全て合っていた。

 ということはだ。


 「…疑ってゴメン、信じる事にするよ…」

 「俺以外の事は全部覚えてる…って事なのか?」

 「うん、どうやらそうみたい… オガモトくん、これからよろしく…?」

 先程大いに疑った申し訳無さを若干感じながらおずおずと自分の右手を差し出す。

 それを見てオガモトくんは一瞬キョトンとした顔をするが、すぐにニッと笑ってその手を握り返す。

 「あぁ、よろしくなシュウ!」


 少しの不安と大きな謎が残っているが、今は気にしない事にした。

 その後は二人で示し合わせて夕飯時の会話を乗り切った。

 そしてオガモトくんはそのまま家に帰り、僕らは次に学校へ行く時にまた会う事にした。

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